第64話 バカの本領!

「クラウド! 天井から岩が降ってきた!」

「うおおおおおーーーーーっ!!」


 廊下をひた走るクラウドたちに、仕掛けられた罠が幾度となく襲う。


 みにょーん!


「くそっ、トリモチか! オレはゴキブリじゃねーんだぞ!」


 先頭で足を絡めとられたクラウドは、床に張り付いた靴を脱ぎ捨て、裸足でネバつく罠を飛び越える。

 リュックから取り出した、アルミホイルを延ばしながら投げ、後から来るブラザーズたちのために銀色の足場を作り上げ、自らは換えのシューズに履き替える。


「さっさと渡れ! 次行くぞ!」

「おい! クラウドぉ、1人で先走んじゃねぇ!」


 スババババ! ジャキジャキン!


 今度は壁と床から槍が山ほど突き出し、クラウドの身体を串刺しにしようとする。


「クラウドー!」


 その光景を見た者は、クラウドがレンコンのようになった姿を想像したが。


「問題ねー! 全部かわした!」


 クラウドは身体をくねらせ、ギリギリで体をすり抜かせたようであった。


「だから、先走んなっつってんだろが!」

「いちいち、罠を気にしてたら、時間かかるだろ! だったら、こっちの方が圧倒的に早えー!」


 最初は罠にかからないよう、セオリー通りに慎重に進んでいたが、遅々とした進軍速度に我慢できなかったクラウドは、自ら罠に飛び込み、わざと発動させて、そのあとを他のメンツが通るという作戦を取っている。

 普通ならただの自殺行為だが、クラウドの『危険察知』と『反射神経』の合わせ技があるからこそ成り立つ戦法である。


「しっかし、なんだよこの罠、る気マンマンじゃねーか! バカじゃねーのか!?」

「その罠に自分から飛び込むバカは、どこのどいつだ……って、人の話を聞けぇーーーっ!」


 さらに、走る速度を上げるクラウド。

 いきなり、その足元の床が抜ける。


「うおおおおおっ!」


 右足が沈む前に左足をつき、左足が沈む前に右足をつき、右足を……。

 数秒は空中で持ちこたえたが、ついに下に落ちる。


『クラウドーっ!』


 すると、落下した穴から傘付きロープが飛んで来て、崩れていない部分に引っ掛かる。

 ロープを伝って昇ってくるクラウド。


カギ縄こいつには、しょっちゅう世話になるな。お前らも早く渡って来いよ!」


 廊下の中央はぽっかり空いているが、壁づたいに端を通れば渡れる様になっていた。


「確かに良い根性してるが……、もしかして、奴はすんげぇバカなのか?」

「バカです」

「おっぱいバカです」

「むっつりすけべでござる」

「こらーっ! 聞こえてるぞ、お前ら!」


 3段で落として来るブラザーズと雷也に、ムラサメは大いに笑う。


「がっはっはっ、ムッツリスケベか! そりゃ、女のために張り切る訳だよなぁ!」



 *



 廊下を爆進する同盟軍。

 次のフロアは罠ではなく、数名のサバイバル部員が待ち構えていた。

 その衣装は、青紺色の迷彩服。


「貴様ら……。さっきは、よくもやってくれたな!」

「さっきの奴らか!?」

「シグレ少佐! 生きてやがったのか!?」


 先ほど、中庭で戦闘を行ったシグレ部隊。

 全員、服が一部焦げ、頭はアフロヘヤーになっていたが、再度戦線に復帰したと見える。


「守備部隊の打たれ強さとしぶとさをなめるなよ……。今度こそ、貴様らを仕留める!」

「オレにまかせろ!」


 暴徒鎮圧用のランチャーを構えるシグレ少佐に、果敢に突っ込むクラウド。


「無茶だ、引き返せぇ!」

「引けと言われても、今さら止まれねー!」

「喰らって、死んどけえーーーっ!」


 無情にトリガーがかれ、射出されるX型のスラグ弾。

 だが、その弾丸はクラウドの身体を突き抜けたように見えた。


「なにーっ!?」

「どおおおりゃーっ!」


 超至近距離で、暴徒鎮圧弾を身体を捻ってかわしたクラウドは、その勢いのままシグレ少佐を、中華ナベでぶん殴る!

 回避行動をそのまま攻撃に繋げる、覚醒したクラウドの新戦法。

 ドサッと倒れるシグレ。それを見たシグレ部隊の隊員たちは。


「隊長の死を無駄にするなっ! 今のうちに防御陣を築け!」

『うおおおおおっ!』


 隊長が倒れても士気は衰えず、副隊長の指令のもと、隊員たちが土嚢やベニヤ板、鉄板、その他もろもろで即席の防御壁を築く。

 クラウドはその壁を蹴ったり殴ったりしたが、簡単に壊れる様子はない。


「くそっ! ってーなあ!」

「クラウドぉ、下がってろ!」


 クラウドの真横を飛来する炸裂弾。


「マジかっ!?」


 クラウドが飛びずさると同時に、爆薬が炸裂し、砕け散るバリケード。シグレ部隊を防御壁ごとぶっ飛ばし、このフロアも撃破クリアした。


「くっはーっ! 気持ちいいぜぇー!」

「こらーっ! そんなもん投げるなら、前もって言えよ!」

「言ったら、奇襲にならんだろうがぁ!」


 クラウドとムラサメの無茶苦茶な進撃に、若干ヒキ気味のブラザーズ。


「お前は、ハドそんのボンバーマンか?」

「それとも、初代ロックマンの方のボンバーマンか?」

「どっちも爆弾男ボンバーマンじゃねぇか、バカ野郎。俺様が目指してんのは花火師だ」

『たまやっ!?』

「なんだ、その驚きのセリフは?」



 *



「やベー! 道が塞がるぜ!」


 石壁がゴゴゴゴとシャッターのように降りて来て、進路を塞ごうとしている。

 それを全員、横一列のスライディングで滑り込む。

 次は石壁が床からゴゴゴゴとせり上がり、逆の形で通路を塞ぐ。


「今度は、ジャンプだ!」


 横一線でハードルを飛び越えるクラウドたち。

 最後はゴゴゴゴと両端から閉まる壁だ。横に並べない上に閉まるスピードが速い!


「みんな、縦に並ベーっ!」


 クラウドはスライディング、その上をブラザーズがヘッドスライディング、ムラサメはジャンプ、雷也は天井すれすれの大ジャンプで飛び越える。

 挟まれる寸前、もつれる様にして全員突破した。


「ここもクリアか? よっしゃー! 先に進むぜ!」


 意気揚々とダッシュするクラウド。ガツンと見えない壁にぶち当たる。


「痛ってーーーっ!」

「これは……、ガラスが張ってるのでござるか?」


 雷也は見えない壁を撫でる。


「もしかして、もしかしないでも、オレら閉じ込められたのかー?」


 さらにお約束通り、天井から水が注がれて水責めが始まる。


「うわ、拙者泳げないでござる」

「って言うより、このままじゃ水死だ!」

「ムラサメ、なんとかしろー!」

「わかったわかった、ちーっとばかし待ってろい!」


 ムラサメは腰に帯びていたアーミーナイフで、外と隔てる石壁の一部を削り始める。


「むらさめ殿、急ぐでござる」

「はよはよ」

「チンタラすんなー!」

「慌てんなよ。俺様も水浸しになると爆弾が使えなくなっからなっ!」


 と、ムラサメは壁の石をほじくり落とし、できた穴にダイナマイトを突っ込む。


「反対側の壁に張り付いて、耳を塞げ!」


 ドッカーン! と、壁に大穴が空き、外の景色が現れる。

 水は穴から流れ出して、なんとか水没するのは防いだ。

 しばらくすると、天井からの水が止まる。


「お? あそこから昇れるでござるな」


 雷也は三角飛びで水の出口にしがみつき、階上に登る。

 クラウドたちはガラスの壁に、トイレのカッポンを器用にくっつけ、上の階に上がる。


 城の中層部に到達したクラウドたちは、直線の長い廊下を走り、曲がり角を曲がる。

 すると、なぜか視界の先に、クラウドが追い求めていた少女の姿が見えた。


「……晴海!?」

「あー、クラウドくん!」

「……どうして、お前がこんな所に?」

「アタシ、あいつらから逃げて来たの。クラウドくん、アタシ怖かった……」


 涙を浮かべながら、クラウドに抱きつこうとする晴海。

 だが、クラウドは晴海の股間に、いきなり金的蹴りを食らわせる。


「ぐおっ!」

「お前……、誰だよ?」


 股を両手で押さえ、苦しい息を吐く敵。

 晴海のマスクがはげ落ち、素顔が晒される。

 マジック研究会および演劇部の仮面の男、ミラージュだった。


「な、なぜ、私が偽物だと見破った……」


 クラウドは自分のこめかみを指差し。


「確かに、姿も声もよく似せてあるけどな、お前は晴海じゃないとオレのアンテナが言ってるんだよ」

「なるほど……」


 変装を解いたミラージュは、ぴょんぴょんしながら戦いの構えをとる。


「さすがに、2回目はうまくいきませんでしたね。ならば実力行使です。私は殺陣役者もやってますので、格闘も得意なのですよ。覚悟しなさい!」


 素早い動きで問合いを詰めて来るミラージュ。

 と見せかけて、右腕を振るって無数のトランプを放ち、クラウドの眼前に、カードの吹雪が舞う。


「爆風トランプ! からの、ロイヤルストレート!!」


 拳にメリケンサックを装備し、不意を突かれて怯んでいるであろう、クラウドに向かってストレートパンチを放つが。


「全然、怯んでない!?」


 トランプ攻撃にまったく動じず、一本足打法で待ち構えていたクラウドは、ミラージュの顔面にメガ正宗を叩き込む。

 倒れる敵の腹に、叩き潰す様な更なる一撃を加え、敵は昏倒した。

 それに飽きたらず、クラウドは何度も何度もミラージュに蹴りを加える。


「ムカつく事しやがって、お前のせいで、晴海は……、晴海は!!」

『もう、それぐらいにしとけ!』


 クラウドの身体に、ブラザーズがしがみつく。


「こいつが、お前の逆鱗に触れたのは分かるけど、とりあえず落ち着け」

「今は先を急ぐのが先だろ、な、な」


 ふしゅー、ふしゅーと息を荒げるクラウドをなだめるブラザーズ。ようやく、落ち着きを取り戻し。


「……そうだな。すまねえ、ブラザーズ」

「いいってことよ」

「オレらの間に、『ありがとう』と『ごめん』はナシの約束だろ?」

「ああ、そうだったな……」


 クラウドとブラザーズは拳をぶつけ合い、15年来の友情を確かめ合う。

 だが。


「まあ、それはそれとして、オレらも1発ずつは殴っとこうかな」

「こいつのせいで、牢屋で臭い飯を食わされるハメになったし」

「じゃあ、拙者もお相伴に預かるでござる」

「はい、それではみなさんご一緒に」


『おらおらおらーっ!』


 ズギャーン!


 結局、全員にボッコボコにされたミラージュであった。

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