第53話 僕の立ち位置

空気が読めない……


 ボッチ歴十年以上、今まで愛真以外に友達の居なかった僕が虐められたりしなかったのは多分この力があったからだろう。


 空気を読む力、クラスの人間関係やカーストを見分ける力があったからだ。

 『君子危うきには近寄らず』

 これさえ守っていれば虐めに合う事はない。余計な事をしない、言わない、目立たないの三原則を守り、空気になれれば、誰にも気付かれなければ平穏無事に学校生活を送れる。

 僕は今までずっとそうやってボッチでありながらも何事も無く学校生活を乗り越えてきた。透明人間になりきっていた。 


 本当マジで透明人間過ぎて小学生の時、僕がまだ居るのに着替えをしようとした女子が居たくらい透明になっていた。


 まあ……日頃は透明人間でも良いんだけど、そうも行かない時がある。代表的なのは修学旅行だ。休むと言う選択肢もあるんだけど、それだとかえって目立つんだ、あいつ当日休んだよとか……そもそも出発前にグループを組まなきゃいけなくその組んだグループに当日迷惑がかかる。なのでその選択肢はやってはいけない。

 じゃあどうするか? まずグループを組む時に先生が「○○さんを誰か入れて上げて~~」なんて言われる展開は最悪だ。それだけは避けなければならない。


 じゃあどうするか? まあ僕くらいのボッチレベルになるとグループを組む時なんて何も問題は無いんだけどね。


 そんな時はどうすれば良いか? 同じ境遇の人にそのテクニックを教えて上げよう。あ、でも僕はボッチの天才だから参考になるかはわからないけどね。


 まずは日頃からクラスの状況を逐一観察しておくこと、いざというときの為にね。そしていざって時その状況を利用するんだ。

 誰かとグループを組む時に一番簡単な方法は単純だ。人数が足りないグループに入り込むだけ、それもあまり仲の良くないグループに潜り込む事だ。クラスカーストとグループのトップを把握しておけばこいつ誰だっけ、まあいいか人数足りないし変な奴に入られるよりかはって思って貰える。


 まあ僕が一番変な奴なんだけど……何せ目立たないから…………うう段々辛くなってきた、この話まだしなきゃ駄目? え? 聞きたい? そうか……じゃあもうちょっと頑張る……


 えっとどこまで話したっけ……ああ、修学旅行ね、そうそこで、その入れて貰ったグループではいつもの通りクラスの中と同様に空気になる事を心掛けるんだ。更にその時注意しなければいけないのは目立たないからと、空気だからと勝手な行動をしない事。そして自由行動で行きたい場所とかは言わない、とにかく邪魔にならない様に一緒に行動をすること。これでほぼ問題なく切り抜けられる。


 僕はこの方法で年数回の行事を切り抜けてきた。


 年数回はまだいい、問題は日頃良くあるパターン、例えば体育の授業とかで二人組を作る時、まあそれもボッチの天才の僕にかかれば何も問題ない。

 そこでも日頃の観察力が役に立つ。

 良くあるパターンではいつも組んでいる人が決まっているボッチ気味の人にあらかじめ目をつけておいて、相方が休んだ時にそれとなく組んでもらう。


 こいつ誰だっけ、まあ良いかって感じで組んでくれる。ここで注意しなければいけないのは、相手より上手くなってはいけない、かといって下手すぎても駄目、目立たず迷惑掛けず何事も無く終わらせるのが大事。

 他にも色々あるけど僕の心が持たないのでこの辺にしておこう。

 いつか奇跡的にこの物語が書籍化やコミカライズ等になった時に僕がボッチ相談コーナーとかやってみるから…………って……あれ? 僕は何を言ってるんだ?


 と、とにかく嫌われない様にするのが大事だ。嫌われたら最後……ボッチは誰にも助けて貰えないから。


 だから……今この状況に僕は大変困惑している…………



「はいお兄様、今日のお昼です」


「ちょっと泉さん、学校では私が真君を介助する約束でしょ?」


「そうですが、食事に介助は必要無いのでは? そもそもお兄様のお弁当を作るのは家での私の仕事ですから」


「仕事……へーー仕事なんだ」


「そうですが?」


「義務とか仕事とか……なんか仕方なくやってる様な言い回しだよね?」


「仕方なくなんて思っていません、私は妹として」


「妹は母親でも家政婦でもないと思うんだけど、そもそも」


「ちょ、ちょっと二人とも……あの……皆見てる……」


「あ……」

「あ……」



 僕の前で言い争う二人に困惑している周囲……いや、一番困惑しているのは……僕なんだけど。


 泉は僕にお弁当を渡し一緒に食べ始める。最近毎日では無くなったが、泉と一緒に食べる事はちょくちょくある。周りも兄妹だし、まああるよねって感じで生暖か目で見てくれていた。なので泉は良いんだけど、凛ちゃんも持ってきたお弁当を広げ僕と一緒に食べ始めた今、流石に周りは困惑している。そんな変な空気になっていた。


 クラスカーストトップの泉と、クラス委員長が今まで石ころよりも目立たなかった僕と一緒にお昼を食べ始めるとかなんなんだって思うよね? うん、僕も今まさにそう思っている。


「お兄様美味しいですか?」


「あ、うん美味しいよ、ありがとう」


「へーー泉さんて料理出来るんだ、意外」


「意外って、何ですか?」


「あ、ごめん、ほら泉さんてお嬢様だと思っていたから、うちの学校ってそういう人多いでしょ? 泉さんがいつも一緒に居る人達も結構良い家の人達ばかりだし。そういう家の娘達って料理とかしないんじゃないのかなって、大抵お手伝いさんとかがやってて出来ない人多いんじゃないのかなって思ってさ~~」


「ああ、そういう意味ですか、そんな事無いですよ料理は花嫁修行の一つですし、ご趣味で料理教室等にいかれている人も多いですし」


「じゃあ泉さんも?」


「私? まあ…………私そんな家柄では……ないですから」


「へーーーそうなんだ」



 凛ちゃんはあまり興味なさそうにそう返事をすると僕の方を向いてにこやかに笑うとまたお弁当に箸を付けた。


 でも僕は今の泉の言葉で今まで考えて無かった事が不思議なくらいな疑問が生じた。


 泉って……一体どういう人なんだ? いや、性格とか人柄はある程度知ってるよ、ただ泉の過去は? 小学校は? 住んでいた場所は? そもそも本当にお嬢様? さっき言ってた家柄は? 泉の母さん……僕のお義母さんは、なんで父さんと結婚したんだ? 


 そして……友達はお嬢様が多いし、泉の立ち振舞いもその中で遜色ないんだけど、そう言われてみれば家事万能のお嬢様って変な気もする。


 ……泉って……本当にお嬢様なんだろうか?



 タイトル詐欺? 僕の心にわけのわからない警告音が鳴り響いていた。

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