第75話 決着3 vsカリスマ教・オーロラ

「え……?」

「どれだけお人好しなのよ、あなたは……」


 山瀬は、赤い双眸そうぼうに再び涙を浮かべる。

 それはシャンデリアの光をたたえ、紅玉のようなキラキラとした輝きを取り戻していた。


「こんな事をした私に、どうしてそこまで肩入れするの?」

「だって、玲華さんは、数少ないあたしの友達だから……」


 晴海は透き通った黒い瞳と、優しい笑顔で山瀬を迎え入れる。


「私は、あなたの親友を誘拐したり、許されない事をしてきたのよ。そんな私をまだ、友達だって言い張るの?」

「友達が間違った事をしていたら、それを正すのも友達の役目でしょ。それでも信じ合って許しあえるのが、本当の友達じゃない?」

「こんな私を信じちゃだめよ……」

「あたしも言ったはずだよ。友達になった事を後悔しても、冒険家だからなんとかするって」


 帽子のつばをくいっと上げながら、えへへっと晴海は屈託のない笑みを見せた。


「はあ……。あなたは本当に、どこまでも真っ直ぐなのね。私もあなたみたいな女の子になりたかったな……」

「ううん、玲華さんも真っ直ぐな人だよ。今回はちょっとやり方を間違えただけで、それも全ては大好きな人のためで。玲華さんは、今でもあたしの憧れのお姉さんです」

「かなわないなあ……。でも、正直ほっとしました。私を止めてくれたのがあなたで良かった」

「玲華さん……」


 お互いの思いを伝え合い、和解した2人。

 その様子を見ていた雹河は。


「晴海は良い女だな……」

「まったくだ」


 珍しく意見が対立せず、クラウドも彼に同調する。

 だが、雹河はそこにあえて水を差すかのように、山瀬を問い詰めた。


「晴海はてめえをゆるしたかも知れないが、今回の件はどう始末つけるんだ?」

「やったことの責任は取るつもりです。全てが片付いた後は、警察に行きます」

「いえ、山瀬さんの身柄はわたしが預かります。もちろん、賓客の礼で遇して。洗脳や肉体改造をされた方々のアフターケアもスワン・コンツェルンが請け負いますわ」


 雪姫は今回の件の一番の被害者でありながらも、それがさも当然であるかのように山瀬を気遣い、事態の収拾を図ろうとする。


「ごめんなさいね。白鳥さんには、最初から最後まで迷惑かけ通しだったわね」


 雪姫は、山瀬に顔がくっつくくらいに近づくと。


「遠慮なく、何でもおっしゃって下さい。山瀬さんが晴海ちゃんのお友達なら、わたしにとっても大切なお友達ですわ」

「ふふふ、ありがとう。そういえば、あなたは生徒会の中でも、いつも積極的に私との距離を詰めようとしてくれてたわね。今はちょっと詰めすぎだけど」


 山瀬は、ふうとため息をついて。


「世界を変える……か。難しいものね。私は少し焦りすぎちゃったのかな……」

「でも、あたし達の世代で新しい世界を築くってのは、良い考えだと思います。誰も傷つけない方法でなら、あたしも喜んで協力します」

「ん……、ありがとう」

「最後に、1つだけ聞いていいですか?」

「……何かしら?」


 前にもこんな事があったような気がするが、山瀬は次に晴海から放たれる言葉に身構える。


「『カリスマ教』って、変な名前ですね」

「でしょ!」


 山瀬は、急に拳を握っていきり立つ。


「いや、私もずっとそう思ってたのよ! でも、カリスマのある人が集まったから、『カリスマ教』にしよう。分かりやすい方がいいよねなんて、彼が嬉しそうに言うもんだから、反対出来なかったのよね!」


 言ってからハッと周りを見渡し、恥ずかしそうに。


「ああ……。また、取り乱してしまったわ……」

「ネーミングセンスって大事ですね」


 お前が言うか? と、クラウドは心の中でツッコむ。


「じゃあー、カリスマ教の奴らが黄色い服や布を付けてるのは、もしかして三国志から?」

「そうよ。彼が三国志の大ファンで、宗教団体の方がシステム的にやりやすいから、『黄巾党こうきんとう』を見習おうって言うのよ。良く分かったわね?」


 雨森ブラザーズは、自慢げに指で鼻をこする。

 山瀬は晴海の方を向き、柔和な笑みを浮かべながら。


「夏山さん、あなた達と過ごしたあの時間は、本当に楽しかったですよ。これは、嘘ではなく本心です」

「うん! また、一緒に冒険しようね。玲華さんは、ノーテンキ冒険隊の一員だからね!」

「三雲くん。夏山さんのこと、大事にしてあげてね」


 いきなり話を振られたクラウドは、あわててコクコクとうなずく。

 満足そうに微笑んで、さらに山瀬は。


「あ、そういえば。三雲くん、ザルの罠にひっかからなかった?」

「……え?」

「あー、こいつめちゃくちゃ引っ掛かってましたよ」

「それはもう、間抜けなぐらい」


 ブラザーズはクラウドを指さす。


「あれを仕掛けたのは私よ。三雲くんなら必ずかかるだろうなあと思ってね」

「え……」


 クスクスっと笑う山瀬。

 本来の彼女は茶目っ気もある、美人で巨乳のお姉さんなのだ。


「こいつ、一直線に突っ込んで行ってましたもん」

「おぱ……モゴモゴッ」

「お前ら、それ以上言ったら、ぶっ飛ばすぞ!」

「ねえねえ、何の話?」

「あー、それはねー……」

「だから、言うなって! こら待て、お前らっ!」

「あ、待ってよー!」


 逃げるブラザーズを追いかけるクラウド。さらにそれを追いかける晴海。

 それを鼻を鳴らして呆れた様子で見る雹河と、微笑みながら見守る雪姫。

 ノーテンキ冒険隊らしい賑やかさが戻り、和やかな雰囲気に包まれる玉座の間。

 山瀬はそんな彼らを眺めつつ、一言つぶやいた。


「結果はさておき、ようやく全てが終わったわ……」


『何を、勝手に終わらせてるんですか?』

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