この事件、あなたは絶対に推理できない!!

ちびまるフォイ

手が込んだものほど思い入れは強く

私、桃園萌は恋をしています。


いつも振り向いてくれない彼は高校生名探偵の工藤はじめ。

鈍感な彼は私の気持ちなんて気づかずに事件にかかりきり。

でも、そんなところも好きなんだけど。


「そう言うだろうと、思ってました!!」


名探偵はじめは今日も事件を解決した。


「ははぁ、いやはや恐れ入ったよ。

 最初聞いたときはそんな馬鹿なと思ったけどなぁ」


「刑事さん、そこが犯人の策なんですよ。

 タンスの角に指をぶつけさせて、タンスの上にあった

 氷製の植木鉢が落ちてきて殺すなんて方法、誰も想像しない。

 だからこそ、捜査の手が及ばないと考えたんです」


「でも、犯人はどうしてそんなピタゴラ殺人をしたんだろうな。

 普通に殺して証拠隠滅したほうがずっと楽だろうに」


「それは……」


「捜査の撹乱かな」

「そう言うだろうと、思ってました!!」


"氷の植木鉢で遠隔殺人"という突飛な方法を見抜いたはじめちゃんは、

名推理だと今回も大手柄をあげて表彰されて1日署長すらまかされた。


「はぁ……大変だった……」


私は急きょ作った氷の植木鉢が間に合って安心した。

彼には活躍してほしいし、推理が外れて落ち込んでほしくない。

こんなにも愛しく思えるのは恋ならでは。


そして、定期的にはじめちゃんのもとに届く旅行チケット。


事件線量を計測する線量計があったのなら針が吹っ飛んでいる勢いで、

はじめちゃんと私はなぜか絶海の孤島にある、なぞの洋館を訪れた。


到着したその日の夜に、殺人事件が時報のように訪れた。


「こ、これは……!!」


被害者はバラに囲まれ十字架に張り付けられて死んでいた。

名探偵はじめちゃんはこの現場を見てすぐに探偵スイッチが入る。


「この部屋は完全な密室……そしてこの部屋はこんなにも手の混んだ装飾……。

 凶器は……――はっ!! わかったぞ!!」


モブ:本当ですか!?


モブ:あの、どうして僕だけセリフ形式なんですか!

   登場人物として「」つきでしゃべりたいです!!


「凶器はこのバラか!! このバラは実は品種改良とかで

 たぶん触れたら死ぬ系の毒を持っているんだ!! それで被害者を殺したんだ!!」


私は背中に隠したスマホですぐに科学研究所に連絡した。

大至急「毒のあるバラ」を作ってもらった。


「毒のトゲって……そんなものに普通触りますか?

 それにトゲで殺すならはりつけにする意味は?

 十字架にくっつけたらトゲに触れないじゃん」


「そう言うと思ってました。だからバラはブラフなんです」


――私は慌てて科学研究所にキャンセル連絡をした。


「十字架に貼り付けるのは本当の殺人方法を隠すためです。

 芸術的だと見せかけて、絞殺の跡を隠す犯人の作戦です」


「あ! あそこに真犯人が!!」


「え!? どこどこ!?」


全員の注意が向いた瞬間に私は被害者の首を思い切り締めて首に跡をつけた。

視線が再び戻ると、みんなの注意が首筋に注がれた。


「あ、本当だ! 首に跡があるぞ!」

「本当に絞殺だったんだ!!」


「そうでしょう。いとこのじっちゃんの名にかけて、

 俺の推理に間違いはないんです。真実はいつも人の数!!」


「でも、名探偵さん。私達がこの部屋に入るまで、密室でしたよね?

 犯人はどうやってこの密室を作り上げたんですか?」


「それは――」


「それは?」


「被害者に鍵を閉めさせたんです!!」


「な、なんだって!?」


私は高速で被害者の死後硬直で固くなっている手をこじ開け、

中に部屋の鍵を突っ込んだ。ここまでコンマ1秒。


「見て! はじめちゃん! 被害者は鍵を持っているわ!」


「ふふふ、やはりな。俺の推理は正しいんだ」

「はじめちゃん素敵!!」


「あの、質問いいですか?」


「いいですよ。この名探偵に恋人いない歴以外なら答えましょう」


「被害者、死んでますよね……?

 絞殺された後に、自分で鍵閉めて密室作るっておかしくないですか?」


「あ……」


部屋は完全なる密室だった。

これを作り出すというのであれば、絞殺された後、自分で鍵を締める必要がある。


さらに言えば、鍵を閉められるということは、

自分で十字架に張り付けにされなければ状況は成り立たなくなる。



モブ:教えてください名探偵!

   いったいどうやって被害者は死んだ後に鍵を締めたんですか!?


名探偵ははっきりと答えた。




「人って死んでからも、結構動くよね!!!」



「ど、どういうこと!?」


「知らないんですか、みなさん。ギロチンで首を切った直後にも

 その首がまだ動く場合があるとネットで見たことがあります。

 そのように催眠術とかをかけて被害者を操ったのです!!」


「そんな馬鹿な……」


私は急きょHSC(はじめちゃん・サポート・センター)に連絡し、

人間の死後数分を自由自在に操る電気信号を送る機械を開発し、ドローンで配送した。


「見て! はじめちゃん!!

 脳死後に電気信号を送ることで人間の死後数分の行動を操れる

 恐るべき精密機械が、十字架の後ろに落ちているわ!!」


「やはりな……俺の推理は正しい!!」

「す、すごい……!!」


まさかの推理だったが、当たっていれば文句は出ない。


「それで名探偵。今回の事件の犯人は誰なんですか?

 そこまで推理できていればわかるのでは?」


「ええ、もちろん。犯人は地球(この)中にいる!!!」


全員の顔のカットインが入る。モブを除く。


「犯人は――お前だ」


はじめちゃんの指の先がまっすぐ私へと向いた。


「自首してくれ、萌。これは幼馴染からのお願いだ」


「どうして私が犯人だと……」


「他の登場人物の名前が出ていないから」


「はじめちゃん……!!」


私がここではじめちゃんのミスを言えば、

きっと名探偵としてのはじめちゃんのキャリアは終わる。


そんなことできるわけない。


間違いだとしても、私が犯人を受け入れてみんなが幸せになるのなら

私はいくらでも犠牲になってみせる。


「そう……私が犯人なの……」


「やはりな。俺の推理に間違いはなかったか」


「特に接点のない被害者をこの絶海の孤島に呼びつけて、

 大量のバラを発注した後に十字架をせっせと深夜に準備して、

 バラだらけの怪しい部屋に被害者を呼んで、

 初対面の被害者に催眠術をなんとか受けさせた後に絞殺して

 密室を作った後に何食わぬ顔で部屋から出てみんなに合流して事件を起こしたの!!」


洋館で起きた殺人事件は静かに幕をおろした。

やや強引な殺人方法も証拠が決定的となったのと、

警察側もいちいち推理するの面倒なのでそういうことにしておこうと納得し――



その瞬間、犯人が思い切りブチ切れた。



「そんな事件なわけあるかぁ!!

 このバラにはもっと別の意味があるんだよ!! 暗号とかも用意してたのに気づきやしない!!


 お願いだ!! そんな無茶苦茶な推理で私の芸術的な殺人事件を汚さないでくれ!!!」


全身黒タイツの犯人は嘆き崩れた。




「そう言うだろうと、思ってました!!」



はじめちゃんの名推理がまたはじまる――!!

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