第3話 お兄様と呼ばれて……


「お兄様と呼んでもいい?」


 思い人から突然そう言われ断れる分けもなく「はい」と、答えた僕……で、でも意味がわからない……ど、どういう事? 


 泉さんからの勘違いしそうな視線に僕は動揺した。一体なんなんだ? クラスメイト、カーストトップ、しかも学園のアイドルと言っても過言じゃない娘から突然お兄様と呼ばせろなんて、これなんてエロゲ?

 

 程無くして、父と恵さんが戻って来る。そして何事もなかったかの様に再び和気あいあいと会話が始まる。僕だけをを除いて……


 そして僕の戸惑いと動揺を隠しきれないまま、食事会は終わった……


 とりあえず、今日は家族の顔見せだけ、お互い慎重なのか父と恵さんの結婚や、一緒に暮らす等の話し迄は無かった。


 いや、泉さんと一緒に暮らすとか…………無理だよね……

 そして謎のお兄様宣言、一体なんだったんだろう……食事会を終え帰る中、僕は首を捻るばかりだった。



 そして翌日、さらに首を捻る自体に……




 「お兄様! 一緒に学校に参りましょう」

 朝、僕が家を出た途端そう声をかけられた、勿論相手は泉さん…………ええええええええええええええ!


泉さんが家の前で僕の登校を待っていた。


「えっとえっと……どうした……んですか?」


「お兄様と一緒に学校に行きたくて……駄目ですか?」


「いや、駄目って事は……」


「迷惑でした?」

 伏し目がちに泉さんから悲しそうに見つめられ、迷惑だなんて僕が言える分けがない。


「そ、そんな事無いよ! 迷惑なんて、ちょっとびっくりしただけ」


「本当に?」


「本当、本当、っていうか、僕なんかと一緒に登校して、良いの?」


「勿論ですわ、お兄様と一緒に登校するのは妹の務めです!」

がんばるぞいポーズを取る泉さん、うわ、超絶可愛い……でも。


「務めって……」


「さあ遅刻してしまいますわ、参りましょうお兄様」

 上機嫌で僕の横に並ぶ泉さん、一体全体何が起こってるのか? 皆目検討もつかない……しかしこのままと言うのも……僕は恐る恐る薬師丸さんに尋ねた。


「あ、あの……薬師丸さん?」


「泉! お兄様、もうすぐ家族になるんだから名前で呼んで下さい」



「あ、そ、そうだね、えっと、泉さん」


「泉って呼び捨てにして」


「えええええええええ」

 呼び捨てなんて無理だよ、名前で呼ぶのもかなり抵抗があるのに……って言うか女の子と喋るのだって何ヵ月ぶりだよ、まともに会話するとか小学生の時のあいつ以来だと言うのに……ましてや名前で呼ぶなんて……


「兄が妹を呼び捨てにするのは当たり前でしょ?」


「いや、まあそうなんだろうけど……」

 昨日突然妹宣言されて、翌朝いきなり自宅で待ち伏せ……さらに呼び捨てにしろと言われても……


「言って、泉って呼び捨てにしてお兄様!」

今までに無い至近距離、うるうるとした綺麗な瞳で僕を見つめてそう言う。

 やっぱり可愛い、可愛くて美しい……


「えっと、じゃあ……い、泉……」


「はい! お兄様!」

屈託の無い満面の笑みで僕を見る泉、本当に妹の様なその笑顔に僕はドキドキしてしまった。


 そのまま学校に向かって一緒に並んで歩く僕と泉……うわ緊張する、手汗半端ない……いや、それより学校迄このまま無言って駄目だよね、な、何か喋らなければ……


「えっと……泉って今は何処に住んでるの」


「学校から20分の所です、いつもは歩いて登校しているけど、今日はお兄様を迎えに来たので電車を使いました」


「電車を……」

 え? 僕の家から学校迄歩いて20分位、近所なら電車なんて使わないよね、つまり学校とは正反対の場所って事?


「ちなみに……何時から待ってたの?」

そして僕の登校する時間なんて知ってる分けないよね、それなのに家の前で待ってるなんて……


「1時間位しか待ってないですわお兄様」


「1時間……」

 ちょ待て、つまり家を出たのは更に早い時間って事?


「えっと……は、早すぎない?」


「今日はお兄様が何時に出られるかわからなかったので、いつもこの時間ですか?」


「えっと、うんそうだね」


「では明日はこの時間に待ってますね」

 

 あーーーそうですんか……明日も来るんですか……


 一体この娘は、何を考えているんだ? 僕は全く分からないまま彼女……泉と一緒に登校した。


 そして僕は泉とこのまま登校したらどうなるか、この時は全く気が付かないでいた。

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