第18話 稲荷神社

「パンパン」

「パンパン」

 TVから拳銃の発砲音がする。

 俺とカナレは警官突入の様子を箸も動かさずに固まった状態で見ている。

 しばらくすると、発砲音が鳴りやんだ。


「今、機動隊員が出てきました。代わりに救急隊員が中に入って行きます」

 TVのレポーターが叫んでいる。

 画面を見ていると、ストレッチャーに載せられた人が次から次へと出てきた。

「今、入った情報ですと、死者8名、重傷者2名、軽傷者はまだ不明です。なお、犯人は射殺された模様です」

 TVの画面がスタジオに切り替わった。

 司会者とその横に専門家みたいな人が居て、説明している。


「犯人は射殺されたようですが、山川さんどう見ますか?」

「この前の現金輸送車の奪った金の行方がまだわかっていません。犯人が死んだ以上、その金がどこにあるかという問題が残ります」

 俺とカナレは顔を見合わせた。


「カナレ、狐の目的はこれだったんだ」

「ええ、ご主人さま、狐の元にはこれで4億円が手元に残りました。狐はこの金をどう使うのでしょうか?」

「殺し屋を雇うとか」

「余り、現実的ではありませんね」

「そうだな」

 俺も自分で言って、現実的ではないと思った。

 狐は念術で人を操る事が出来る。そんなの雇わなくても、人を操ればいいのだ。


「でも、これで、警察の警戒は弱まるかもしれません」

「なるほど、狐の目的も意外とそっちかもしれないな」

「そっちとは?」

「今、この街は殺人事件が連続して発生していて、警察が警戒を強化していた。狐としては、それが動き辛いので、この銀行強盗を行う事で、それらの事件に終止符を打ったように見せかけた」

「それで、警察は警戒を弱めるでしょうか?」

「狐だって、直ぐに弱まると思っていないだろう。しばらくは何もしないで、大人しくしているさ。それによって、警察も一連の事件が終わったと思うだろうし」

「なるほど、そうかもしれません」


 俺とカナレが思ったとおり、銀行強盗が起きた街として、名前が知れてしまい、警察も厳重な警備を敷いていたが、逆に小さな犯罪も無くなって、一見平和になったように見えた。

 警察も最近は、ほとんど見かけなくなり、前のような街に戻った。

 俺とカナレもいつもの生活に戻っている。

 そんな状態が3か月ほど過ぎて、年末の書き入れ時になった。

 特にクリスマスの時期は予約が入って、忙しい。

 カナレの方もケーキ屋なだけに、この時期は予約だけで、朝からフル回転だそうだ。

 まだ事件が発生してから、3か月ほどしか経過してないと言うのに、忙しさに紛れて、事件の事は俺とカナレの頭の中から忘れ去られようとしている。


 クリスマスは俺もカナレも忙しかったので、正月は二人で部屋でまったりとしていた。

 久しぶりに猫じゃらしを取り出して、カナレの前で振ってみせた。

 カナレは最近は人の姿で過ごす事が多く、猫の姿になっていなかったが、この時だけは猫じゃらしを追って遊んでいる。

 こうやって見ていると、ほんとに猫だし遊んでいると可愛い。

 1時間ほど遊んでやると、カナレが人間の姿になった。

「ああ、面白かったです」

「あれで、面白いか?」

「面白いですよ。ご主人さまもやってみます」

「いや、俺はいいよ」

 カナレと話をしていても、今では狐の話題も上らなくなった。


「カナレ、初詣に行くか?」

「初詣ですか?いいですね」

 俺とカナレは連れ立って、部屋を出た。

 最近は、正月だからといって、振袖の人はいない。

 振袖なんて成人式ぐらいのもんだ。


 だけど、近くの稲荷神社に来たら、それでも振袖の人がちらほらと居た。

 どうやら、デパートの店員さんみたいだ。

 俺はカナレとお祈りをして、社務所の横を通りかかった時だ。カナレが俺の袖を引いた。

「ご主人さま、ここにあの狐の臭いがします」

「何だって、ここに居ると言うのか」

 俺とカナレが社務所の前に居ると、中から女性の宮司が出てきた。

 その顔は化粧をしているが、あの時の狐だ。

 狐も俺とカナレに気が付いたようで、ちらっと見ただけで行ってしまった。


「まさか、狐だけに稲荷神社に居たとはな」

「ええ、あの狐意外と冗談が通じるかもしれませんね」

 カナレがそう言うが、それで人を10人以上殺しはしないだろう。

 俺とカナレは狐について行ってみるが、狐は社殿に入って、奉納をしているようだ。

 狐の後ろには巫女さんが2人ついている。


「カナレ、強盗連中もここに居るのだろうか?」

「ここは人の数が多すぎて、臭いでは犯人を特定できません。さっきはたまたま人の通行が少なかったので、狐の臭いを嗅ぎ分けられましたが、こっちの社殿の方だとなかなか難しいです」

「それも計算して、ここをアジトにしたという訳か」

「それもあると思いますが、アジトは別のところに置いているかもしれません」

「暴力団事務所とか?」

「そうですね、無いとは言い切れません」

「カナレの嗅覚でどうにかならないか?」

「狐自体がここから動かなければ探り様がありません。子分とかが伝令をしているようであれば、他のアジトを探し出すのは困難です」

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