第18話天下一品

「ありがとうございましたー!!またお越しくださいませー!」



「いやー、美味しかったな!やっぱりラーメンと言ったら天下一品だよなー!」



「うん…。二週間に一回くらいのペースでどうしようもなく食べたくなっちゃうよ。」



「わかる。人によっては一週間もたない場合もあるらしいぞ?なんかやばい粉でも入っているんじゃないのか?」



「癖は強いけど依存性がやばいよね…。芸人で言うと千鳥かな…。」



「なんか微妙な例えだな。明日学校なのに、にんにく入りにしちゃったぜ。明日は一言も喋れないな。詩歌は大丈夫なのか?」



「私は元から誰とも喋らないから大丈夫だよ…。」

詩歌が悲しそうに俯いている。こんな時どんな言葉をかけてあげればいいんだろう。

まあ、僕も似た様なもんだから偉そうなことは言えないんだけどな。



「そんな寂しいこと言うなよ。でも詩歌ってなんでそんなに人見知りが激しいんだ?こうやって僕と2人でいる時は普通に喋れるのに。」



「人見知りは小さい頃からだから……。」

「それに…しいかの趣味って変わってるでしょ?他の女の子と話が合わないのもそうなんだけど、みんなに知られたらそれだけで引かれちゃうよ…。」



「そんなもんかな。僕はなんとも思わないけど、一般的にはそうなんだろうな。」

全く、生き辛い世界だな。



「文人くんは……馬鹿にしなかった。それどころか、しいかの事を助けてくれたから…。だから……。」



「ああ。そんなこともあったな。懐かしい。」



文人くんは大したことないと笑っていますが、私にとっては大事件でした。

読者の皆さんには、なぜ文人くんと私が今のような関係になったのか一度説明しておきましょう。


<hr>


「はぁはぁ。」

「まずい、まずいよぉ…。

よりによってあのイラストを教室に置き忘れるなんて……。」


あまりに出来が良くて、舞い上がって学校にまで自作のイラストを持ってきた事を激しく後悔しています。後悔先に立たず。

この一度の失敗で[好奇の目]と言う荒波が立つ暗黒の海を航海することになるよぉ…


「なんて言ってる場合じゃない。早く回収しないと…。」

教室へと急ぐ。



「こら!姫城。廊下を走るんじゃない!」



「は、はい…。すみません…。」

先生に怒られました。

今はそれどころではないと言うのに…。



もう少しで教室に着きます。お願い。誰にも見られてませんように…。



ざわざわ。

ざわざわ。


「ひー……。教室が騒ついてる…。」



終わった。

皆さんにご報告です。

私の学生生活はたった今、終焉の時を迎えました。

短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。

まあ、終わったと言いましたが、別に何も始まってさえいないのですが。

誰とも話さず、誰とも遊ばず、誰とも交わらず。

でも、目立たないからこそ平和で、穏やかで。

そんな平穏な毎日を過ごせたのだけれど、これからはそうもいかなくなっちゃうかな。



「うう。私、いじめられるのかな……。嫌だよ……。」



「あっ!おい姫城。これ見てみろよ!お前の机の上にあったんだけどこれお前のかー?!」


クラスのお調子者が私のイラストを掲げながらわざわざ大きな声で聞いてきています。

皆んながこっちを見ている。

私の机にあるのだから、普通に考えて私の物でしょう。

言い訳の余地もない。

クラス一のお調子者くんに見つかるとは益々運がないですね。



「え……。いや……。」



「えーー?なになにー?!聞こえないんだけど!!お前のじゃないのー?」



「うぅ………。」

もう嫌だ…。

この場から消えてしまいたい。

教室に戻らず、諦めてそのまま家に帰った方がまだマシだったかも知れません。

ただでさえ注目されることに慣れていないのに、自分が吊るし上げにでもあっているかの様なこの状況。

頭が真っ白です。



「おいおい無視かよー。お前、こういうの好きだったんだなー!!萌えってやつー??ぎゃはははー。」



「ちょっと待ってくれ。」

目の前の景色がぐねぐねし始めていたところに一筋の光が差し込みました。



「ん?なんだよ一三?」



皆んな忘れているかもしれませんが、一三は文人くんの名字です。

一三と書いて[にぬき]。

お洒落な名字ですね。



「そのイラストは……俺のだ。実はそのキャラ大好きなんだよ。悪いけど返してもらえるか?」



「え?これお前のなの?なんだよつまんねーなー。でもなんで姫城の机の上にあったんだよ?おかしくね?」



「ふっ。流石だ。いいところに気がつく。まずそのイラストをよく見てみるんだ。どことなく姫城に似ていると思わないか?」



「えー?そうかなー?うーん。まあ、似てなくもないかな?」



「そうだろ。そこで俺は考えたんだ。その俺の好きなキャラを姫城の机に置くことで、あたかもそこにキャラが居るかの様な錯覚を得る。」



「お、おう?」



「次にその錯覚と普段その席に座っている姫城のイメージを重ねる。ここが結構難しいんだが。」



「へ、へぇー?」



「見事イメージを重ねることができたら何が起きると思う?」



「わ、分かんない。」



「姫城がその席に座っている時、俺の好きなそのイラストに描かれている美少女が座っているかの様な錯覚を起こす。」

「俺はこの現象を[美少女飛ばし]と名付けた。」



「……………。こいつマジヤベー。姫城。悪かったよ。お前も大変なんだな。」



「え……ち、違…。」

あ、あれ?これって全部文人くんが悪いことになってない?

あれ?なんで庇ってくれるの?

うぅ。もう訳がわからないよ……。

このままじゃダメだと頭では分かっているのに、体と口が動かない。

そうして私が固まっている間に、まるで今まで遊んでいた玩具に飽きたと言わんばかりに、皆んなそっぽを向いてそれぞれの世界に戻っていった。



「姫城。」

文人くんに話しかけられた事で硬直していた体がビクッと動いた。



「悪いんだけどさ、このイラスト暫く貸してくれよ。また、時期を見てこっそりお前に返すからさ。」

と誰にも聞こえない様に私に囁く。



文人くんは何も悪くないのに、全てを背負って、私を守ってくれた。



私はこの瞬間、恋に落ちたのでした。

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