第47話 猿

「ガガガガッ」

 いきなり機関銃の炸裂する音がした。

 何台の機関銃があるのかさえ分からないが、それらが一斉に入り口の扉に向けて照射されてくる。

 だが、カカナレの防御の能力は大きく、傷ひとつ付かない。

「ご主人さま、また光らせますので、目を瞑って下さい。3,2,1,0」

 俺が目を瞑ると同時に瞼の裏に大きな光が見えた。

 俺とカナレは光が収まると同時に部屋の中に突入し、機関銃のある方に向かう。だが、機関銃の設置してあるところには誰も居なかった。

 機関銃の引き金のところに紐がついており、その紐は扉のところに繋がっている。扉を開けると同時に、機関銃の引き金が引かれるように仕掛けが作られていた。

 罠はあったが、それ以外は何もない。人も居ないようだ。

「カナレ、いきなりでびっくりしたが、機関銃以外は何もなさそうだ」

 俺とカナレは更に下の階に行くことにする。


 カナレが地下8階の扉を開けようとするが、それを俺が制止する。

「また、何か罠があるかもしれない。不用意に扉を開けるな」

 カナレは俺の方を振り返ると、肯くように首を上下に揺らした。

「ガチャ」

 カナレはちょっとだけ扉を開けると中を伺うが、いきなり弾が飛んでくる事もなければ、なにかのガスが出てくる事もなかった。

 カナレが忍び足で中に入る。俺もカナレに続いて中に入る。


 部屋の中は真っ暗だが、カナレの猫の目の能力を使って部屋の中を見渡してみる。

 だが、部屋の中には何もないが、異臭がする。

「臭いな」

 俺が思わず言う。

「これは死臭ですね」

 部屋にある棚にゲージがあり、その中には実験用の猿だろうか。既に死んでいて、腐乱していた。

 その臭いに堪らず部屋を出る。

「カナレ、下の階に行こう」

 俺とカナレは、更に下に続く階段を下って行く。


 地下9階に来たが、ここも上の階と同様、猿の死骸があり、死臭を放っていた。

 地下10階は前にも来た事がある。前は実験用の猿がゲージに入れられていたのを思い出す。

 恐らくここにも猿の死骸があるのだろう。そうは思うが、やはり中を覗いてみると、思ったとおり、やはり死んだ猿の死骸があった。

 さらに1階降りて地下11階に来た。ここでも、慎重に扉を開けるが、そこには、グローブボックスやドラフトチェンバーが置いてある。

 それ以外にも様々な装置が置いてあるが、俺も専門ではないので、それが何という装置なのか分からない。

 この部屋は嫌な死臭の臭いはしないが、化学薬品の臭いはする。まるで、小さい頃に通った病院のような臭いだ。

 部屋の中を廻ってみるが、これといった罠も待ち伏せもない。

 その部屋を出て、1階下に降りて、地下12階に行く。

 ここも地下11階と同じような部屋になっていて、グローブボックスやドラフトチェンバーがあった。

「ご主人さま、ここから人の息が聞こえます。待ち伏せしているようです」

 扉にカナレが耳を近づけて、念話で教えてくれる。

 前と同じように入ると同時に弾が飛んで来るのかもしれない。

「カナレ、扉を開けると同時に飛び込むぞ」

「分かりました。それでは開けます。3,2,1,0」

「バーン」

 カナレが扉を開けると同時に部屋の中に飛び込んだ。俺もカナレに続いて、部屋の中に飛び込む。


「ボウー」

「ボウー」

 奥の方から火の柱が伸びて来た。火炎放射器による火炎放射だろう。

 防御の能力は物理的な防御には効果が高いが、温度は通すので、普通に暑い寒いも感じる。なので、火炎放射で火炙りにされると防御の能力があっても、火傷を負う。

「カナレ、やばいぞ。火炎放射だ」

 実験台の陰に隠れて、カナレに念話を送る。

「また、強い光を出して幻惑させよう」

「さっき、チラっと見えたのですが、男たちは暗視装置は使用していませんでした。なので、光を出すとこちらの位置が分かってしまいます」

 火を出すとその光を暗視装置が拾ってしまい、目が眩んでしまう。なので、男たちは暗視装置を使っていないのだろう。


「このままでは、こっちも動けない。どうしたら良いものか?」

「この暗闇では動けないのは相手も同じでしょう。それに相手は2人のようで、お互いに一緒に居ます。離れると同士討ちが心配なのでしょう」

 俺とカナレと男たちの間に沈黙の時間が流れた。

 そのうち男たちは、焦れて来たのか、火炎放射をあっちこっちに放射し出した。

 ひとつは恐怖からだろうし、火の光で部屋の中の様子を伺う事もできる。

 だが、そのうち、この部屋の中にあった可燃物に火が点いたようで、何かが燃え出した。

 きっと資料か机かだろう。火が点いたおかげで部屋の中が多少、明るくなった。

 火が付くと安心感があるのか、火炎放射が止んだ。

 俺はカナレに念話で指示を出す。

「カナレ、俺が何か投げて音を出す。すると、火炎放射がそっちに向けられるだろうから、その隙に相手をやっつけよう」

「了解しました」

 俺は実験台の上にあった、三角フラスコを手に取ると、反対側目掛けて思いっきり投げた。

「ガシャーン」

 フラスコの割れる音がすると、火炎放射が一斉にそちらに飛んで行く。

 俺とカナレは陰に隠れていた実験台を飛び出すと、男たちの方に飛んで行くが、火炎放射の火の中に俺とカナレの姿を確認した男たちは火炎放射の火を俺とカナレに向けてきた。

 だが、一瞬、俺の方が早く、右側の男の後ろに回り込むと、左側の男に向けて、火炎放射の筒先を向けた。

「ギャー」

 男の髪に火がついて、首から上が燃えている。

 だが、首から下は防火服らしき物を着ているので、火は点かない。

 頭に火が点いた男は、火炎放射器を放り出すと頭の火を消そうとしているが、一度点いた火はなかなか消えない。

 水があればいいのだろうが、ここには水もない。

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