第51話 城内潜入作戦

「すっかり、ごちそうになっちゃった。ありがとね」


 お礼を告げて、ムラサメ小隊のベースキャンプから出発しようとする、晴海たちノーテンキ冒険隊。

 結局、ムラサメ少尉は2つ目の質問を考えてる最中に寝てしまい、食事会はお開きとなった。

 ムラサメは、食べたらすぐに眠くなるらしく。


「すんませんね。ウチの隊長、野生動物けだものなもんで」

「ひどい言われようだなー」

「ううん。あたしたちの方こそ、無理やり押しかけて、いっぱい迷惑かけちゃってごめんね」

「夏山さんが気にする必要ないっすよ。隊長の気まぐれはいつもの事なんで」


 やれやれといった感じで、苦笑いをするニワカ軍曹。

 部下たちはムラサメの事を口悪く言ってるように見えるが、上下関係の枠を超えた付き合いに、むしろムラサメの器の大きさが感じられる。


「そんじゃ、俺からも1つ情報をプレゼントっす。『銀髪の人物に気を付けろ』」

「えっ? それってどういう……」


 晴海の脳裏に2人の人物が浮かび上がる。


「俺の権限で言えるのは、そこまでっす」

「銀髪の人物……」



 *



 イスに寄りかかって眠るムラサメ。

 その鼻ちょうちんが、パチンと割れた。


「んが?」

「もう、あいつらは行っちゃいましたよ」

「なんだぁ? せっかちな奴らだなぁ」

「寝てる方が悪いっす」


 そう言って、副隊長のニワカはコーヒーを持って、ムラサメ隊長の近くのイスに腰かける。


「ずいぶん、あいつらの事が気に入ったみたいっすね」

「まあな。特にあの赤い服来た、クラウドとかいう面白い奴」

「三雲の事っすか」

「あいつの反射神経とクソ度胸、それに罠回避の能力。ムラサメ小隊なかまに欲しいと思ってな」

「あいかわらず、戦力の補強に余念がないっすね。でも、それだけじゃないんでしょ?」


 ニワカの言葉に、ムラサメはギラリと眼を光らせ。


「あとは、『触媒』になって欲しいと思ってな」

「触媒?」

「あいつらに現状を引っかき回してもらって、上がどう出るか様子を見させて貰おうと思ってる」

「命令が錯綜したり、色々おかしいっすもんね、ウチの上層部」

「まともな対応をすれば、それでよし。じゃなかったら、俺様にも考えがあるってもんだ」


 そう言って、ムラサメはコーヒーをあおると、目を白黒させる。


「熱っちぃ! なんで、いつもおめぇの入れるコーヒーは、煮えたぎるように熱いんだぁ?」

「あれ? 人も戦いもコーヒーも、熱い方がお好みじゃなかったすかね?」

「コーヒーは一気に飲みてぇよ」


 ムラサメはふーふーしながら、再び熱いコーヒーに挑む。


 2人は軽口を叩きながらも、次の戦いの予感に身をたぎらせる。



 *



 徘徊していたクラウドと合流し、敵の拠城へと向かう冒険隊。

 クラウドの表情は複雑なままで、なんとなく隊内の雰囲気はすっきりしない。


「くらうど、一言もしゃべらないでござるな」

「さっきの戦いで、インディ娘ちゃんを助けられなかった事を、まだ悩んでるんだろうなー」

「もし、あの爆弾が本物だったらとか、考えてるんじゃないかな、もっと気楽に構えたらいいのに」

「雨森兄弟なら、どう考えるでござるか?」

「爆弾がニセモノで、ラッキー♪」

「生きてて、ハッピー♪」

「なるほどでござる」


 そんな感じで、足取りが重い冒険隊。隊長の晴海も表情が浮かない。


「インディ娘ちゃん、見て見てー、キノコキノコ!」

「ぷっ!」


 晴海が後ろを振り向くと、ブラザーズが地面に埋まって顔だけを出している。

 自分たちのキノコヘアーを利した、体を張った一発芸だ。


「ここらへんは、地面がふかふかで掘りやすいでござるなあ。木の葉隠れの術!」


 と、ブラザーズの上に、雷也はさらに腐葉土をかぶせる。


「うわ、もういいよー!」

「生き埋めになっちまうよー」

「2、3年寝かせたら、もっと増えないでござるかな」

「あははっ♪」


 ブラザーズが地面から大量発生している姿を想像し、思わず吹き出す晴海。

 雷也がクラウドにスコップを返す姿を見て。


「雰囲気を和ませるために、わざとふざけてくれてるのかな? ブラザーズくんたち、雷也くん、ありがとうね……」


 心の中で感謝をしつつ、再び前を向く晴海。

 そんな、小さい笑いを挟みつつ、1時間ほど歩いたところで、冒険隊は再び迷いの森の罠に陥った。


「また、戻って来ちゃった……」


 晴海の目の前に、枝の先にボロ布を縛ったマーキングがある。


「マジかー」

「あたし、方向感覚の良さが自慢だったんだけど、自信なくすなあ……」

「また木に登って、方角を見てみるでござるか?」

「うーん、それしかないのかな……。あんまり時間をかけると、日が暮れちゃいそうだけど」


 その時、後方でガサッと木の葉の擦れる音が。


「そこにいるのは、誰!」


 気配のする方にパチンコを構える晴海。


「待て待て、撃つな撃つな、俺サマだ!」


 現れたのは、黄色のバンダナを海賊巻きにした迷彩服の男。

 つい、先程まで食事を共にしていた、ムラサメ少尉の姿であった。


「ふう、やっと追いついたぜェ!」

「隊長さん? 何しに来たの?」

「何しにって、そりゃねェぜ。苦戦してるようだから、道案内してやろうってェのに」

「へえ、ずいぶん気前がいいなー」

「助かったよ、また道に迷いかけてたトコなの。この森って一体なんなの?」

「この森は、地面に微妙な傾斜がついてるんで、平行感覚を奪う様にできてんだ。あとは、これを見てみろい」


 ムラサメはポケットから方位磁石を取り出す。

 だが、その針は北を指さず、くるくる回転を続けている。


「どうやら、強力な磁場が働いてるみてェで、方向感覚の良い奴ほど、迷いやすくなってるっつう訳だ」

「なるほど、これは厄介な森ね……。でも、隊長さんが道案内してくれるんでしょ?」

「おう、黙って俺サマについて来やがれ!」


 ムラサメの案内で、城の近くまで一気に辿り着く晴海たち。

 遠くから見た時は分からなかったが、近寄って見るとかなり巨大な建築物で、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城を思わせる。

 なぜ、この様な物が島に建造されているのだろうか。

 そして、侵入を試みたいが、正面の城門には番兵が配備され、城壁は高いので、乗り越えるのは雷也とワイヤーギミック使いのムラサメ以外は無理そうだ。


「ねえ、隊長さん、良い潜入方法ってないかなあ?」

「こっちに来てみろ」


 ムラサメの後に、素直に付いて行く晴海たち。

 目の前に、古井戸が現れる。

 城の外れに井戸? 一見、無用の長物とも思われるが。


「この古井戸、実は城内からの抜け穴でなァ。ここから城へ繋がってるんだ」


 いかにも怪しい感じがしないでもないが、晴海はクラウドの様子を伺う。


「クラウドくんの、危険察知アンテナは反応してないようね……。よし、みんな行くよ!」


 晴海たちは、井戸の中のハシゴを伝って降りて行く。

 トンネルに入ると、一寸先が見えない闇の中。


「真っ暗でござるな」

「こういう時は、壁に手をついて行こうっと」

「ちょっと、ブラザーズくん達! どこ触ってんの!?」


 ピシッと平手打ちの音。


「ちょっと待て! なんで、俺サマがぶたれるんだ?」

「あれ? 隊長さんだった? ごめーん、間違えちゃった」


 長いトンネルを潜り抜け、そして、井戸から這い上がった晴海たち。


『そこまでだ』

「!?」

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