第3話天才ってなんだろうね

その日の夜……


食事を終えて2階の僕の部屋へ移動する。幼馴染とはいえ、自分の部屋に女の子を入れるのはいささか緊張するものだ。そんな僕の様子を気にもとめずにベッドに腰掛けるたより。


「しかしあれだけ食べても太らないのはやっぱり運動量が半端ないからなんだろうな。」



「うーん。練習中は走りっぱなしだからね。その代わり筋肉とか凄いよ。見てみこのふくらはぎ!」と足に力を入れてみせる。



「確かに凄いな。僕より筋肉あるんじゃないのか?」



「ふっふっふ。なんなら触ってもいいよ」



「えっ、いいのか?それじゃあ失礼して…」すりすりすり…。



「本当に触るとは…私は別になんとも思わないけど普通ならドン引きだね。」



「だろうな。だけどこの筋肉は芸術的だな。筋肉といっても硬いだけじゃなく柔軟性もあるし。引き締まっているっていうのはこういう事を言うんだろうな。」



「お褒めに預かり光栄です。もういいからゲームをつけて」と体勢を変えながら、指示を出してくる。



普段はさばさばしているが、自分の頑張っていることを褒められるのは嬉しいらしく、表情が柔らかくなるのが見て取れた。



「そう言えば文人、今日練習見に来てたでしょ。」



「気づいていたのか。お前がくるまで時間もあったからな。」



「ふーん。私はてっきり月見里さんを見に来たのかと思ったよ。」



「なんで僕が月見里さんを見にいかなくちゃならないんだよ?」



「だってアンタ、昔から小さくてかわいい子女の子が好きでしょ。」



「人をロリコンみたいに言うな!」まったく。読者のみなさんに誤解されるだろう!



「だってそうじゃーん。」にやにやと悪戯な笑みをこぼしながらからかってくる。



「いやいや、確かにタイプではあるけど、純粋にバスケの腕前が気になったんだよ。お前が人を褒めるのって珍しいじゃないか。」



「あー、うん。本当に上手いよ。」



「才能ってやつか?僕はあまり好きじゃないんだけどな。才能って言葉は。天才だって努力しなけりゃ上達はしないだろ?」



「それはそうなんだけどね。でもね、努力だけでは越えられない壁ってやっぱりあると私は思うよ。本物って言うのかな。」



「努力して、努力して、毎日毎日へとへとになるまで頑張って、これ以上頑張れないって思うくらい頑張っても届かない存在っているんだよね。」

「でも、その届かないって思った人よりも上手い人って世の中にはいくらでもいて…上を見ればキリがない。」

「そんなことを考えていると、たまになんで私バスケ続けてるんだろう…って思う事もあるよ。」



「…………。」

意外だった。ゲームをしながら語るたよりの背中はなんだかいつもより小さく感じた。

たよりはバスケが大好きで、才能もあって、悩み事なんてないのかと思っていたが、色々と思うところがあるんだな。



「私も昔から身長が高い方だったからさ、点を決めても陰で背が高いだけだって言われていたのも知ってた。でもそんなことを言われないくらいに上手くなってやろうって頑張ったし。」



「知ってるよ。それに…僕はたよりのバスケしてる姿を見るの、好きだぞ。」



「……ばーか。」

「私、思うんだよね。天才っていうのは努力した分、すべてを自分の力にできる人のことをいうんじゃないかな。」

「普通の人は100頑張っても30しか身につかない。才能のある人は100頑張れば70くらい身につくのかも。」

「だから頑張れば頑張っただけ天才はどんどん上手くなる。」

「普通の人は頑張っても、頑張ってもなかなか結果に結びつかない。それで挫折しちゃうんだよね。」



「なるほどな…。それは確かにそうかもしれないな。じゃあたより、お前は100努力したらいくつ身に付くんだよ?」



「私?90くらいかな?」



「ほぼ天才じゃねーかよ!」と今日一番のつっこみを放った後、もうひとつ気になっていたことを聞いてみた。

「ちなみに月見里さんは?」


「あの子はね…100。天才だよ。」と僕の幼馴染は答えた。



<hr>


「へぇ…。それは凄いな。要は天才って認めるってことだろう?」



「そうだね。少なくとも私が一緒にプレーした人達の中では飛び抜けてるかな。センスの塊というか…」

「それでいて努力を怠らない。今はまだ高校生になったばかりだし、チームにも慣れていないから粗さも見えるけど、あの子は凄いプレイヤーになる。それは断言できるね。」



たよりにここまで言わせるとは…才能があって、努力もする。故に天才か。



「更に言えば、努力のやり方が人とは違うというか、まぁそれも含めてセンスなんだろうけど。」

「普通の人なら『努力する』って言ったら、バスケで言えば単純に、走り込むとかシュート練習を沢山こなすとかわかりやすい方向での『努力』に走りがちなんだけど、あの子はなんていうか、練習方法を自分で考えるって感じなんだよね。」

「多分自分でこんなプレーをしたい、こんな動きしたいってイメージを明確に持っていて、それを実現するためにはどんな練習をすればいいか、を考えてる」



ただ努力をするだけでは駄目。

言われたことだけやっていても駄目。難しいんだな、スポーツって…。


「へぇ…。やっぱり人と同じことをやっていても駄目ってことになるのかな。スポーツでもなんでも」



「駄目ってことはないでしょ。ま、誰しもが一番になる為にスポーツやってるわけじゃないだろうし、普通な人がいるから天才が目立つんじゃない?」

「天才を天才の集まりの中に放り込んだら普通に見える!」

なんだか無茶苦茶な話しな気もするが、少し納得している自分もいた。


そうなると何処から天才で、何処から凡人なのか、その線引きは一体誰がするのか。よく分からなくなった。



<hr>


「たより…僕はスポーツをしないからよく分からないけれど、コイツに関しては天才と言っても過言ではないぜ」僕は一本のゲームソフトを手に取る。



「…この私に勝てるとでも?」



「大した自信だな。ただ勝負をしてもつまらない。負けた方が勝った方の言うことをなんでも一つ聞くってのはどうだ?」



「いいよ。ベタすぎな気がしないでも無いけど受けて立つよ。」



……………



「あっ!ちょ、おま!そこは駄目だって!」



「あぁ!まて、早まるな!やめろぉー!!」



…ばよえーん、ばよえーん、ばよえーん。



僕は負けた。完敗だ。実は全然この

ゲーム得意ではなかった。

「お前こう言うパズル系のゲーム強いよな。RPGは苦手なのに」



「そうかな?アンタが弱いだけな気がするけど…」



「ふっ。天才…か。」



「いや、格好つけてるところ悪いけど、なんでも一つ、言うことを聞いてもらえるんだよね?」



「ん?そんなこと言ったか?よく覚えてないな。いつの話だ?書面は残ってるか?」



「はいはい、そう言うの良いから。うーん、どうしようかなー。『何でも』だからなー。」



まずい、非常にまずいぞ。一体何を要求されるんだ…。有り金を全て寄越せか?いやそんな甘っちょろい訳がない。

全裸で町内一周か?

それとも警察署に向かってロケット花火を打ってこいとかか?!



「アンタ私を一体何だと思ってんの?」



「エスパーかよお前!!…まぁいい。覚悟を決めたぜ。どうにでもなれだ!」



「観念したか。実は最初からアンタに聞いてもらいたい事は決めてたんだよね。対戦始まる前から」



「あのさ……。」

「私と付き合ってくれない?」



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