第5話 ドゥカティ

「はあ。」


美生みおは気乗りのしない返事をした。その赤いバイクをよく見てみる。そのバイクはまるで自転車に小さなガソリンタンクとエンジンがついているようだった。


「ドゥカティはイタリアで一番有名なメーカーですけど、そのドゥカティが最初に作ったバイクがこのクッチョロなんです。第二次世界大戦後すぐのことです。イタリアは敗戦国で貧しかったから、こういう簡単なバイクや自転車に付けるためのエンジンが色々なメーカーで作られていたんですよ。」


「おじいさんは、もう少し年をとって普通のバイクに乗るのが辛くなったら、これに乗って近所を散歩するとおっしゃって、5年くらい前にこれを買われました。だからほとんど乗ってなかったんじゃないかな。」


それでも、美生は気乗りがしなかった。ふとガレージの中を見ると小さいヘルメットが壁に掛けてあった。美生が子どもの頃、祖父の後ろに乗る時にかぶっていたヘルメット。


「捨ててなかったんだ、、、」美生は呟いた。


次の瞬間、バイク屋の声が耳に入った。


「クッチョロはイタリア語で子犬という意味です。」


「私、このバイクに乗ってみます。」美生は反射的に答えていた。

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