第86話 ノーテンキ冒険隊・最後の聖戦(中編)

 雪姫に肩を借りながら、黒いコートの探偵が姿を見せる。


「氷室……」


 氷室雹河の登場に、ブラザーズは重要な事を思い出した。


「あ、そういや、クラウドに氷室から伝言があったんだ。『次に会った時は必ず殺す』って」

「なんだと、この野郎ーっ!」

「このタイミングで言うな。話がややこしくなるだろうが」


 一触即発のところを晴海と雪姫がとりなし、再び全員で爆弾の対策を練る。


「で、どうする気だ、氷室?」

「決まってるだろ。これで爆弾を凍らせる」


 雹河は左手の中指をダブルクリックする。


「こいつらには聞きたい事が山ほどある。手がかりを死なす訳にはいかないからな」


 通常モードから冷凍モードに切り替わり、蒼いグローブから冷気が吹き出す。

 その光景に期待が高まるが、急速に冷気の放出が勢いを失い、ついにはピタリと止まってしまった。


「チッ、液体窒素が切れたようだ」


『アト、4分、デ爆発シマス』


「くそっ、万事休すか……」

「ホントにどうしたらいいの?」


 その時、ムラサメの背後に現れる影が一つ。気配に気づいたムラサメが振り向くと。


「バイウ元帥……」

「えっ!?」


 ムラサメの呟きに、一同は影の正体を確認する。

 そこには、ボロボロのドイツ軍服を纏った、アフロヘアーのバイウ元帥の姿があった。


「これを使え……」


 バイウ元帥は、ロケット弾が装填された、対戦車砲を地面に転がす。


「これは……、ロケットランチャーじゃないか!」

「どうして、こんなものを持ってやがんだ?」

「私のミリタリーコレクションの1つだ……。これなら、あのフロントガラスを貫く事ができるはず……。色々あったが、彼女たちは私の戦友だ……。助けてやって……くれ……」


 そう言い残し、バイウ元帥はバタリと倒れる。

 利用されていたにも関わらず、それでも共に戦った者を気遣うバイウ元帥。

 その戦士の矜持に、心を打たれたムラサメは。


「『竜騎将ドラグーン』バイウ元帥に対し、敬礼!」


 ムラサメの号令にサバイバル同好会の隊員たちは、一糸乱れぬ敬礼を見せる。

 そこには、男たちの友情、戦士たちの浪漫があった。


「こいつ、確かスキンヘッドじゃなかったっけ?」

「なんで、アフロになってんだー?」

「うるせぇ、空気読め! 今そんな、こまけぇ事はいいんだよ!」



 ロケットランチャーを取り囲み、首脳会議を開くノーテンキ冒険隊を始めとする仲間たち。


「まず、ロケット弾はロケット噴射の推進力で飛んでいくモノっすから、あるていど射程距離を置かないと、加速がつかず威力が出ません」


 兵器に対する造詣が深い、ニワカ軍曹がブレーンとなって、作戦を立案する。


「さらに、今回はコクピットの中の人たちを救出するのが目的なんで、ロケット弾を直撃させてはいけません。ガラスだけを砕くように、ちょっとだけ狙いをずらす必要があります。下手に衝撃を与えたら、時限爆弾が作動するおそれもありますし」

「なかなか、難しい注文だな……」

「さらに、弾は一発だけ。外せば終わりっすから、責任重大っす。そうなると、これを誰が撃つかという話なんすけど……」


 すると、その場にいた全員が、晴海の方を見る。

 晴海は自分を指差しながら。


「あ、あたし?」


 その場にいた、全員がコクリとうなずく。


「俺様は腕を折っちまってるから、無理だしなぁ」

「ボクも、まだ身体がマヒしてるから、ランチャーを持つのは不可能だ」

「俺は接近戦が主体なんで、銃火器の扱いには慣れてないっす。さっきのロボットとの戦いで、見事な立ち回りを見せてた夏山さんが適任だと思うんすけど」

「あたしだって、射撃が得意って訳じゃないんだけどな……」


 晴海は周りを見回して見るが、誰もが目を逸らす。

 暴徒鎮圧銃の使い手、アフロ頭のシグレ少佐も顔を背けている。


「うん。晴海、お前が撃て」


 あっさりと言い放つクラウド。思いもよらぬ言葉に、晴海はあわてた。


「えっ!? 言いたくないけど、あたしは射撃がヘタっぴいなのよ? なんで、あたしにさせようとするの!」


 クラウドはニヤッと、冒険家らしい不敵な笑みを見せると。


「オレに、秘策がある」

「えっ?」



 *



「さあ、オレを撃て!」

「なに言ってんの! そんなの無茶だよ!」


 クラウドはブロッケンによじ登り、数十メートル離れた場所にいる晴海に、自分を狙い撃つように指示をする。


 クラウドの作戦とは、晴海がパチンコで自分を撃つ時だけは完璧な狙撃を見せ、狙わない時も自分に命中する事を逆手にとり、自分を的に『直撃しないようにフロントガラスだけを破壊する』という、高度な射撃を実行させようとしていた。


『アト、2分、デ爆発シマス』


「時間がねえ! 晴海、撃つんだ!」

「できないよ! もし、外れて2人に当たったら……」

「どうせ、ダメだったら2人とも死ぬんだ。構わずどーんと思い切って行け!」

「じゃあ、クラウドくんに当たったらどうするの!」

「オレの反射神経を信じろ、絶対かわしてみせる!」

「でも、ケガしてるじゃない! そんな身体じゃ無理よ!」


 確かに傷は痛む。いつも通りの反応は望めないかも知れない。

 そして、ためらってベソをかく晴海。

 いくら冒険家を目指しているとはいえ、女の子だ。

 何とか勇気づけなければ。


「晴海、よく聞け。人間誰しも逃げちゃいけない時が来る。今がその時だ。オレも逃げないし、これはお前にしかできない事なんだ。だから、がんばれ」

「でも、あたし……、怖いの!」


 ようやく長年の思いを通じ合えた、大切な人を失うかもしれない恐怖に怯える晴海。


「オレは晴海を信じてる。晴海もオレを信じて、そして自分を信じろ!」

「でも……」


 クラウドはすべてを委ね、信頼しきった瞳で、真っ直ぐに晴海の瞳を見つめる。

 クラウドは優しく、それでいてしっかりとした言葉で晴海に思いを伝える。


「お前は、紛れもなく冒険家だ。そして……、お前はオレの相棒だろっ!!」

「クラウドくん……っ!」


 これ以上ない援護の言葉を受けて、覚悟を決めた晴海は、クラウドに応えてランチャーを構える。


「ノーテンキ冒険隊のみんな!」

『おう!』

「ブラザーズくんたちは、あたしが反動で飛ばないように、後ろを押さえて! 雷也くんは、砲身がぶれないように前で支えてて!」

『りょーかい!』

「でござる!」


 晴海の指示に反応し、ブラザーズと雷也は配置につく。


「雪姫!」

「まかせて下さい!」


 雪姫は晴海に言われるより先に、ノートパソコンでロケット弾を命中させるための、正しい仰角をはじき出す。


「あと1度だけ、もうちょっとだけ上に向けてください。そうです、そこでストップ!」

「晴海、オレも準備万端だ!」

「うん!」


 晴海は片目で照準を定める。


「行くよー! せーの……。いっけーっ!」


 晴海がトリガーを引くと、弾内の推進薬が着火し。


 バシュウ!


 炎を吹きながら、ロケット弾が発射される。

 ゴウッと唸りを上げながら、クラウドに追る弾丸。

 だが、今のクラウドにかかれば、それはスローモーションにしか見えなかった。

 ギリギリまで引き付けて、ゼロフレームの反応。クラウドは華麗な横っ飛びでかわす!


 バジャーン!


 コクピットの上部を捉えた弾丸は、フロントガラスを打ち砕く。

 だが、コクピットの2人にほとんど被害は無い!


『アト、1分、デ爆発シマス』


「よっしゃー、後は任せろーっ!」


 クラウドは開いたコクピットに飛び込むと、2人を担いで脱出を図る。

 時間はまだある。救出は成功する。

 その場にいた誰もがそう思った瞬間。


 世界が止まった。


 ドガオオオオオオオオオオオーーーーーンッ!


 爆炎が3人を飲み込み、大爆音が異世界に響き渡る。


 そして、空から降ってくる2つの物体。

 その内の1つ。

 クラウドを象徴する中華ナベ、メガ正宗が晴海の足元に転がった。


『クラウドくーーーーーんっ!!』

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