第29話 最後の部員
「提案があるの」
夕食を終え温泉も全員が入り終わり、寝床に入ろうとしている時だった。突然、三河が皆に向かってそう言った。
「提案?」
俺が聞くと、三河は大きく頷いた。
二部屋の襖も閉める前だったので、三河がその中心に正座して話し始めた。
「あのね、朽木くんと萌美先輩に、和道部員になってほしいの」
「え?」
「えー?」
ほぼ同時に、祐樹と瀬戸先輩が声を上げた。
「一日ずっと考えてたんだ。朽木くんの入部についてはずっと保留だったし萌美先輩には前に断られていたけど、このさい幽霊部員でも何でもいいかなって。堂々と校内で活動できるように。夏休み終わったら文化祭もあるしね」
このタイミングで、三河がその話を持ち出したことを俺は意外に思った。
「やっとかよ。待ちくたびれたぜ」
祐樹がそう言って、息を吐く。
球技大会の一件で、保留になっていた祐樹の入部。その答えを、三河はやっと出したのだ。
「言っておくけれど、これは君島くんのためなんだからね」
三河はそう言って、祐樹から目を逸らす。
「へいへい」
祐樹は肩をすくめた。
「んー。そうだなぁ。まぁ、幽霊部員ならいいかー」
瀬戸先輩が、少し考える仕草をしてから言った。
「萌美先輩ありがとう」
若干遠回りしたけれど、二人の入部が決まった。
「文化祭は何をやるつもりなんですか?」
水ノ橋さんが三河に聞いた。それは俺も気になる。
「着物や焼き物の展示とか」
「展示?」
俺は三河の言葉に、思わず眉をひそめてしまった。
「ん、ダメ?」
「いや、展示だけ?」
「うん」
三河が頷く。
「着物はいいとして、焼き物はどうするんだよ」
「自分たちで焼くの」
「それは面白そうですね」
三河の言葉に、水ノ橋さんが嬉しそうに言う。
「後は、染物とか? 自分たちで染めるの」
うんまぁ、確かに面白そうではある。
「私は、部誌のようなものを書きましょうか」
「あ! 着物姿の写真提供しますよー」
「ありがとう萌美先輩。京菜も。じゃあそれで! 決定だね」
何やら勝手に決定されたが、三河のことだから今から反論したところで意地でも突き通すだろう。俺はそれでいいと思うし、マルクは話に参加する気もないらしく寝てるし。蔵元先生も疲れからか居眠りしていた。
「文化祭か。俺も忙しくなりそうだ」と祐樹が言った。
「演劇部でしたっけ」と水ノ橋さんが返す。
「そうだよ。まだ何をやるのか聞いていないけど、三年生にとっちゃ最後の文化祭だ。一年の俺らが支えてやんないと」
「そうですね。頑張って下さいね」
「ああ」
俺は祐樹と水ノ橋さんの会話を聞いて、思い出していた。
祐樹が言っていた、中学の頃の演劇部で起こったらしい事件。俺はまだ祐樹からその詳細を聞いていない。
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