ツッコミダンジョンで劇的ビフォーアフター

ちびまるフォイ

ブーチブーチッ テーレテーレッテテテーレ♪

「ここが新しくできたダンジョンみたいだぜ」

「おお」


「っと、それじゃダンジョン案内人の仕事はここまでだ。

 給料分は働いたからドロンさせてもらうぜ」

「ああ」


「俺に感謝しろよ。まだ誰も挑戦していない手付かずのダンジョンは

 宝が山のようにあるから、そうそう見つからないんだぜ。

 これも俺の手腕あってこそだってことだからな」

「おお」


「それじゃ」

「ああ」


無口な男と別れた案内人は街に戻っていった。

男はダンジョンの深淵へと足を踏み入れて、数秒後に街へと蹴り戻された。


「お、おいあんた! そのケガいったいどうしたんだよ!?」


「モンスター……」


「あのダンジョン、そんなに強いモンスターがいたのか!?」


「モンスター、いなかった……」

「いないのかよ! じゃあなんでそんなケガしてるんだ!」


「ツッコミがあった」


「……はい?」


「トラップあって、ツッコミしないと、発動して、

 オレ、あまりしゃべるの得意じゃないから、トラップで……」


「日本語学習ロボみたいな話し方だな……」


根気強く聞けば、どうやらあのダンジョンは「ツッコミダンジョン」というもので

モンスターによる侵入者への対策こそないものの、

ありとあらゆるトラップがツッコミ待ちで待機している。


「相手のボケにうまくツッコミしないと、トラップが発動する」


「あぁーー……ようやく理解した。

 どうだい。モンスターがいないっていうなら、俺もついていくぜ」


「ああ」

「お前、この世界に返事は2文字しかないって思ってる?」


2人はツッコミダンジョンへ再挑戦することに。

ダンジョンに入ると、いきなり立て札が表示された。



【以下にツッコめ】


>お父さん、友達を前提に結婚してください!



「あーー……えーー……その、うーーん……」


「お、おいおいおいおい!! 上! 上ぇ!!」


上から落ちてきた鉄球に二人はふっとばされて入り口へと押し戻された。


「今のは簡単だったろ!?」


「いや……うまく、思いつかなかった」


「見たまんまだよ! なんでお父さんなんだよ!とか

 友達を前提にって順序逆だろ! とか」


「すごいな」

「すごくなーーい!!」


「オレ昔から人前で話すときも、うまく言えなくて」


「ツッコミ待ちトラップの発動は短いから、すぐに答えるんだ」


「そう言われても。どうすれば、君のように、言葉が出てくる?」


「そこは俺にもわからないよ。足が早い理由を聞かれてるみたいなもんだし。

 ただ、口下手のあんたにもツッコミはできるはずだ」


「本当か」


「ああ、とにかくボケをパターン化するんだ。

 ボケを見て、さっきみたいに間違っている部分があるときは

 『おかしいだろ!』とかいえばいい」


「なるほど」


男は必死にメモを取る。


「無理に例えたり、具体的に言おうとすると無理が出る。 

 言葉に詰まるよりは、あいまいだけど瞬発的に答えたほうが

 きっとトラップも発動しないだろう」


「何が間違っているかわからないボケは?」


「そういうときは『どういうこと!?』とか『なんだそれ!??』とか

 わからないってことを勢いでツッコミに見せればいい」


「もし、もっと複雑なのが来たら?」


「そうだなぁ。クイズ形式なボケはちょっと難しいな。

 『ほら僕の頭を食べなよ』って言ったら、なにかわかる?」


「アンパンマン?」


「そう、今みたいなクイズ形式のボケが出てきたとき

 答えられるときは『それ〇〇だよ!』といえばいい。

 わからなかったら、さっきみたいに『なんだそれ!』とかいえばいい」


「複雑だな」


「体がツッコミに慣れればそんなことはないって」


「がんばる」


それから男は何度も何度もダンジョンに挑戦しては鍛錬を繰り返した。

真面目な男は雨の日も風の日も雪の日も休まずにずっと挑戦し続けた。


そして、案内人のいる街にも男がついにツッコミダンジョンを攻略したと一報が入った。


案内人は知らせを受け取ると嬉しくなって、男のもとへ駆け込んだ。


「おい、聞いたぞ! ついにツッコミダンジョンを攻略したんだって!?

 あんなに口下手だったお前が攻略できるなんて、奇跡だぞ! おめでとう!!」



案内人の言葉に男は振り返る。



鋼のように鍛え上げられた体が油でてらてら光った。


「いっぱい訓練したのがよかった。

 今じゃどんなトラップが襲ってきても、すべて生身で受け止められるよ」

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