偏執談義ダイナー編🇬🇧

 時折こういうことをやってみたくなるんだよね。まあ、暇つぶしだと思ってお付き合いくださるとありがたいね。


 とある平日の夜。せっちゃんのダイナーにて。


「ねえ、エンリちゃん」

「なあに、クルトンちゃん」

「エンリちゃんは目玉焼きは醤油派? ソース派?」

「あ。ありがちな話題だね。そうねー。わたしはとんかつソース派かな。クルトンちゃんは?」

「わたしはウスターソース派」

「僕は魚醤ぎょしょう派っ!」


 ボンの合いの手に対し、


「え?」


 とクルトンちゃんとわたし2人して訊き返す。


魚醤ぎょしょう派!」

「ボン、魚醤ぎょしょうって、魚を発酵させた醤油だよね。持ってんの?」

「はいー。欠かせませんよ、なんとも風味が豊かで」

「まあ、確かに通って感じはするけどさ。それでか。ボンの部屋から時折ものすごく生臭い匂いがしてくるのは」

「みんなそれぞれだね。じゃあ、焼うどんはソース派? 醤油派?」


 クルトンちゃんが更に話題を振ってきた。わたしは速攻で答える。


「醤油派! あのねー、炒める時に出汁を入れてね。出汁の水分が無くなったところで醤油をジョワっ、てかけるともう最高! 熱々のところに鰹節ふりかけて踊らせてさー」

「わ、美味しそ! エンリちゃんさすが! わたしはねー、お好み焼き用のソース派。結構コクがあって美味しい仕上がりになるよ」

「僕はタラの煮付けの煮汁派」


 ボンがまたもイレギュラーな嗜好を披露する。


「いや、美味しそうだとは思うけど、そんな状況滅多にないでしょ?」

「エンリさん、そんなことないですよ。大家さんが時々魚の煮付けを差し入れしてくれるんで、もったいないからその煮汁で色々料理するんですよ」

「なるほど」


 ボンの意外に堅実で味のある習慣にクルトンちゃんもわたしも関心したもんよ。

 こだわりの話題は今度はお菓子に移る。


「カステラ食べる時の飲み物は?」


 わたしから振るとクルトンちゃんが誇らしげに答えた。


「抹茶!」


 おー! とボンとわたしがクルトンちゃんのステキな趣味を褒め称える。わたしも負けてらんない。


「わたしはコーヒー。ブラックでね。それでね。福砂屋のカステラって知ってる?」

「あ、知ってる知ってる!」

「さすがクルトンちゃん。それでね、その五三焼きってこだわりの卵を使ったやつがあるんだけどね、それを頬張ってその状態でコーヒーを飲むとね。これがまあコーヒーが全く別の飲み物のように美味しくなるのさ」

「わー」

「でね。その五三焼きはカステラの底の部分にね、ザラメが惜しみなく使われててね、そのザラメをジャリっ、て楽しみながらまたコーヒーを口の中に流し込むともう、極楽! って感じ!」

「僕はミルクセーキですね」

「え」


 唖然、とまではいかないけれど、ボンの嗜好ってやっぱり予測がつかない。


「でも、カステラにそんな甘い飲み物」

「ちっちっちっ。エンリさん、クルトンちゃん。子供の頃、僕のばあちゃんが用意してくれるおやつの最強コンビネーションだったんですよ。卵黄入りの甘〜いミルクセーキにカステラ。甘さを持って甘さを制す! そして卵の相乗効果! ばあちゃん万歳!」


 へえ・・・

 ボンの言ってることは妙に説得力があると思ったら、ばあちゃんがその大元か・・・なるほど、ボンの憎めないところとかってばあちゃんのお陰もあるのかもな。


「こんばんはー」


 アベちゃんとハセっちが珍しく同時に店に到着した。この大人の2人が加われば更に談義が広がりを見せると踏んだよ、わたしは。


「じゃあさー、次は一番好きなケーキの種類は?」


 クルトンちゃん、ナイス選択!

 これは盛り上がるよー。


「じゃあ、僕から」


 お。アベちゃん。The 大人、の嗜好、興味あるよー。


「僕はザッハトルテ。しかもマーマーレードをたっぷりと挟み込んだ酸味の効いたやつね」

「おーーーーっ!」


 渋くてしかもオシャレでなおかつおいしさが目の前に見えるようだよ。

 全員脱帽、って感じで感歎の声を上げたよ。


「俺はね、モンブラン」

「あれ? ハセっち、なんか意外。地味目だねー」

「ふふふ、エンリちゃん。俺のは1個1,000円のマロングラッセ入りの特注のやつさ」

「わっ! さすがCTO! リッチ!」


 クルトンちゃんはかわいらしく苺ショート、わたしも女子の面目躍如でミルフィーユ。

 今回はボンはオチにならなくて意外と普通のロールケーキ。


「そういえばせっちゃんは?」

「わたしかい? わたしはフルーツ・ケーキだね」

「へー。なんかオシャレ」

「ロンドンに住んでた時、父親がよくクラブに連れてってくれてね。パンク真っ盛りの時だったんだけど、必ずドライフルーツをたっぷり入れたフルーツケーキを母親が焼いてくれてね。それをバスケットに入れてわたしが手に持って。で父親と一緒にクラブに行ってね、出演してるグラムロックのバンドたちに差し入れするのよ」

「バンドにフルーツケーキを?」

「そうよ、エンリちゃん。子供ながらになんてオシャレでカッコいいんだろう、って父親のことが誇らしかったわね」


 なんか、凄いステキだな。


「グラムロックだから男のバンドマンたちもメイクしててね。衣装も今のパリコレなんかより洗練されてたなって思うわよ」

「せっちゃん、カッコいい」

「まさか」


 せっちゃんはわたしの言葉を否定した。

 けれどもこう続けてくれたよ。


「好きなことを好きなように愛する。それでいいんじゃないかしらねえ」


 せっちゃん。

 やっぱりカッコいいよっ!



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