第73話 メドゥーサの呪い
「こうして、私達は同じ境遇、同じ考えを持つ者を集め、生まれたのが『カリスマ教』です。万人の夢や希望は何人たりとも侵される事はあってはなりません。私が夢みる理想郷、『少数派が迫害されない世界』を作るため。これが貴女の問いに対する答えです」
玉座の間で衆目が集まる中、ひとしきり話し終えた山瀬は、ふうと一息を付く。
「そっか……。あたしたちの他にも、玲華さんのことを認めてくれた人がいたんだね……」
ひとしきり山瀬の話を聞いた晴海は、つうと一筋の涙を流す。
「わかったよ……。カリスマ教がただの邪教集団じゃない事や、玲華さんが大好きな人のために、一生懸命がんばってるって事が、でもね……」
晴海は、自分たちを押さえ付けている、意思の無い人形の様な考古研部員たちを見渡すと、キッと山瀬を睨み付けた。
「こんなの間違ってるよ! じゃあ、玲華さんが今やっている事って何? 罪の無い人をさらって、操って、自分の言いなりにして、玲華さんが上沢高校のみんなから、夢や希望を奪ってる。これじゃ、玲華さんの嫌いな人達がやってる事と変わらないよ!」
「お黙りなさい」
「黙らない! それは、本当に玲華さん自身が望んでる事なの?」
「……カリスマ教は計画より、急速に成長を続けて来ました。ですが、その弊害で一部の信者が暴走を始めており、このまま放っておけば、教団が崩壊する局面に瀕しています」
山瀬の、ムチを握る手に力がこもる。
「もし、カリスマ教が無くなれば、私とあの人の夢、そして、私達を繋ぐ物が無くなってしまう。私はたとえ、どんな事をしてでも、カリスマ教を守らなければならないのです……」
「でも、玲華さんの大好きな人は、玲華さんにそんな事をして欲しいと思ってるの?」
「……」
返答のない山瀬に、晴海はさらに言い募る。
「あたしは、そうは思わないよ。玲華さんの大事な人は、きっと別な方法で、みんなを幸せにして欲しいと願ってるはず……」
「私たちにはもう時間が無いの!」
「!?」
「このままでは、私たちは何も
「でも、今のやり方では、誰も幸せにできないよ……」
「あなたに、何が分かるっていうの……」
「何度でも言うよ。今のやり方では、玲華さんも含めて誰も幸せになれないよ!」
「何も失った事の無いあなたに、私たちの何が分かるっていうのよ!」
白い肌を紅潮させて山瀬は激昂し、晴海に向かって鞭を放つ。
直撃を覚悟し、目をつぶる晴海。
だが。
「ふんがーっ!」
バキッ!!
「ぐわあああっ!」
しがみついている考古研部員3人もろとも、クラウドは晴海の前に立ち塞がり、うなり来る山瀬の鞭を代わりに受ける。
「クラウドくん!」
「……すまねー、山瀬さん。男のオレには、山瀬さんの気持ちは正直分からねーけど、1つだけ言える。晴海が言うことは間違ってねえ」
クラウドは、考古研部員を引きずりながら、山瀬に迫る。
「晴海と友達になったんだろ? だったら、少しは友達の話を聞いてやったらどうかな?」
「クラウドくん……」
「
クラウドの訴えも空しく、山瀬はバシッ、ドカッ、ズバッとクラウドをめった打ちにする。
「どいつも、こいつも、どうして、私たちの前にはこんなに敵が多いのよっ!」
「もう、やめてっ! クラウドくんが死んじゃう!」
晴海の叫びに、山瀬は鞭の標的を晴海に向けるが。
「だあああああっ!」
再び、押さえ付けている考古研部員をものともせずに、クラウドは晴海をかばって、鞭の軌道に身を投げ出した。
「大丈夫だ……、お前は、オレが守る……。オレはもう、絶対にお前を傷つけねーから……」
「クラウドくん……!」
涙を落とす晴海に向けて、気丈な笑顔を見せるクラウド。
男3人に押さえ付けられているはずなのに、限界などとうに振り切っているはずなのに、クラウドは何度も何度でも立ち上がる。
裂かれた服のムチの跡に血を滲ませながら、クラウドは山瀬を睨み付けた。
「へえ……。貴方、女性に向かってそんな顔も出来るようになったのね……」
山瀬は、クラウドと晴海を見比べ、2人の関係性の変化を感じとる。
「ふーん、ふーん、なるほどねえ……」
山瀬は
「そうだ……。楽しい事を思い付いたわ……」
玉座の高台から降り、山瀬はクラウドに近付いていく。
「彼と出会ってから、私も世界と戦う
完全に考古研部員に羽交い締めにされて、
「うわっ!?」
「玲華さん!?」
「夏山さん、貴女は覚えてないでしょう? 私が上沢高校の校長の令嬢である、白鳥さんをカリスマ教に取り込むため、親友である貴女に近付き、洗脳しようとした事を」
「えっ……?」
「強い心を持ち、女性である貴女には、うまく行きませんでしたが、これが彼ならどうなるか……」
「まさか……」
山瀬はクラウドのムチの傷痕を、つーっと白い指でいやらしくなぞり、ぺろりと舐める。
「何も失った事のない貴女に、失う事の悲しさを教えてあげる。貴女の大事な男を堕として、奪ってあげるわ……」
山瀬はクラウドに顔を寄せて、視線を合わせる。
「やめて……」
「私の
メドゥーサのような山瀬の瞳が、赤い輝きを強く放った。
「やめてえええええーーーーーっ!!」
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