恋する謝罪

リーマン一号

恋する謝罪

人と人との関わり合いは、対面した当人たちによって行われる。


これは、今や遠い昔の常識に過ぎない。


現代における関わり合いとは、ソーシャルネットワークを通じた顔も名前も知らないような赤の他人が主流であり、それがもはや当たり前となってきている。


誰だか知らない相手の投稿に「いいね!」「いいね!」を連打するもの、誰だか知らない相手の為にどうでもいい日常の1ページを送信するのもしかり。


承認欲求の権化ともいえるこのやり取りを、これまで僕は少し否定的に考えていた節があったが、その考えを改めさせてくれたのが彼女との出会いだった。


名前を仮にYとしようか・・・


実際のところ彼女の本名を僕は知らない。


分かっているのは僕と同じように学生という囚われの身分に属する女学生ということだけ。


最初の出会いはとある掲示板の投稿で意気投合したのが始まりだった。


趣味や嗜好の合う友達が見つかったようで嬉しくなり、その後は毎晩のようにとあるコミュニケーションツールを通して語り合った。


学校のこと、部活動のこと、今日食べた夕飯なんて些細なことも。


恥ずかしながら、ソーシャルネットワークなんて希薄なやり取りに意味がないと考えていた時期が嘘のようでもあった。


たぶん、一生会うことは無いという安心感は互いの本音を曝け出し、それが秘密を共有する子供のような一体感を生み出しているのだろう。


彼女との連絡が一月も続いたころだろうか?


僕の中で一つの感情が芽生えた。


恋である。それも初恋。


もちろん。これまで異性を見てかわいいや美しいと感じたことは何度もあったが、愛おしいと感じたのは彼女が初めてだった。


相手に与える印象を考えて試行錯誤を繰り返しながら書き込みをし、Yからの返信に一喜一憂して何度もリフレインする。


まるで少女漫画の主人公の様だが、自分でわかっていてもそうせずにはいられなかった。


傍から見れば、見たこともない相手に恋をするなんて変だと思うかもしれないが、見たことが無いからこそ容姿に左右されず、本当の意味で人を見ることができるのではないか?


僕はそこに真実の愛を感じ、Yもまたそう感じていると信じていた。


そう。信じていたのだが・・・。


どうやらそれは僕の独りよがりだったらしい。


ある日、Yは突然、告白を始めた。


自分が重い病気を患っていること。


治療費に高額の費用が掛かると。


そして、家が貧乏なこと。


あとはみんなの知っての通り、所定の口座までに金を振り込んで欲しいとさ・・・


どう思うかい?


滑稽も滑稽、まさにピエロだろ。


僕にとっての初恋はサクラの手の平で転がされるだけだったわけだ。


相思相愛ではないかと信じていたのに・・・


Yがただのサクラだったと知った僕は悲しみに打ちひしがれ、Yとの思い出が走馬灯のようにながれた。


思わず悔しさに涙が流れたが、一時でも楽しかった、そして好きだった事実は変わらない。


僕はアルバイトでため込んでいたなけなしの貯金からきっかり言われた通りの金額を所定の口座に振り込むと、彼女に最後の書き込みを残した。


「今まで、ありがとう」


・・・


もうその掲示板を見ることは無かったから、返信があったのかはわからない。


それでも僕は彼女が重病を克服し、元気に暮らしていると信じたい。

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