第19話 みんなは天才になりたいですか? 僕は普通でいいです
詩歌とラーメンを食べた後自宅へ戻り、ふと考える。
詩歌とは学校でほぼ話をしないんだけど、たまに買い物に行ったり食事に行ったりしている。
はたから見ればデートをしている様になって見えるかもしれない。
実際、詩歌と話をするのは僕としてもとても楽しい。
詩歌がきっかけでライトノベルを読み始めたりアニメを見始めたたけど、今となっては僕の中で充実した時間ランキングの上位に入る趣味となっている。
それと詩歌の外見もタイプなんだが、性格というかお淑やかな振る舞いがとても好きだ。
お淑やかを通り過ぎて大人しすぎるて人見知りなだけかも知れないけど。
それにしても短期間の間に色々とあったな。
月見里さんと出会い、詩歌と仲良くなり、たよりに……。
たよりに告白されたのが一番衝撃的だったか。
過去のトラウマから色恋沙汰には関わらない様にしてきたわけだけど、それもあっさり月見里さんに解決?説得?されちゃったわけだし…。
いや、決して誰からも好かれなかっただけでは無いぞ。たぶん。
ハーレム物のラノベ主人公は鈍感過ぎても嫌われるし、みんな大好きだ!ってのも受け入れられない。どちらにしても叩かれる。
結局みんな嫉妬しているだけなのかも知れない。
イケメンでも無い、なんの特徴もない、平凡で普通で。
でもいざという時に頼りになったり、人並み外れた優しさを発揮したり、平気で自己犠牲精神を振りまいたり、それを表に出さなかったり……。
それでモテモテとか羨ましいぞこの野郎。
現実世界では表に出さない優しさは誰にも気付いてもらえないんだよ!
てか教室に僕がいる事すら気付かれてない可能性もある。
誰にでも良い顔をする人は嫌われるし、一人の女性を一途に思えない主人公は社会的に殺されそうだけど、そこは多感な男子高校生。
好きと言われれば余計に気になるし、デート紛いな事をすれば多少なりともドキドキする場面だってある。
あと、可愛い後輩と仲良く話をすれば心が弾むというものだ。
みんなも学生時代を思い出して頂きたい。
一日に何度か目が会うだけで、あれ?あいつもしかして俺の事……って勘違いした事あるだろ?
そんでもって相手が自分のことを好きなのかもと感じた時、自分の気持ちも引っ張られる。
好意を向けられた相手に返すのは基本的には好意だ。
まあ、本当にただの勘違いだから特に何も起きないんだけど。
「僕が本当に好きなのって誰なのかな…。」
ドラマの主人公にでもなったつもりかよ、と自分の吐いた陳腐なセリフにうんざりしていた時、スマホから着信音が流れる。
「もしもし?」
「文人。今大丈夫?」
「ああ、大丈夫だぞ。どうしたんだ?電話してくるなんて珍しいな。」
「別に用事がある訳じゃないんだけど。たまには電話もいいかなと思って。」
「そっか。確かに新鮮で良いかもな。最近じゃ連絡もせずに僕の部屋に上がり込んでるくらいだからな。」
「まぁまぁ、それは良いじゃない。私とあんたの仲なんだからさ。」
「ははは。ま、部屋に見られてまずいものなんて僕は所持していないから何の問題もないしな。」
「今時の男子高校生はスマホで何でも…」
「ストップだ、たより。それ以上は………誰も幸せにならない。」
僕は目を瞑りながら大袈裟に首を横に振る。
さながら外国人の様に。
「そう?」
「それより文人。ドラクエの新作買った?」
「勿論買ったぞ。と言うか、既に全クリして裏ダンジョンまてクリア済みだ。あとはすれ違い要素くらいかな。」
「まじで?相変わらず早いなー。もっとじっくりプレイすれば良いのに。」
「僕は早くクリアしたい派なんだよ。そういえばたよりは攻略サイト見ない派だし、時間かけてクリアする派だったもんな。」
ゲームが好きな人の中でもここは結構意見が分かれるところかもしれない。
「そうだね。性格の問題かな?宝箱一つでも見逃したくないって言うか、ダンジョンとか隅々まで調べないと気が済まないっていうか。」
「あー、でもそれは分かるぞ。ダンジョンの分かれ道で正解の道を始めに引き当てたら、一旦ハズレの道を調べるために引き返しちゃうよな。」
なんなら、ハズレの道を引けない方が悔しいみたいな…
「あはは。めっちゃわかる。」
たよりと他愛のない会話を楽しむ。普段電話なんてあまりしないけも、スピーカーから聞こえてくるいつもと少し違うたよりの声も悪くないと思った。
「…………。」
「…………。」
ひとしきり話を終えて沈黙の時間が流れる。
電話ってこれがあるから少し苦手なんだよな。些か気まずい。
「ねえ、文人。」
「ん?なんだ?」
「ほんとはね、今日電話したのはお礼が言いたかったからなんだ。」
「お礼?なんのお礼だ?」
「私がしょげてた時、元気貰ったからさ。」
「あの時ね、なんで私バスケやってんだろな、やめちゃえば楽になるのかなって考えてたんだ。」
「ああ。なんとなく伝わってきてたよ。」
月見里さんからある程度事情は聞いていたが、それは黙っておくことにした。
「才能とか、努力とか。そういう事を考え出したら頭の中ごちゃごちゃになっちゃって。」
「100練習したら90自分の物に出来るんじゃなかったのかよ。」
以前たよりが自分で言っていた事だ。
天才は努力した分、全てを自分の力に出来る。凡人はせいぜい30%くらいのものか。
「あんなの冗談に決まってるじゃん。私は凡人だよ。みんなについて行くだけで必死なんだから。」
「そうかな。僕からすれば十分凄いと思うんだけどな。」
「そんな事ない。現に私は……。」
たよりが何が言いかけて言葉を詰まらせた。
「たより。イチローの名言にこんなものがあるのを知っているか?」
[自分の限界を見てから、バットを置きたい]
「たよりは自分の限界が見えたのか?もう、今以上に成長は出来ないのか?」
「それは……。」
「お前はもっと上手くなる。俺が保証する。バスケを知らないお前なんかに何が分かるって思うだろうけど、それでも俺には分かる。たよりなら出来る。お前が頑張ってるのは俺が一番よく知っている。」
「文人……。ありがとう。私、今よりもっともっと頑張る!そんでもって双葉をギャフンと言わせてやる!」
「おう。その意気だ。ギャフンはちょっと古い気がするけどな。」
「うるさいなーもう。まあ、見ててよ。私の本気を見せてあげるからさ。」
そう語ったたよりの声は、少し元気を取り戻していた様に聞こえた。もう大丈夫だろうと直感的に感じた。
「さて、それじゃあ今日はもう寝るか。」
「うん。文人、本当にありがとうね。また明日学校でね。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
そう言って電話を切った。
スポーツ選手って大変なんだ。敵と戦い、自分とも戦い、挙句チームメイトとも戦うのか。
たよりはきっとこれからも努力し続けるんだろう。好きなことや、やりたいことも我慢して、毎日毎日自分を追い込んで。
その先に一体何が待っているんだろうか。
努力、才能、センス、環境。全てがうまく噛み合って始めて天才になれるのかも知れないな。
僕にはとてもなれそうもない。いや、正直天才になりたいなんてこれっぽっちも思わない。
みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです。
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