08 神様からの依頼
「ねぇ、もしかして……」
「おはなし、してきてほしいんだよね」
「やっぱりぃー!?!!?」
さわさわとそよ風そよぐ楽園に轟き渡るオネェのダミ声。
……思わず一句読んじゃったじゃないのよ。
心なしかエコーがエンドレスでリフレインしてるような気がするわ。
何を言ってるのかって? あたしにもさっぱりだわ。
「だーってさぁ、せっかくこうして君に出逢えたのもなにかの縁だし、記憶もそのまま帰らせる迷い人なんてまずいないんだから逃す手はないよね」
それに君なら暴走する心配もなさそうだし、とニコニコしながらようやく肩を離してくれた。
んもう。鍛冶神様ならともかくショタにさわられたってちっとも嬉しかないわよ。
「どういう意味よ」
「そのままだよ。己を通す強さを持っていて、真面目で責任感もあり、気遣いもできる」
「や、やだそんな誉めてもなにも出ないわよぉ」
「なのに根は小心者」
「ちょっと!! 上げて落とすのやめて!?」
「だから裏切れないし恩義には筋を通す、逆にそうしたことを平気でする者や、他者に迷惑をかける行為を好ましくは思わない。どう?」
「……悔しいけどその通りよ」
この短い時間でどうしてそんなにあたしのことわかるのかしら。正直怖いしキモい。
胡乱な目付きでそのまま口にすれば、「神様ですから」とまたまたにっこり。
胡散臭いことこの上ないわね。
「それでね、君にはこちらの希望する品を収集するついでに、落ち人に会ったら話をしてみてほしいんだ」
「え、ついで程度でいいの? さっき言ってた自称勇者のコとか、困ったちゃんを率先して探してこいってことなのかと思ったんだけど」
頭の中の中学二年生が大暴れしてる
そう疑問に思っていると、ショタ神様は深く溜め息をついた。
「彼ねぇ……実は落ちる前に一度、ここの者と接触しているんだ。まぁ説得も聞かず喜んで落ちていってしまったんだけど」
「そうだったの!?」
さっき鍛冶神様が言ってたアレね。嬉々として落ちちゃう系の困ったちゃん。
中でも彼は、運良く(悪く?)特殊な力を得てしまったが為に、魔王の存在を知るや「俺が魔王を倒す!」と宣言し、周囲の声も聞かず随分とはっちゃけてしまっているんだとか。
「彼のことは、その時止めきれなかった者が監視してくれているんだ。居場所も行動も全部」
「それなんて罰ゲームよ」
「罰なんて与えていないよ。落ちた後の彼の行動を聞き、引き止めきれなかった償いにと、自らやってくれているんだ」
「たまたま見つけちゃったばっかりに……」
「そう。彼女にはなんの罪もないのに……」
「女神様なのね……おいたわしや……」
「しかも彼の落ちた星とは違う星に属する水の女神なんだよ」
「なにそれかわいそすぎるでしょ……」
不憫。あまりにも不憫。
いいわ。待ってなさい。その自称勇者とやら、あたしが会いに行ってきてあげるから!
「最優先でそこでしょう!」
「そうしてくれるとありがたい。あぁ、やっぱり君はとても
今なにか言外に含まれてなかった?
なんかすっごくしてやられた感がしないでもな……いいえ気のせい。気のせいったら気のせいよ!
「俺も感謝する。あやつが落ちたのは俺の属する星なのだ。かの女神は己の職務もこなしつつ、不休で監視を続けてくれておってな」
「そうなの!? ていうか不休って……大丈夫なのその女神様」
神様だってそんなことしたら倒れたりするんじゃないの? 神様無敵なの?
「我らも休養は勿論必要だ。だがここに居る者は命の楔がない故にな」
「命の楔?」
「要は死なないってことだよ」
平たく言い過ぎじゃなぁい?
まったく身も蓋もないわね。
「彼も同郷の者の話なら聞いてくれるんじゃないかなと思うんだ。大人しくしていてくれるならそのまま暮らしてもらって構わないんだし」
「……もとの世界には帰してあげられないの?」
「うーん、そうしてあげたいのはやまやまなんだけど、手段がねぇ……。君には紐をつけるから行き来させられるけど、一緒にもうひとり、しかもこちらと魂の繋がりのない者を連れて
「神様でも万能ってわけじゃないのね」
「私の管理する銀河に生命が誕生したときにそういう仕組みにしたんだよ。せっかく生まれてくれたんだ。何から何まで神が干渉できてしまう世界じゃつまらないじゃないか。そんなのはただの箱庭だ」
ぴしゃりと言い放ったショタ神様は指をぴっと立て、そも神の仕事とはひとつの銀河、果ては広大な宇宙の秩序と安寧を云々、生物の誕生は云々人の営みはカンヌン……と滔々と続けているけれど。
ごめんなさいね。ショタ神様の隣で真剣に聞き入っている鍛冶神様のお顔が尊すぎて半分も聞いてなかったわ。
まぁなんとなく要約すると。
自分の管理する銀河の中で生まれた命。その存在は確かに尊く得難いものだけれど、ここではショタ神様はそこまで深く人の世に関与していないらしく、それぞれの星に君臨する神も配下を遣わせているんだとか。
そしてその配下(その星では最上位の神)から、時折落ち人に関する問題を聞かされ、対処は任せているもののどうしたものかと常々頭を悩ませていたらしい。
「本当にどこがどう捻れて繋がったのか、君の住む世界から多くの者が落ちてきてしまったのは全く想定外のことなんだ。かといって今さら星の理を変えることも出来ないし」
「お手上げってわけね」
「そう。だから我々にとって君との出会いはまさに僥倖といえる」
なるほどねぇ……そりゃ色々くれたりサポートしてくれたりする訳だわ。
貰いすぎかもなんて思ってたけど、それだけこっちの世界では困ってるってことなのよね。
だけどあたしなんかがちょっと話したくらいで大人しくしてくれるのかしら。帰してあげられたら一番いいんだろうけど、まず神域に連れて来れないんじゃ……
───ん!?
そこでハッと閃きが生まれた。
もしかしてこれ凄いこと思い付いちゃったんじゃないのあたし!!
「ねぇ! あたしあのライターでここに来たのよね!?」
「うん、そうらしいね?」
「だったら、あたしが落ち人の手とか掴みながら鍛冶神様と同時に蓋を鳴らしてみたら、ここに一緒に来られるんじゃないかしら!?」
それか本人に使わせてみるとかね。それなら一緒に
「なるほど……そのライターとやらは使いようによってはいい転送装置になりそうだ。よし、鍛冶の。即刻検証を」
「御意に」
「──それであたしが人身御供なのぉ!?」
「お主しかおらんのだ。我々が検証したのでは神力がある故に何が作用したのかわからんでな。人の子にしてもらわねば……」
「わかったわかったわかりましたよ!! だからそんなしょんぼりしないでよかわいいわねもう!!」
「助かる。では手を出せ」
そう言って鍛冶神様はあたしの手にライターを乗せ、ぎゅうと両手で握りこんだ。
そしてあたしの顔を覗きこみ柔らかく微笑んで……
「落とすなよ?」
「はいぃぃぃっ!!!!」
今日一番の微笑みだったわ!!
もうあたし、今なら空でも飛べるんじゃないかしら~っ
「……ねぇ鍛冶の、君それわざと?」
「は?」
「天然か……」
鍛冶神様の厚い掌から温かいなにかが注ぎ込まれてきて、もう身も心もとろっとろ……
あぁもうどうにでもしてぇ~……
「レイ、もう良いぞ。そのライターに神力を注いでおいた」
「はぁい……」
「レイというのか。そうだ。先に私とも契約をしよう。鍛冶のの後で申し訳ないけど、私にも手を貸してくれるかい?」
どうにでもしてとは言ったけどもうちょっと余韻に浸らせてくれてもいいんじゃないかしら?
んもう無粋ねぇショタ神様ってば。
それから、再び本名を口にさせられるというクソイベを乗り越えて、あたしは今ショタ神様と両手を繋いでいる。
ひんやりしてて気持ちいいわね。やだお肌すべっすべ。腹立つわぁ~
「
「え?」
「
なにこれ。言葉は聞き取れないのに何を言ってるのかわかるわよ!?
口を開いていいかわからずあわあわキョドっていると、鍛冶神様がそっと教えてくださった。
「先ほどレイに魔力を通したと言ったであろう? 故に魔法言語が理解できるようになったのだ」
あたしはこくこくこくこく一生懸命頷いて理解したって伝えたわ。
魔法言語ですって? また知らないワードが出てきたわね。
そうしてしばらくショタ神様の紡ぐ魔法言語とやらを聞いていると、くいくいと手を引かれた。
「少し屈んでくれるかい?」
「え、えぇ」
言われた通り屈むと、ショタ神様が額をこつんと合わせてきた。
うん。だからショタじゃときめかないからね。
「
あたしとショタ神様の周りをキラキラした光がふわっと包み込み、今まで気にもならなかったけど不意に「地に足がついた」という実感みたいなものがわいた。
ここにいていいんだよ、って言われたような安心感というか、とても居心地がいい感じ。
「わかるかい? 君にこちらとの繋がりと、私の加護を授けた」
「……えぇ、なんとなくだけど」
「レイ、改めて。これからよろしく頼むよ」
「はい……」
鍛冶神様にも加護を貰ったらしいけど、さっきはこんなの感じなかったもの。
生きてていいってまるごと肯定されている、そんな不思議な感覚で、不覚にも泣きそうになっちゃったわ。
泣いたらまたメイク崩れちゃうから泣きませんけどね!!
「レイ、もしこのライターとやらが作用しなくても、君だけはここへ戻せる。だから心配しないで行っておいで」
「わかったわ」
「話具は……持ってるね。それで鍛冶のと話しながら、同時にそれを鳴らすんだ。大事なのはその際、できれば人がいいけど、いなければ動物でも魔物でもなんでもいいから、向こうに元々いる"生きたもの"を手にしてそれを鳴らすこと。いいね?」
「了解よ」
「頼むぞ、レイ」
「はぁい」
「態度が違いすぎないかい?」
うるさいわね。鍛冶神様が素敵なんだから仕方ないじゃない!
そうしてやんやと騒ぎつつ、あたしは初めて異世界の地へと足を踏み入れた。
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