第3話 マザー

日曜日の朝、美生みおは寝坊して、パジャマ姿のまま、ゆっくり起きてきた。朝食のトーストをかじっていると、母が不機嫌そうに言った。


「10時にバイク屋が来るから、あんたもいてちょうだい。」美生は何も言わず、うなずいた。


祖父が亡くなって49日も過ぎ、そろそろ遺品を片付けてもいいだろうということで、祖父が乗っていたオートバイを生前付き合いのあったバイク屋に引き取らせることにしたのである。


ちょうど10時になって、バイク屋が軽トラでやって来た。美生と母はガレージの鍵を持って外に出る。


「どうも、この度はご愁傷様です。」


バイク屋の挨拶を遮るように美生の母は


「こっちです。」


庭の方に歩き出した。庭の隅にあるスチールのガレージの扉を鍵で開く。


ガレージには、3台のオートバイが置いてあった。どれもそんなに大きくないオートバイである。


「いくら位になるのかしら。」


美生の母は不躾に言った。


「このまま現金で買い取りだとかなり安くなってしまいます。預からせていただけるなら、委託販売でもう少し高く売れます。」


作業ツナギ姿のバイク屋は、申し訳なさそうに答えた。


「どっちでもいいわ。目障りなので、すぐ持って行ってください。美生、後はお願い。」


美生の母は、家に戻ってしまった。


庭に、美生とバイク屋が取り残される。


「すみません。」


美生はなんとなく謝った。

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