第13話 ミカンちゃん♡

 

 一体泉は僕の事をどう思っているんだろう?


 僕はとりあえずお兄様と呼ばれる以前の事を考えていた……




 中学受験のあの日、僕は泉と……、薬師丸さんと出会った。


 まあ実は薬師丸さんがいるから、僕はこの学校に入ったんだけど、残念ながら中等部1年、2年と同じクラスになれなかった。


 でも3年の春、念願叶い遂に薬師丸さんと同じクラスになった。


 僕は廊下ですれ違う位の関係だった彼女と少しでも、ほんの少しだけでもお近づきになりたくて、これを、この事をきっかけに話しかけようとした……でも出来なかった。



 そう、泉は僕には眩しすぎた。



 3年の新学期、クラス替えにて薬師丸さんと遂に同じ教室で勉強出来ると知った僕は、かなり早くに学校に着き教室で彼女を待っていた。


 僕は姑息にも考えたんだ、3年生の新学期、新クラス、雰囲気がまだ探り探りしている状態で彼女に話し掛ければ、ひょっとしたら少しはお近づきになれるかも、あわよくば友達になれるかも知れない、そんな思いで僕は彼女を待っていた。


 ほぼ一番乗りで教室に入り、そしてそのまま指定されていた席に着き彼女うぃ待っていると、次々と新クラスメイトが登校してくる、やはり皆探り探り教室に入って来ていた、そして顔見知り同士で話す、それなりに生徒数が多いうちの学校、当然複数の友達同士で同じクラスになる確率も低くなる、やはりバラバラになったのかグループとかでは話していない。


 これはチャンスだ!、グループ、つまりクラスカーストが出来上がる前に薬師丸さんに話しかけよう、ひょっとしたら入試の時の事を覚えているかも知れない


 僕はそんな期待をしながら今か今かと薬師丸さんの登校を待った。


 そして暫くして遂に彼女が、薬師丸さんが登校してきた。


 扉が開き彼女が教室に入って来た、僕は話しかけようと席を立とうとした。


 でもその時、僕は空気を感じた、探り探りしていた皆の空気が一変したのが分かった。


 そうなんだ、僕はそこで気がついてしまったんだ、薬師丸さんががクラスに入るなり、クラスカーストは彼女を頂点にして一瞬で出来上がってしまった事に。


 それほどのオーラが彼女にあった、僕なんか到底話しかけられないレベルの女子達が彼女の元にこぞって集まる、友達同士で話していた者達も話すのを中断して彼女の元に駆け寄る。



 クラス全体の空気が彼女を中心に波紋の様に広がっていく。



 僕は話しかける所か、近付く事も出来なかった。


 薬師丸さんと話す事は……僕には一生出来ないとまで、その時は思った、



 でも……そんな人が、そんな人を、僕は今、「泉」と呼び捨てにし一緒に暮らしている。


「奇跡なんだよな……これって」


 奇跡、運命、僕の天使、そんな人が僕の事をお兄様と呼び一緒に暮らしてくれている、僕はこれ以上の奇跡を願ったら天罰が下るんじゃないかとさえ思っている。



「だからいいんだよね、これで……ただの兄妹で……良いんだよね……これ以上はさすがに……」



 そんなこんなを考えながら歩いているうちに本屋に到着した。とりあえず売り切れたら困ると僕は雑誌コーナーに足を運ぶ。


 いつもの本屋で、いつも買っている本、というか、この辺に本屋はここだけなんだけど、と、言う事で僕は迷うことなくいつも通っているメイド関連のコーナーにたどり着いた…………ん? あれ? なんか……怪しい女がいる。


 真冬でもないのに、コートにマフラーにニットの帽子、そしてマスク姿の怪しい人物、辛うじてスカートを履いているのが分かったので多分女子? がメイドコーナーで何かを探している。


「何を探しているんだ?」


  目が悪いのか、本にくっつきそうな近さで平積みの雑誌を見ている。


 そしてある本の前で立ち止まると、その本を全部持ち上げようとした…………って……えええええええええええ!


  僕は見た、見てしまった、その怪しい娘がごっそり持って行こうとしている本のタイトルを……



 『全国メイド喫茶女子ナンバー1決定戦』


「えーーーーーーーーーぜ、全部!?」


「え?」


 僕がそういうと彼女は僕に気を取られ、本を持ち上げたその手をいきなり放してしまい、勢い余ってそのまま後ろに倒れ更に床に尻餅をついた………………えっと……白?。


 彼女のスカートが捲れ上がり、被っていた帽子が落ち、マフラーがずり落ちる。


「きゃ!」

  可愛い悲鳴上げて尻餅をつく彼女はスカートはそのままの状態で、慌ててニット帽を拾いあげ素早く被り、更にマフラーで首元を隠す。


 そしてそのまま僕を見る、目を細めて僕をじっと見つめる……いやだから、スカートが……


「あの?」


「な、何?」


「いや、えっとその、スカートが捲れてますけど」


「きゃああああ!」


 慌ててスカートを素早く直し、なに食わぬ顔で立ち上がるとその怪しい女は僕の方に近づいて来た。


 えっと……なんかどこかで見たことある人だな……誰だっけ?


「あんた、なんか言った?」

 周囲を気にしながら、指でマスクを押し下げ、小声で僕に話しかけて来る。


「え?」


「今私に話しかけて来たでしょ? 何? 本屋でナンパ?」


「ええええええ、し、しないよそんな事」

 ナンパなんて出来る分けない、そもそも僕について来る女子なんている分けないもん。


「じゃあ何よ!」


「えっと、その、本を……」


「は?」


「だ、だから、その……全国メイド喫茶ナンバー1決定戦のその本を買いたいんだけど……」


「ああ、駄目よこれ全部私が買うんだから」


「えええええええええええ! ぜ、全部?! そ、そんな……困るよ……」


「うるさい、この周辺でこの本売られたら私が困るのよ!」


「な、何で?」


「なんでもよ!」


「で、でも……買い占めはよくないと……」


「うるさい! オタクは黙ってなさい!」


「オタクって……あ、あなただって、そんなの買ってるんだから同じ穴のムジナじゃないですか!」


「はあ? バカ言わないで、私をあんたらメイドオタクと一緒にしないで!」


「じゃあ、何で買い占めなんて」


「それはこれに私が載ってる…………」


「載ってる? …………載ってるって…………あ、ああああああああああああああああああああ!!」


「な、何よ!」


「あ、あ、あ、あなた、メイドっ子喫茶の……ミカンちゃん$」


「!!!」


「うわ、うわ、うわあああああああああああ!、ファンなんです、ぼ、僕、大ファンなんですうううううううう」


「ちょ、ちょと、静かに」


「あ、握手してください、あ、是非サインを!」


「ちょ、ちょっと、き、来なさい!」


「ああああ、ミカンちゃんがミカンちゃんが僕の手を~~~」

 あああ、手が手が、や、柔らかい、暖かい~~

 憧れのミカンちゃんと手を繋ぎ本屋の裏路地へ短いデート、ちょっと、いや、かなり引っ張られているけど、ああ幸せ~~


「あんた……そうか、あの本買おうとする位だもんね」


「ミカンちゃんの手……ああ、みかんちゃんが」


「ちょっといつまで握ってるのよ、キモい!」

 繋いでいた手を無理やり振りほどかれる、あああ、短い逢瀬だった。


「あああ、手がああああああ、みかんちゃんの手がああああ」


「うるさい! 良いからちょっと待ってなさい、今コンタクト付けるから!」


「コンタクト? ああ、だから色々ぶつかってたのか、でもそこまで目が悪かったら最初から付けておけば良かったのでは?」


「うるさい、いつもはメガネなのよ!」


「メガネって……いや、あの……普通逆なのでは?」


「うるさいって、今日は急いでたの! あーー入らない」


 なんとかコンタクトを付けるミカンちゃん♡


「よし! あんたね…………あんた……あれ? その制服って、えっと……あんたどこかで」


「ん?」


「ああああああああああああああああああああ!!」


 僕のミカンちゃんが僕を見て物凄く驚いた……ああ驚いている顔も可愛いな~~~♡







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る