第109話 泉と一緒に落ちて行く
「お兄様少しお耳が汚れているみたいですねえ、耳かきしましょうね?」
「……うん」
学校から帰ると泉はいつもの様にコーヒーと、いつの間にか作ってくれている手作りのお菓子を用意する。
そしてリビングで僕に寄りそう様に隣に座る。
たわいもない話、天気や学校の事、先生の事、今日の授業の話をする。
そして話題が切れると、今度は何も言わずに僕をじっと見つめる。
これもいつのも事、僕の事を泉は常に見ている。僕に何かをしたくて、僕の世話をしたくてウズウズしている様子が伺える。
そして今日は耳掻きをしたいと言い出した。
いつもなら断っていた……でも今日は……素直にそれを受け入れた。
僕は……泉と会話をしながらも、心ここにあらず状態だった。
凛ちゃんの事を、『臆病者』と言われた事を、今日の裏庭での事を頭の中で何度も何度も反芻していたから……。
言い返したかった、あんな言い方無いよ……酷いよ、信頼してたのに、頼っていたのに……せめて何か言い返さないとと思った。
でも……言い返せなかった。
幻滅された、凛ちゃんに「覚めた」って言われた。
だから……なんか……もうどうでもいい……もうどうでもよくなった……。
泉と一緒にいれば楽しい……大好きな人が僕に尽くしてくれる、そしてそれは泉の幸せになっている。
これでいいじゃないか?
これで誰もが幸せになっているのだから……。
「はい、お兄様お膝の上に頭を置いてください」
泉は一度どこかに行くと、おしぼりや耳かきや綿棒、その他各種を持って再び僕の横に座った。
僕は何もも考えず、ただ言われるがままに泉の太ももに頭を置いた。
膝枕なのに太ももを枕にしてる……なんでだろうか……等とくだらない事を考えていると、泉が持っていたペンライトで僕の耳を照らす。
以前なら恥ずかしい……って気持ちになっただろうけど……僕は今日……とんでもなく恥ずかしい事をされた、自分を自分の内面を……中身を凛ちゃんに晒してしまった。
自分の内面を見透かされしまった。
これくらいなんとも思わない、耳の中なんて……恥ずかしくもなんともない。
自分の心、自分でも気が付かなかった自分の黒い部分を見透かされる方が何倍も恥ずかしい……。
もう……どうでもいい、今まで考えていた事が全てどうでも良くなった。
今、僕は泉の匂いに包まれている。甘い甘い香りに包まれている。そして柔らかい太ももの感触、優しく美しく甘い声が頭上から降り注ぐ。
至福の時間……何もかも忘れてこの時間を、この幸せを堪能すればいい。
大好きな人が僕の耳を掃除してくれる。気持ちがいい……もうこれは快楽と言っていい、耳掻きの快楽に僕は溺れて行く……いや違う、僕は泉という快楽に溺れて行く。
もう……なにも考えられない……もう何も考えたくない。
このまま、このまま泉と二人で……いつまでもいつまでも一緒にいられれば……いい……ただそれだけでいい。
「お兄様、痛くないですか?」
「うん……」
「うふふふ……可愛い……お兄様」
泉はそう言ってコショコショと僕の耳を弄ぶ……僕も泉の柔らかい太ももを堪能する。
学校でもバカっプル……バカ兄妹でいいんじゃないか? 凛ちゃんも言っていた……覚悟を決めろって……。
臆病者…………そうだよ……その通りだよ。
友達になって貰えない怖さで孤独を選び、愛真と離ればなれになった事で親友と別れる怖さを知り、苛めに遭う怖さでこの学校を選んだ……。
そうだよ……僕は臆病者だよ……。
今日……僕は凛ちゃんという友人を失った。
そしてこのままだと……愛真を……親友を失うだろう……。
でもいい、それでもいい……僕には……泉がいるのだから……。
泉とは兄妹だ。血は繋がっていないけど……兄妹なんだ。
しかも、ずっと兄妹でいる、居続けられる方法まで考えてくれていた。
そう……泉と兄妹で居ればいい……ずっとずっと兄妹で居ればいい……それだけで幸せになれる。
泉と一生兄妹で居れば……僕の欲しかった物が、宝物が、天使が……一生手に入るんだから。
僕はそっと泉の膝を撫でた……。
「うふふふ、お兄様くすぐったいです」
泉が嬉しそうにそう言った。
何でも許してくれる。
僕を甘やかしてくれる。
天使の様な人……ずっと好きだった僕の天使、僕の妹……。
僕はこのまま泉と落ちていく……どこまでも一緒に……地獄の底まで……。
もう僕は一人じゃない、一緒に落ちて行ってくれる人がいるのだから……。
〖あとがき〗
忙しくて忙しくて、ぶっ倒れたので書けました(笑)
今この話が書きたくて仕方ない状態です(笑)
なんとか更新頑張りますのでブクマやレビューにて、応援宜しくお願い致します。m(_ _)m
暫く他の作品の更新が遅くなります。この作品も含めてどれだけの人が読んでいるかよくわかりませんが……恐らく10人位の読者の皆様、暫くお待ち下さいm(_ _)m(笑)
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