第32話 絶交だ!

 

 朝、いつも起こしに来るはずの泉が来なかった。

 とりあえず一人で起き制服に着替えてキッチンに行くと泉の姿はない。

 朝食の準備はしてあり、いつも通り朝から豪華な食卓。


 しかし何か昨日から様子がおかしい? 僕は首を捻りながら席に着くと、朝食の横に弁当が置いてあり、その上に二つ折りにして置いてある紙が1枚。

 

 開いて読むと、『先に行きます、お弁当はお兄様がご自分でお持ち下さい』と書いてあった。いつもお弁当は泉が持って行き一緒に食べているんだけど……あれ? やっぱり何か怒ってる? 


 まあ、一時的な物だろう、そもそも僕と泉は恋人じゃなく兄妹だし……お! これって初の兄妹喧嘩って奴か? なんて思いつつあまり気にせずに僕は朝食を食べ学校に向かった。


 しかし、僕と泉は同じクラス、何か顔を合わせづらいな、なんて思っていたが

 泉は毎日友人達に囲まれているので、泉の方から僕の事を気にかけない限り登校時は目を合わせる事はない。更に昼休みもすぐに友人数人に囲まれ、そのまま僕の方を全く見ずに教室から出て行ってしまった。


 うーーん、何か意識的に避けられている様な気がする。やはりあれか……ミカンちゃんの秘密を知ってしまったからかも……


 秘密を知ったけど誰にも言えないのが辛いのかも知れない。素直で真っ直ぐな性格の泉、やっぱり隠し事とか嫌なんだろ……僕が黙っていてくれって頼んだばかりに……


 嘘をつくのは辛いよね……僕が頼んだばかりに嘘をつかなくてはいけないという自責の念を感じているのかも? 

 

 こうしてはいられない、やはりミカンちゃんの事を皆に大々的に発表しなければ! 

 僕は丁度どこかへ行こうとしていた委員長(みかんちゃん)を呼び止め、人気の無い所で話そうと言い、僕が日頃一人でご飯を食べていた校舎裏へ連れて行った。


 人気の無い校舎裏に来ると赤い顔で何かモジモジしだす、みかんちゃん……なんだろう? トイレでも我慢してるのかな? と思ったので僕は単刀直入にみかんちゃんに言った。


「みかんちゃん! 僕は皆にみかんちゃんの正体を発表した方が良いと思うんだ!」


 僕がそう言った瞬間、赤ら顔のみかんちゃんが真顔になり、一度大きなため息をついた後に僕を睨みながら言った。


「あんたバカ?」


「うわ、エヴァネタじゃなく普通に言われた!」


「当たり前でしょ? なんで私がメイドの事を皆に言わなきゃいけないのよ!」


「で、でも、凄い事じゃないか、みかんちゃんは優勝したんだよ! トップメイドなんだよ! 皆のアイドルだよ!」


「あのね、あれはお店の宣伝になるからって言われて嫌々出たの!」


「えええええ! 嫌々で優勝しちゃったの! す、凄い凄すぎる! うわーーうわーーーさすがみかんちゃんだ、凄いいいいいい、やっぱり凄い、凄すぎる!」


「え、えっと、ありがと……いや、違うから、そうじゃなくて」


「どうして駄目なの? 勿体無いよ、僕が皆にどれだけ凄いか言ってあげるよ! そうだ学校の宣伝にもなるんじゃない? うち私立だし! 僕が校長先生に直談判して」


「やーーーーめーーーーてーーーーー」


「絶対大丈夫だよ! だって凄い事なんだよこれって、だから……」


「…………あのさ、佐々井くん…………何か隠してない?」


「ドキッ!」


「ドキッって口で言う人初めて聞いたよ、何よドキッって、やっぱり隠してるでしょ!」


「全然、ぜんぜぜんぜぜんぜん」


「動揺しまくってるじゃない!」


「ドングリコロコロドンブリコ♪」


「その童謡じゃない!」


「このドンブリコをドングリコって言っちゃう人多いよね!」


「誤魔化すな!」


「な、何がかな?」


「佐々井くん……私達友達だよね」


「う、うん」


「友達に隠し事は良くないんじゃないかな~~~~?」


「隠し事をしてるのはみかんちゃんの方だと……」


「私は佐々井くんには全部言ったよね、隠し事してないよね?」


「言ったと言うより、僕が気づいちゃっただけな気が……」


「あーーーーもう、男の癖にグチグチと! ほら吐け!」

 みかんちゃんは徐に僕のネクタイを手に持つとグイグイと強く引っ張り始める。く、苦しい……


「な、何も無い、隠し事なんて何も! く、苦しい……みかんちゃん苦しい」

 僕がそう言うとみかんちゃんは引っ張っていたネクタイを急に離した。僕はその反動で後ろによろけ尻餅をつく。力強いね、みかんちゃん……


「あっそ、じゃあもう佐々井くんとは絶交だね、もう友達でもなんでもないからね!」

 尻餅をついている僕を蔑む様に上から見下ろすみかんちゃん……畜生! ここで退くわけにはいかない! 僕は男だ! いいよ、絶交だろ! わかったよ! 望む所だ!


 僕は男らしく言った!


「ごめんなさいいいいい、捨てないでえええええ、おねがいじまずううう、なんでもはなしまずううううう」


 僕は男らしく……みかんちゃんの足にしがみつき懇願した…………


 だって高校になって、いや、中学に入って、いや、自分から望んだ初めての友達だもん! しかもあの僕のアイドルみかんちゃんだもん! そう簡単に友達解消されて堪るか!



 皆だってこうするよね! 絶対するよね? すると言ってえええ……

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