第63話 vsサバイバル同好会・サミダレ部隊

「よりによって、門の守備まもりはサミダレの野郎か……」

「ぐっはっは、この日を待ちかねていたぞ……。これで、合法的に貴様を叩き潰す事ができる」


 男が持つ強者つわものの気配に、クラウドの危険察知アンテナが、高い警戒レベルを感知する。


「ムラサメ、あの角材持ったバカでかい奴はなんだ?」

「あいつはサバイバル同好会の幹部、サミダレ大佐。サバイバル同好会の『武蔵むさしぼう弁慶べんけい』とも呼ばれる男だ」

「武蔵坊弁慶……」

「ちなみに本名は、五月女さおとめ乱丸らんまる。星座も乙女座だ」

「五月女ー?」

「乱丸ー?」


 プーッ、ゲラゲラゲラと大笑いするブラザーズ。


「あの顔で『さおとめ』だってー。どの面下げて言ってんの?」

「『らんまる』って、イケメンネームだよなー。改名するか、生まれ変わって出直せばいいのに」


 ビキッと、サミダレ大佐の額に青筋が走る。


「乱丸っていうより、まんまるって感じだよなー」

武蔵むさしぼうっていうより、ぼうべんけい!」


 言いたい放題のブラザーズに、どっと笑いが起こるムラサメ小隊。

 ムラサメは流石にやり過ぎだと思い、ブラザーズをたしなめる。


「おめぇら、無駄に挑発すんなよ。ストレートにデブかブタって言えば一言で済むだろうが」

「隊長、それもどうっすかね?」

「き、き、貴様らぁーーーーーっ!!」


 怒りが頂点に達したサミダレは、竜巻のように角材を振り回した。


「うわ、こいつ怒ったぞ?」

「短気なやつだなー」

「おめぇらがいらん事を言うからじゃねぇか!」

「いや、お前も大概だったぞ」


 だが、サミダレは鈍重そうな見た目に反した身軽な動きで、宙を舞う。


『え?』


 ドゴオァッ!


 着地しながらの角材の振り下ろし。

 その重くて速い一撃は、ムラサメ小隊の隊員を数人吹き飛ばす。

 さらに木柱を振り回し、その暴風圏内にはまり込んだ隊員たちも、サミダレの餌食と成り果てる。

 一瞬の内に、半数の隊員を失ったムラサメ小隊。


「ごあああああっ!」


 野獣の咆哮を上げながら、サミダレ大佐はムラサメに向かって一撃を放つ。


 ガキャッ! ドカッ!


 だが、それはニワカ軍曹のロッドで力を受け流され、あらぬ所を穿った。


「ニワカ!」

「やっぱ、ゴツいっすね……!」


 ニワカが目を巡らすと、倒れ伏す仲間達の姿。

 このままでは全滅の恐れもあり、よしんば全員がかりで倒せたとしても、首領の所にまでたどり着くまでに、戦力の低下は免れない。

 ならば。


「隊長! ここは、俺たちが食い止めます! 三雲たちと一緒に先行って下さい!」

「分かった! おめぇらに任せるぜぇ!」


 ムラサメとクラウドたちは、城の入口に向かう。


「ワシが、それを許すと思うか!」


 サミダレは、脇をすり抜けようとするムラサメに、角材を振るうが、再びニワカに防がれる。

 だが。


 パキン!


 ニワカの棍が、度重なる衝撃に耐えれずに、真ん中からへし折れる。


「あっ、やべっ……」

「ぐははは、とどめだっ!」


 容赦なく叩きつけられる、サミダレの角材!


「谷若! これを使えっ!」


 クラウドはニワカに向かって、薙刀部の草薙と戦った時に使った、白い物干し竿を投げる。

 受け取ったニワカは、ポールダンスの要領で回転し、三たびサミダレの重量級の攻撃をかわした。


「助かったぜ、三雲!」

「困った時には、手元のボタンを押せ! お前なら使いこなせるはずだ!」

「おめぇらぁー! 地獄で会おうぜぇ!」


 ムラサメが隊員たちに向けて親指を立てると、重そうな城の扉を蹴り飛ばし、クラウドたちはその隙間から転がり込んだ。


「くそがっ! 逃がさんぞっ!」


 サミダレ大佐は巨体を揺らしながら、ムラサメの後を追おうとしたが。


「へへっ、攻守交代ってところっすかね」


 今度はチャラい笑顔を浮かべたニワカ軍曹と、残りの隊員たちが、扉の前に立ちふさがる。

 ニワカは棍をヒュンヒュン振り回し、ビタッと構えると。


「ここを通りたけりゃ、サバイバル同好会の『ストライクイーグル』ことこの俺と、ムラサメ小隊を倒してからにしてもらいましょーか」


 ニワカに続いて、やんのかゴルァ! かかって来いやー! と挑発する隊員たち。


「ニワカァ……、貴様らぁ……!」



「よし、侵入成功! ムラサメ、これからどう行けばいいんだ?」

「こっから先は俺様も知らん! 城の中までは入った事が無ぇからな。分かってんのは敵が来た時の為に罠が大量に仕掛けてあるのと、ロイヤルガードが最上階までの部屋を守ってる事ぐらいだな」

「ロイヤルガード? なんだそりゃ?」

「カリスマ教直属の親衛隊だ、どいつもこいつも超人的戦闘力を持っていやがる。このまま行けば、衝突は避けらんねぇが……」

「今さら後戻りはねえ。どんな奴らが相手でも、前に進むだけだ!」

「いい返事だ。そんじゃ、気合入れて行くぜぇー!」


 クラウドたちは、眼前に広がる石畳の廊下を走り始めた。



 *



 雷也の前蹴りが、敵の腹を襲う。

 続けて、牢屋番の胸部を昇るように蹴り上がり、最後に組んだ両手をハンマーの様に、男の脳天に振り下ろす!

 物も言わずに敵の体は崩れ落ちた。


「必殺、昇雷落としでござる」

「よし、みんなを助けるぞ」


 先を急ぐところだが、寄り道をして地下牢に来たクラウドたちは、捕まっている生徒会役員を救い出そうとしていた。


「……ったく。なんで、腐れ生徒会なんかを助けなきゃなんねぇんだ?」


 生徒会に良い感情を持っていないムラサメは、苦い顔で愚痴をこぼす。


「そう言うなって、オレらも生徒会とは色々あるんだよ」

「同じ地下牢に閉じ込められた縁もあるでござるし」

「白鳥雪姫ちゃんの印象も良くなるしー」


 階段を降り、ブラザーズと雷也が地下牢に登場すると、彼らが脱走したことを知っていた、檻の中のモブ顔の生徒会長はじめ、生徒会役員たちが色めき立つ。

 雷也がしーっと唇に指をあてて、それを静まらせた。


「しっかし、鍵があり過ぎて、どれがどの牢のカギか分かんねーな」


 地下牢は何個もの小さな小部屋に別れており、それに応じてカギの数も多い。


「げっ! しかも、牢よりカギの数が多いってどういう事だよ?」

「急げ、おめぇら。時間がかかると敵の守りが厚くなるし、ニワカたちが抜かれたら、後ろから追っ手が来るぞ」


 入口で見張りをしているムラサメの声が、クラウドたちを急がせる。


「……その一番長いカギで、ワシの牢を開けてもらえないか?」


 クラウドたちは声のする方を見る。地下牢の最奥の部屋に、アフロ頭のアラブ人の容貌の男。かつての敵の姿があった。


「お前は……、ヨガ男!?」


 クラウドたちの情報を漏らさなかったヨガ男は、拷間の末に地下牢に閉じ込められていたのである。


「ワシはここのカギを全部知っている。この牢を開けてもらえれば、ワシが他の牢を開けてもいい」

「敵だったお前が、なんで力を貸そうという気になったんだ?」

「ワシは、あの娘に借りを返したいだけだ」


 クラウドは、ヨガ男の目をじっと見る。そこに危険な光は見い出すことはできない。


「……分かった、信じるぜ」


 クラウドはヨガ男の牢のカギを開けてやり、カギの束を渡す。


「ついでに頼まれてくれねーか? 生徒会の連中を守って逃げてくれ。オレらは急いでる真っ最中なんだ」

「あの娘が捕らわれているのだろう? いいだろう、引き受けた」

「すまねえ、恩に着るぜ。あと、生徒会副会長の山瀬さんがいないようだけど……」

「おい! クラウドぉ! 用が済んだなら、さっさと行くぞぉ!」


 焦れて出発を急かす、ムラサメの声。


「上だ。最上階にいるはずだ」

「わかった! ありがとうな!」


 ヨガ男と笑顔で別れ、クラウドたちは地下牢を後にした。

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