第51話 水攻め

「カナレ、このままだと水死してしまうぞ」

「ご主人さま、私がどうにかします」

 俺はカナレとキスをすると、カナレが息を吹き込んできてくれた。

 カナレとキスをしているので会話は出来ないが、念話は使える。

「カナレ、水の出て来た穴を逆に辿ろう。どこかに通じているハズだ」

「はい、ご主人さま」

 俺はカナレとキスをしたまま、水が出て来た穴に入り、逆方向に行ってみる。

 ちょっと行くと、穴は縦になっている。俺とカナレはキスをしたまま泳いで、水の上の方へと行く。

 10mぐらい泳ぐと水面に出た。だが、そこはまだ暗い。

今の状況は井戸の中に居ると思えばいいだろう。だが、ここから上に行く方法がない。

「カナレ、どうやらここで終点だ。ここから上に行く方法がない」

「では、私に乗って下さい」

 カナレは大猫の姿になった。俺は大猫の背に乗る。

 すると、猫の姿のカナレは爪を出して、その爪を壁に突き立てて、壁を登って行く。

 どれ位登っただろうか、広い部屋に出た。周りはステンレスの壁で覆われている。

 どうやら、水を入れて置く、大きな水槽のようだ。

 今度はその水槽の出口を探すと、上の方にマンホールらしき物があった。

 カナレは猫の姿のまま、そのマンホールの所に行き、手から白い光を出すと、マンホールが溶け出した。

 マンホールが完全に開いたので、そこから外に出てみる。

 すると、建物の横に出た。完全に外であり、空には星が輝いている。

 周りを見渡すと、その先に人の姿があった。


「どうやら、無事出てこれたようだな」

「態々、あんな手間をかける必要はないだろう。さっさとここで決着をつければ良かったしゃないか?」

「あれで、くたばってくれるなら、それに越した事はない。くたばってくれなくても体力は消耗しただろう。それだけでも十分だ」

「なんだと、そのためにあんな仕掛けをしたのか。汚いぞ」

「まあ、狐だからな」

「…、ああそうだな」

 何故か狐に同意してしまった。


「さてと、では決着をつけよう」

 俺が言うと、狐は、

「今までも互角だったのに、体力を使ったお前たちで勝てるかな?」

 と、言って来た。

 たしかに、地下21階まで行ってきたのは体力を使っている。反対に狐の実力がどれくらいかは未だに不明だ。

 俺とカナレが構える。

「ちょっと待て。こっちにも準備がある」

「今更、何をやろうと言うんだ」

 だが、狐はおもむろに着ている背広を脱ぎだした。

 あれよ、あれよと見ているうちに着ている物を全て脱ぐとそこには、美しい女性の姿があった。

「お、女!大臣は女だったのか」

 今までTVで見ていた姿は男の姿だった。たしかに声は高かったが、それも男性に比べて特に女性と見分けがつく程の声ではなかった。

「私にとっては宿主は男だろうが、女だろうがどっちでもいいことだ。

 だが、元々は雌だったからな。こっちの姿の方が心地良いのはたしかだ」


 裸になった大臣はそう言うと、四つん這いになり、戦闘態勢を取った。

 カナレも大猫の姿になり、こちらも戦闘態勢を取っている。

 しばらく睨み合っていたが、どちらからとも言うではなく、お互いに取っ組み合いになり、上へ下へと回転しながら、相手の喉に噛み付こうとしている。

「ギャー」

「グギャー」

 その声は、既に獣の声だ。

 俺が手を出す隙さえもない。

「グルルル」

「ガルルル」

 一瞬、吠えたと思ったが、同時に離れ、お互いを睨んでいる。

 しばし時間が止まったような感覚がしたが、また、2匹の動物はお互いに組んだ。

 同じように、上へ下へと回転しながら、爪で相手を傷つけていが、どちらの攻撃も致命傷までには至っていない。

 しかもカナレには、防御の能力もあるので、狐の方が攻撃は利いているだろう。

 そして再び、カナレと狐が離れた。カナレは大きく息をしている。

 反対に狐はそれほど大きく息はしていないが、全身の傷が酷い。

 地下21階まで行ったカナレの方が、体力的には厳しいのだろう。


「グルルル」

「ガルルル」

 再び、カナレと狐は絡み合った。

 だが、体力的に厳しくなってきたカナレは攻撃が単調になってきているのが、こちらからでもはっきりと分かる。

 狐は全身傷だらけだが、攻撃の数が多く、カナレの方が不利になっている。

 一瞬、カナレが仰け反った。狐はその隙を見逃さずにカナレの喉に噛み付こうとしている。

 それを見た俺はカナレと狐の間に飛び込むが、狐の歯はカナレの喉ではなく、俺の右肩に噛み付いた。

 防御の能力があるからある程度は大丈夫だったが、それでも防御の能力の上から、狐の歯が俺の右肩に食い込み、激痛を走らせる。

「ギャー」

 俺は思わず、声を上げる。

 その声に狐も驚いたのか、一瞬の隙が出来た。

 そこにカナレの後ろ脚がヒットし、狐が俺から離れると同時にカナレが俺を連れて、狐から距離を取る。

 猫の姿では口で話す事ができない。なので、カナレは念話で伝えてきた。

「ご主人さま、大丈夫ですか?」

「右肩が動かない。骨まで噛み砕かれたようだ」

「カナレ、私も一緒に戦うわ」

 女神さまも念話で伝えてきた。

「私だけの力ではどうにもなりません。女神さまお願いします」

「テラちゃんとお呼びなさい」

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