異端のインターン👩🎓
先般の合同企業説明会でわたしがスカウトしたかのようなノリで、卒業後の正式採用を前提にインターンでの受け入れが決定した女の子なのよね。
そしてまるで当然みたいな感じでわたしがチューターとして徹底指導にあたることになったもんさ。
「花蜜花ちゃん」
「エンリ先輩〜、わたしの苗字呼びづらいでしょう〜。略していただいていいですよ〜」
「うーん。じゃあ、カミちゃんとかどう?」
「うわあ、かわいいですー。そうしてください〜」
ほんとは事務所の中でできる仕事から教えていけばいいんだろうけど、それじゃわたしの仕事が回んなくなるからさ。
いきなりお客さん回りに連れてくことにしたよ。
しょっぱなはカミちゃんのお爺さんと同じ個店の回らない方のお寿司屋さんだよ。
「こんちはー」
「おお、エンリちゃんこんにちはー。その子は?」
「へへ。大将、ウチの超新星の新人だよっ」
「花蜜花です〜。よろしくお願いします〜」
「カミちゃんとでも呼んであげてよ大将」
「ほほー。ずいぶんと優しい感じの子だねー。ま、よろしく頼むよ」
大将とわたしはカウンターに横並びに座って資材の納入についての打ち合わせをする。その横でカミちゃんはメモを取りながら必死に仕事を覚えようとしてるみたい。
「なかなか勉強熱心だね。どれどれ」
わたしは何気なくメモを覗いたんだ。
①大将はガラガラ声で地声大。
②店内は典型的なお寿司屋さんの店構え。
③お品書きには『時価』の文字も。うーん、雰囲気ある〜。
④ただお客さんがいない時間なのが残念。描写の材料やや不足。
⑤シチュとしてはお孫さんが寿司職人の天性の資質を持ってるけれども目指してるのはカルメ焼き職人とか?
「??? カミちゃん、なにこれ」
「ネタ帳です〜」
大将が『ネタ』という単語に反応する。
「ほー、ウチの店のこと勉強してくれるつもりかい、ネタなんて」
「いーえー。小説のネタ・・・」
「わー! わーわー!」
音声聞き取りを即座に妨害したよ。
「じゃっ、大将! また来るね!」
「お、おう。エンリちゃんもカミちゃんもまた」
移動中の軽四ワゴンの中でわたしはカミちゃんに先輩として指導したよ。
「カミちゃん、小説のネタ帳はダメだよ。仕事なんだから」
「はい〜、すみません〜。でもわたしはあ〜、授業も受験勉強も大学の課題も〜、小説に結びつけてクリアしてきたんです〜」
「え? どゆこと?」
「例えば日本史を勉強する時も〜、歴史上の人物をわたしの小説のキャラに見立てて〜、ネタとかプロットを書くみたいにして覚えるんです〜」
「???? ど、どんな風に?」
「じゃあ、やってみますね〜。織田信長をキャラにします〜。
ノブナガは激情のただ中にいた。
『地獄で待ってろや、オヤジ!』
そう叫んで焼香の、まだ線香の熱が伝導して熱いその流砂のような灰を、ぐわしっ! と真鍮生のポットの中に拳をめり込ませるような感覚で突っ込み、その握る形に高圧で圧縮するように鍛え上げられた握力でもってホールドした。
そして大リーグに最初の挑戦をした先駆者のような渾身のストレートを投げ込むフォームでもって振りかぶり、父の位牌めがけて灰を放った。
それは灰でしかないはずなのに拡散せず、間違いなく凄まじい握力の賜物であろう、球形を保ったまま、確実に父親の位牌に、ドゴオっ、とぶっつけられたのであった。
ノブナガのこの行動の意味はふたつ。
ひとつは家臣どもに、「俺に刃向かうのなら覚悟を決めろよ!」と宣言するきわめて政治的・戦略的な理由。
そしてもうひとつは、彼の若くたぎる抑えきれない将来への展望・・・いや、野望! その野望をこれから自らが実現しきる、そのプレイボールの初球としての大暴投を投げ切る中二病だったのだっ!」
わたしは助手席から発せられる、これまでのカミちゃんとはまるで別人の声質、そして『〜』と語尾が伸びない喋り方を聴いて思わず言ったよ。
「す、すごい・・・」
「あ、すみませんエンリ先輩〜。わたし〜、物事を
「うーーーーん。いや、ある種異能だね。異端の選ばれし者の異能かもしれない・・・」
「わー、カックンヨムンヨでも投稿の先輩にそう言われると嬉しいです〜」
「ごめん。それはやめて。わたしはPV薄き幸薄きワナビだから。カミちゃんみたいにグランプリ獲ってないから」
しかしなあ。
これをお客さんの前でまともにやってたらさすがに仕事になんないなあ。
あ。
でもちょっと待って。もしかして。
「カミちゃんはつまり中二病だよね」
「はい〜、脳内で思考をノベライズしたら人格すら変わります〜」
「じゃあ、次、試してみよっか」
「はい〜?」
次はお蕎麦屋さん。
手打ちこだわりのスタンスで実直に店をやってるまだ若いご主人にちょっと試してみたよ。
「店主さま。なんときめ細かな粒子をきらめかせる麺なのでございましょう。この麺をもってすれば隣国の襲撃など恐るるに足りませんわ」
「え・・・いやあの」
カミちゃんの脳内ノベライズの設定は、蕎麦の麺を自在に操ってかつて七つの大陸からの侵攻を水際で、しかもたった1人で防ぎ切った伝説の蕎麦職人が主人公のハイファンタジー。その英雄が蕎麦屋のご主人という設定だ。
冒頭のご主人に向けられたカミちゃんのセリフを真似てわたしも参戦する。
「おお! 今また隣国がジンクスを破るべく再び我が国土を冒そうとしております! 今やかつての功績から我が国の精鋭部隊、『ヌードル・コミッティー』を虎狼の如き勇ましさで手足のように指揮なさる店主さま。わが職工たちが艱難辛苦の工夫の果てに、きらめくこの麺を完璧に制御するツールを作り上げました。どうぞこのプロト・タイプをご覧ください!」
わたしは、自信を持って掲げ示したよ。
「麺がすべらない割り箸でございますっ! 是非とも
「要らん」
・・・・・・・・・・・・・
「あーあ。もう少しで大口契約だったのになー」
「エンリ先輩〜、仕事っておもしろいですね〜」
「いやいや。ほんとはこんなんじゃないから。お客さんによっては逆鱗に触れちゃうから!」
ふむふむ、とカミちゃんは助手席でわたしのその言葉をまたもメモってる。
うーん。
カミちゃんもそうだけど、なんかわたしも段々仕事の質が異次元になりつつあるなー。
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