生存率が2割を切る乙女ゲーに社会不適合者がトリップしたら
五百夜こよみ
α=社会不適合者は死にたくない
「あなたは地獄行き。あら、あなたも地獄だわ…」
引きこもりな私にとって、外に出た最近の記憶は数えるほどしかない。
その最新の記憶が、冒頭の頭のおかしな女性である。
年は30代ぐらいだろうか、一見女性は優しげで親しみやすそうなのだが、周囲の人々を指さし、「ここには地獄行きの方しかいないのね」と困ったように首をかしげているその様は、完全に頭をやられている。うさん臭さと怪しさに満点を上げたい。
当然の如く、私は視線をそらし、周囲の人ごみに自身を紛れさせようとした。
しかし、敵はさる者。気弱そうな私をターゲットに決めたのか、足早に近付いてきた。右手を掴まれた時、思わず「ひっ」と声が漏れる。
「あらあらあらあらあらあら」
じろじろと私を見た後、女性は口元に笑みを浮かべながら、
「どうしてあなたがここにいるのかしら?迷子?いいえ、これこそ神のお導き」
まるで私のことを知っているみたいな口調ですけど、初対面ですからね?
というかここには迷子しかいないんですけど?皆人生という名の道から外れた迷子たちだよ???
なのに、何で、何でよりによって私?
気が弱そうだからか?!
そうだよ、臆病者だよ!
拒否もできず、「あ…あ…」って某顔がない人みたいになってるよ!
「そうね、少し私とお話ししましょう」
嫌だーーーーーーーーーー!!!!!!!
顔は笑っているのに、目は怒りに燃え滾っている人間と話しなんかしたくないんじゃーーーーー!!!!
そもそもこの人何に怒ってるの?ここにいる人々が地獄行きばっかだから?それとも私が一向に口を開こうとしないから?
私は必死になって周囲を見渡すが、周囲の人間も私たちに関わるまいと存在を消そうとする。
学校の教室ぐらいの大きさのホールに、30数名いるのに、私の腕をつかむ女性以外、誰も話そうとしない。
これだから社会不適合者どもはろくなやつがいないんだ!!!
私は真っ先に自分を棚に上げ、心の中で地団太を踏んだ。
助けてくれる人間などいるわけがない。
なぜなら、ここには他者を助けるような心の余裕を持つ人間など一人もいないからだ。
そう、ここは社会不適合者たちが集まるじごk…センター。
社会不適合者たちをVRを通して、社会復帰を促すという、VR復帰支援センターの一室である。
今年から国で政策が決定され、都内で試験的に運用が始まったばかりである。
そのため、センターの職員は手探り状態で、栄えある第一期生である私たちは一時間もこの一室に放置されている。
男女別にわかれているのか、この一室には老いも若きも女性ばかりで、皆所有物は何一つ持っていない丸腰状態だ。
政府からは私物の持ち込みは一切禁止されていたはずだ。
禁止されていた、はずだ…。
私は目の前の女性から、どこから取り出したのか、無理やり押し付けられた一枚の紙を受け取る。
その紙に目を落とした瞬間、「ふひゃぁ…」と生きてきた中で一度も出したことのない乙女丸出しの泣き声を上げてしまった。
紙一面に書き綴られていたのは、
< 死 >
うわーん!この人を第一期生に選んだ政府は正気??
この国の行く末が心配になってくるよー!!
国家の闇の一部に触れてしまい、ガタガタと震える私を、微笑ましいものを見るような慈愛に満ちた表情を向ける女性。
その光景を見てしまった周囲の女性たちの数人が泣き出す始末。
状況が混沌としてきた時、突然、室内に取り付けられていたスピーカーから異音がした。
・・・ 準備が整いましたので、第一期生は指定番号のVRポッドの中に速やかに入ってください。繰り返します。第一期生は指定番号のVRポッドの中に速やかに入ってください ・・・
室内の人々を取り囲むように設置された楕円型のVRポッドの上部の扉が音を立てて開かれる。
中は青白い光に包まれており、人一人横になれるような広さがある。
ポッドの外面にはどこにも窓がなく、外から内部を伺えないようになっているが、おそらくポッド内に設置された小型カメラやセンサーとかで、監視室にいる職員たちが一人一人の状態を逐一確認できるようになっているのだろう。
周囲の同期たちは救いの手に一斉に飛びつき、私もほっと安堵の息を吐いた。
腕を掴んでいた女性の力も抜け、今がチャンスとばかりに私は女性から距離をとる。
自分の番号のポッドを探し、見つけた時は思わず「やった!」と声を上げてしまった。
引きこもりはどうしても独り言が多くなる傾向にあるから、余計なことを言ってしまうよね。
喜びの声を上げてしまった私は、女性の反応が怖くなり、後ろを振り向かず、急いでポッドの中に入ろうとした。
「そこはあなたの場所ではないけれども。神がそれを望むなら。
ええ、あなたに科せられた使命があるのだとするなら」
ポッドに横たわる私を見下ろす女性。
早く!早く扉を下ろしてくれ!!
扉の開閉は全て監視室にいる職員の仕事なので、私の鼓動は早まるばかりで、嫌な汗が全身から噴き出る。
絶対、監視室の私のストレス値は異常値を叩きだしているはずだが、職員は誰も来ないし、扉は開きっぱなし、女は笑みを浮かべて私を見るばかり。
事前説明であった「ストレス値が危険域に達したら、すぐさま職員が駆けつけます」という話が、歯医者の「痛かったら右手を上げてね。すぐにやめるから」並みの嘘であることが判明した瞬間である。
ゆっくりと顔を近づけてくる女の笑顔は仮面のように張り付いている。
ポッドの中で体を固定され、私ができることは顔をそらすことだけで、あまりの怖さに視界が潤みだす。
早く閉じて早く早くはやく!!!!
女のじっと私を見る目が怖い。
笑みを絶やさないのが怖い。
どうして私なんだ。
他にも人はいるのに!どうして!!!
「死命を果たすの」
ふざけんなふざけんなふざけんな
なんでなんだ、他の奴だっていただろうが
なんでおればかりなんでなんでこんな目に
なんでなんでなんでなんでなんでんでなんだんだなんdんsえlvぁosくら
死にたくない
[ error !!!!
no.33 が 危険値を超えました。
一時中断しますか? ]
[ yes or n……… ]
[ …y…o………error ]
[ ……………………eeeerr ]
[ ………………………… delete ……
………GM死神により、原因は取り除かれました………
no.1 から no.32 は正常値を保っています …… ]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます