Ⅾ坂少年探偵団の事件簿
薮柑子 ロウバイ
明智小五郎という男
彼は、大人に似つかぬ戯言が口癖だった。
「__現世は夢、夜の夢こそ真__。」
何かにつけこの世界をそんなふうに鼻で笑うのだった。
その声は、ひどく絶望的でありながら、
それと同時に、恐ろしいほどに希望に満ち溢れていた。
そんな彼は、大人でもなく、子供でもない。
彼自身はいつも自らをこう言ってのけた。
「俺は明智小五郎、それ以上でもそれ以下でもない。
ただの詮索好きな探偵の〝非正当人〟それだけさ。」
自らの正当性を主張しないもの。
白とも黒とも名乗らず、正しさを否定するもの。
そんな人間を、彼の言う現世に住まう人々は軽蔑した。
〝非正当人〟と、ラベルを張って、それを正義でも悪でもない
〝正しくないもの〟と利害の一致で蓋をした。
だから、彼を飾る言葉は、きっとこの現世にはもうないのだろう。
この現世から乖離した彼はもうその時点でこの現世のものではない。
_なら、なぜ彼が探偵なんか続けるのか。
それはいたってシンプルで、それ故にどこか狂気じみている。
まるで無垢な子供が道端を横断する蟻を踏み潰す時のように、笑顔で彼はこう語る。
「何故って、面白いからさ。異常犯罪に謎解き、ダイイングメッセージ。
ヴァーチャルでは味わえない興奮が欲しい、それだけだ。」
彼は僕にこう告げる。
「一つ、ゲームをしようか。」
僕は彼の輝いた真っ黒い瞳を覗き込んで頷く。
「僕が何者で、いったい何がしたいのか。
それを君が、君たちが君たちだけで探し当ててみたまえよ。」
彼は僕らにそう言って、ひどく楽しそうに笑った。
それが僕ら、無垢な少年少女たちの何にも染まらぬ
少年探偵団の夜の夢へのデビュタントとなった。
明智小五郎という男。
彼は、夜の真の世を照らす、暗黒星のような男だった。
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