第17話 幼なじみと僕

 

 全然目立たない、いやそれどころか存在さえ認識されない子供それが小学生の頃の僕、まあ今とたいして変わらないんだけど……。



「さいしん……最新じゃん、名前カッコいいよね」


 僕を……佐々井 真を略して『さいしん』と呼ぶ彼女は、小学校での唯一の友達だった。


 気弱な僕は虐められこそしないものの、目立たないを通り越して存在しない様な状態だった。


「透明人間」

 僕は自分をそう思っていた、でも虐められるよりはいい、自ら目立たない様に透明人間の様に学校へ通っていた。


 別に苦ではない、かといって楽しくもない学校生活、いや学校だけじゃなく家でもか……父さんは仕事でいつも帰りが遅い、休みも僕とは中々合わない、僕はいつも一人だった。


 そんなある日、学校から帰る途中、近所の川で柵越しに下を見つめる女の子がいた、僕はいつもの様に透明人間の様に横を通り過ぎようしたその時、その子の異変に気が付いた、泣いている?


日頃目立たない様に、関わらない様にしていた僕、でも何かをその子から感じたのか? その時はついその子に話してかけてしまった。


「どうしたの?」


 僕に話しかけられ振り向いたその子に僕は見覚えがあった。


 同じクラスの女子、一応女子と言った方が良いのかも知れない、いつでも半ズボンを履きランドセルも黒、おとこおんなと言われてよく男子と喧嘩をしていた子だった。


「あのね……ネコが」


「ネコ?」


 泣きながらネコがという彼女、クラスでは勝ち気なイメージのそれとは全く違うその姿に僕は少し驚いた。


「ネコが……」

 そう言って再び川を覗きこむ、柵を越えんばかりに乗り出し下を見ている。


「危ないよ」

 僕がそう言って止めようとしたその時。


「いた! ネコちゃんいた!」


「え?」

 そう言われ慎重に彼女の横で川を覗き見ると、2m位下、幅20cm位の縁にネコが座っていた。


「良かった川に落ちちゃったかもって」

 そう言って僕を見てにこりと笑った。


「でも何であんな所に」


「私が……わたしのせい……ネコかわいくて、撫でたくて追っかけたら川に……」


「うーーん、追っかけたら逃げるよね」

 おいつめられたネコは慌てて川に向かい手の届かない縁に飛び降りたって事か……


「あのこ、あそこから登れるかなあ?」


「うーーん、上がコンクリートだからジャンプしても爪が滑って落ちちゃうかも……」


「えーーーじゃあ! 助けないと」


「うーーん、でも……僕達じゃあ無理だから大人の人に」


「大人の人って?」


「えっとこういう時って警察? 消防?」

 前に動物が電柱に登って降りられなくなったっていうニュースで警察官や消防官が、はしご車とか使って助けたっていうのを見たことがあった。


「え! そんな……わたし怒られちゃう」


「え?」


「ネコちゃんあそこに逃げたのわたしのせいだから」


「うーーんでも、このままって訳にも」

 下を覗きながら僕が言うとその子は自分の保身の為にネコを助けるのがいやと言った自分を恥じる様に謝った。


「……うん、そうだね、ごめんなさい」


「…………ちょっとその傘貸して」


「え?」


 朝雨が降っていた為に持っていた傘、僕は彼女から借りた傘と僕の傘を重さね持っていたセロハンテープで二つを固定し、さらに爪を引っかけられる様に体操着を傘に巻き付けそれもセロハンテープで止めた。


「これを下に降ろせば登って来るかも」

 そう言ってネコから少し離れた場所に慎重に傘を降ろし柵に固定した。


「ここいたら怖がって登って来ないから向こう岸に行こう」


「うん」

 僕らは近くの橋を渡り向こう岸からネコを見る。


 ネコは下に降りようか、暫く左右をうろうろしていたが、やがて僕の取り付た傘の所で上を見上げる。


「行け! 登れ!」


 そう言うとネコはその傘を足場にぴょんぴょんと飛ぶ様に傘を使って登りそのまま住宅街に逃げて行った。


「やったああああああああ!」

 僕は彼女とハイタッチする、まさかこんなにうまく行くとは思ってなかったから。


「すごい! あなたすごいね!」


「ううん、たまたまだよ、じゃあ傘回収しないと」


「うん、ありがとう!」



######



 

「そうそう、それで次の日教室で真ちゃん見てびっくり、えーー同じクラスだったのって」


「あーーうん、まあ目立たない様にしてたから」


「それにしてもだよーー本当まるでステルス戦闘機みたいに思ったもん」


「だから最新鋭機でさいしんって……ちょっとね」


「あははは、そうだね、真ちゃんの方がいいね、確かに」



####



 そしてその日一緒に帰ろうと愛真は僕と帰りその途中で言ったんだ

「さいしん、友達居ないなら、わたしと友達なろうよ」


「えーーー」


「えーーーってなによ!」


「でも……僕女の子と遊んだ事ないし……女の子苦手」


「わたしだってほとんどないよ! いっつも男の子とばっかり遊んでる、なんか女子って苦手」


「僕……お母さん居ないんだ、だから女の子ってよくわからなくて……」


「そうなんだ……」


「そうだ! じゃあわたしお母さんにはなれないけど、お姉さんになってあげる、さいしんのお姉さんに! それなら良いよね?」


「えーーー、なにそれ?」


「うるさい! ほら行くよ」


「行くよって、どこへ?」


「さいしんの家」


「な、何で?」


「姉なんだから家に行くのは当たり前でしょ!」


「何でだよ~~わかったよ、じゃあ……その……友達で」


「ふふふ、じゃあ姉であり友達で、姉逹だね」


「な、なにそれ、なんでそんなに姉が良いんだよ」


「わたし、前から弟が欲しかったんだ、さいしんってちょっと可愛いし、弟にぴったり、だから今日からわたしはサイシンお姉さん!」



「えーーー!」


「ほら行くよ!」


「行くって知らないだろ僕の家」


「良いから案内しろ~~」


 それから愛真はちょくちょく僕の家に来るようになり、一緒に遊ぶ様になった。


  

####




「ハイハイ、昔話しはこの辺で、じゃあほらケーキも食べ終わったしそろそろ帰って」


「えーーーーもう? せっかく帰ってきたお姉ちゃんをそんなあっさり追い出すなんて~~」


「同い年でお姉さんって」


「良いじゃん、私の方が生まれた月は早いんだから」


「ああ、そうか……またか」


「また?」


「ほらえっと僕の妹、泉も同い年で生まれた月が遅いんだ、だから妹だ! ってさ」


「ふーーん、じゃあ泉ちゃんは私の妹だね」


「えーーーーー?」


「真ちゃんの妹なら私の妹だよね」


「うーーん、泉がなんて言うかな~~、こんながさつな姉はいらないって言うんじゃ?」


「言ったなさいしん~~~姉に対してその口の聞き方! お仕置きだああああああ」

 そう言うと愛真は僕の背後に回り込み頭を腕と胸で締め付け、ヘッドロックをかけてくる。


「痛い痛いっていうか、当たってる当たってるるうう」


「お姉さん、ごめんなさいは? ほらごめんなさいしろおおお」


「痛い、って言うか、苦し……」

 痛……気持ちいい……





「お兄様なにをしていらっしゃるんですか?」

 

 その声に驚きながら振り向くと、開いていたリビングの扉の向こうに真っ黒な物凄いオーラを纏った泉が、僕と愛真を射るような目で睨みつけながらお約束の様に立っていた。



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