第2話 お兄様と呼んでいいですか?
僕は唖然としていた。しかし彼女は全然そんな事はなく、いつもの凛とした顔で僕を見つめていた。
高級ホテルでのディナー、僕には全くの場違いで全然気乗りしなかったが、今日だけは仕方がない、僕の家族になる人と会うんだから。
そう、今日は僕の家族になる人との食事会、母親になる人と妹か姉になる人に初めて会う。
父親が再婚をすると聞いて僕は嬉しかった、僕がまだ幼い頃に母が死に仕事をしながらずっと一人で僕を一生懸命育ててくれた父。
父は若くして結婚したのでまだ40前、母が死んで10年が過ぎこのまま一生再婚しないのかな? と思っていた矢先、実は今付き合ってる人がいる、相手も再婚で僕と同じ年の娘がいるとの話しを聞いた。
突然の父からの申し出に僕は晴天の霹靂なるも、その言葉が嬉しかった。まだ父も若い、父には幸せになって貰いたかった。僕は父を再婚を応援しようと決めた。
そしてその告白から数ヶ月後の今日、僕は父の再婚相手を正式に紹介して貰う事になった。
着なれないジャケットにネクタイを締め、高級レストランに入り席に着く。
僕は落ち着かず周りをキョロキョロしていた。暫くすると、入り口から上品な格好をした二人の女性が入店してきた。カジュアルドレスを纏い、清楚な姉妹のイメージ、さすが高級レストランだなぁと思っていたが、その二人はこっちに向かって歩いてくる。しかも一人は僕のよく知ってる人物だった。
へえ~~偶然だな~~、でもこういう所で食事とか彼女にぴったりだなぁなんて他人事の様に思っていた。しかしその時父が徐に立ち上がり彼女らを僕達の席に迎え入れたって…………ええええええええええええええええええええ!
僕は驚いた……いや、何が驚いたってまずは父の相手だ。若い、若すぎるとにかく若い……大学生かよっていう位の若さ……そして綺麗だ、とにかく綺麗だ、あり得ない位に綺麗だ……は? この人なの? この人が再婚相手?
そしてその隣には……クラスカースト最上位、皆の憧れの的、そして僕の思い人、薬師丸さんが立っていた。
「えっと、あなたが真君ね?」
「あ、はい、しんです、佐々井 真です、初めまして」
「うふふ、聞いてた通り可愛いわね、私は恵、こっちが娘の泉」
「こんにちは、真君」
「こ、こんにちは……」
やっぱり娘だった……姉妹じゃなくて……娘……
そして全然驚きもしないで、いつも通りの凛とした表情で僕に挨拶をしてきた。え? あれ? ひょっとしたら……知ってたのか?
そんな僕の困惑はクラス内と同様に無視されるかの如く、僕を除く3人は和気あいあいと会話を弾ませ、食事会は何事もなく僕だけおいてけぼりで進んで行く。
しかし、さすがにクラスと違って家族……いや、これから家族になるのだから、そんな僕をほったらかしにはしなかった。特に息子になるとあって義母さん、いや、まだか……恵さんは僕に色々聞いてくる。趣味は何か? とか学校で部活はやってるか? とか……
趣味はアニメだし部活は帰宅部だし……僕は薬師丸さん……えっと泉……さんの顔を、反応をチラチラち見ながら質問に答えていた。
僕が恵さんに質問をされている時、泉さんは特に無反応、興味無さそうに黙々と食事をしている……まあ興味無いよね。
「あ、そうそう、真君、お誕生日はいつなの?」
「あ、えっと8月ですね、8月の……」
『ガチャン』
僕が誕生日を言おうとした瞬間、泉さんの方から大きな音がした。
見ると泉さんがコップを皿の上に落とし呆然と僕を見ていた。
「泉? どうしたの? 大丈夫?」
恵さんが声をかけるとハッとした後に慌ててコップを皿から取り、フキンでこぼれた水を拭きはじめる。
優雅に食事をしていた泉さんが普段見せた事の無い表情を浮かべながらアワアワと慌てる姿に、僕は少し親近感が湧いた。でも……なんで慌てたんだろう?
そしてそれ以降泉さんは僕の話しを真剣に聞き始める。ウルウルとした目で真剣に……
え? なんなの一体? この態度の急変は何?
食事会も終盤、デザートが出た所で父に電話が入り席を外す。そして恵さんがお花を摘みに行くと言って席を立った。お花摘みってトイレっていう意味なんだけど、本当に言った人を僕は初めて聞いたよ。
そして僕は泉さんと二人きりになる……や、ヤバい、緊張する、中学の頃から好きで憧れてた女の子と二人きりになるなんて今までなかった。極度の緊張状態の僕に向かって、彼女は微笑を湛えウルウルした瞳で言った。
「あの……真君…………これから……ううん、今日から……お兄様って呼んでも……良い?」
「へ? えええええええええええええええええええ!」
僕の初恋の君、クラスカーストトップの学園アイドルから突然お兄様と呼ばれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます