第26話 新入隊員誕生

「何でそんな事になってるの? それは誰から聞いたの? ソースはどこから?」


 その情報は、山瀬にとって寝耳に水だったようで、焦った様子でクラウド達に詰め寄る。

 そして、焦りすぎて、めちゃくちゃおっぱいが揺れている。


「山瀬さん、落ち着いて下さい、ソースなら家庭科実習室にあります!」

「クラウドくんも落ち着いて。ソースは情報の出どころって意味よ」

「はっ! ごめんなさいね、取り乱してしまったわ……」


 先ほどまでの、落ち着きを取り戻す山瀬。

 生徒会の副会長を務めるくらいなので、学校への愛着は人一倍なのだろう。

 一見、クールに見えた山瀬だが、心には熱いものを持っているように思われた。


「この情報は、考古研を倒した時に聞き出したものです。そして、あたしたちは生徒会の捜索と同時に、カリスマ教の陰謀を食い止めようとしてたところです」

「私が知らない間に、そんな事になっていたのね……。これは調べてみる必要がありそうだわ」


 山瀬は自分の思考に没入する。

 白い肌も相俟あいまって、その姿はルーブル美術館に飾られている彫像のように美しい。


「ねえ、クラウドくん。玲華さんも冒険隊あたしたちの仲間になってもらったらどうかな。玲華さんも生徒会を探してるし、目的が一致してるでしょ?」

「うん? そういや、そうだな……」


 クラウドは、考えに耽っている山瀬に視線を向ける。

 そして、その視線が胸に移動し。


「うん。いいんじゃねえかな♪」

「自分から言い出した事なのに、なんか釈然としないなあ……。けど、まあいいか」


 晴海は、てけてけっと山瀬に近づき。


「玲華さん。もし良かったら、あたしたちと一緒に行きませんか? 1人だとまた敵に襲われるかもしれませんし、玲華さんの知識があると、あたしたちも心強いですから」


 それを聞いて、山瀬は驚いたような顔をする。


「それは願ってもないことだけど……。私はアルビノよ。あなた達は私の事、気持ち悪くないの?」


 気持ち悪い? 何が?

 逆にクラウドたちが驚いたような顔をする。


「全っ然! むしろ良いものをお持ちだと思います」

「は?」

「あたしは、綺麗だなって思います」

「はいはい! オレも弟に色素を吸われたのが、オレって言われてるし」

「オレも兄者の2Pツープレイカラーと言われてるしー」

「きれいなお姉さんは大歓迎でござる」


 色白の北斗と色黒の南斗は、お互いを指差して言い、雷也は美少女りすとをペラペラめくる。

 山瀬は、ぷっと吹き出し。


「ふふふっ、あなたたち本当に面白いわね。私の方からもお願いするわ。仲間に入れてもらえるかしら」

『よろこんでっ!』


 わーい、わーい、美人が仲間になったー、と喜ぶクラウド達に山瀬は言う。


「じゃあ、新参者から意見があるんだけど、聞いてもらっていいかしら」

「あ、はい、お願いします」

「古文書ってことは、おそらく昔からある部が係わってると思うのね。だから、学校創設時からあるクラブから当たってみるのはどうかしら?」

『玲華さん、あったまいー!』

「インディ娘ちゃん、古い部活と言ったら『都こん』が、かなり古いって聞いた事があるぞー」

「そうなの? じゃあ、手始めに都こん部の奴らから血祭りに上げるよ!」

『うおおおおおーーーっ!』


 晴海の号令に、男たちは戦いの雄叫びウォークライを上げた。


「いや、私はもうちょっと、違う部から始めた方がいいと思うけど……」



 *



「くっ! こいつら、将棋部のくせに動きが速い!」

「いや、速いというより、こちらの攻めを読まれてる感じでござる」


 古文書の存在を知ったノーテンキ冒険隊は、午後からは古文書の捜索を実施し、いくつかの古参のクラブの部室探索をしたが、なかなか古文書の手掛かりは見つからなかった。


 この間に特筆すべきことと言えば、昼飯に生徒会室でカップ麺をごちそうになった事と、山瀬が普段はメガネをかけていることが分かり、メガネ属性もあるのかよーと、雨森ブラザーズが頭を抱えていた事ぐらいである。


 動きがあったのは、太陽が西に傾き、空に赤みがさした夕方のころ。

 将棋部を名乗る、着流しの集団と接触し、古文書の事を問いただしたところ、いきなり戦闘が始まった。


「棋士は、何手先も読むことができる」

「貴様らの動きを読む事など、雑作も無きこと」

「喰らえ、天童将棋駒スプラッシュ!」


 将棋部の手から散弾が放たれる!


「うわーっ! 目が……、目がーっ!」

「マズい! 兄者が眼球をやられたー!」

「隊列を崩すな! 攻め込まれるぞ!」


 所詮、将棋部とたかをくくっていたクラウド達だったが、予想外の強さに一気に窮地に追い込まれた。


「ここはあたしにまかせて!」


 晴海がパチンコをつがえて、クルミ弾を放つ!

 晴海の腕前を知るクラウドは、おそらく当たらないと予測し、次に来るだろう敵の攻撃に備える。

 ところが。


「ぐえっ!」「ぐわっ!」「ぐおっ!」


 ビシ、ビシ、ビシッっと、次々に弾丸が的確に敵を射抜く。

 動揺が隠せない将棋部は焦った様子で叫ぶ。


「なぜだ! 私達は完全に弾道を読んでかわしているはず!」

「なぜ、あんな弾が避けられない!」


 これを好機と見た晴海は。


「敵は怯んだわ! 攻めるのは今よ!」

『うおおおおおーーーっ!!』


 晴海の指揮に、クラウド達は一斉に将棋部に攻めかかる。

 苦戦はしたものの、なんとか敵を抑えることに成功した。


「なぜだ……、私達の読みは完璧だったはずなのに……」


 神妙にお縄についた将棋部の嘆き節に、晴海は大上段から言い放つ。


「あんた達の読みよりも、あたしのパチンコの技が勝ったようね」

「そんな……。ま、参りました……」

「じゃあ、古文書の情報を教えてくれる?」

「敗者は勝者に従うもの。全てお話します……」



「……もう、出てきて大丈夫かしら?」


 戦闘に巻き込まれないように、晴海に隠れておくよう言われていた山瀬は、茂みの中から姿を表す。


「バッチリです。古文書の情報も聞き出しました」


 晴海は、山瀬に向かってVサインを送る。


「あなた達の戦いを見てたけど、夏山さんは射撃が上手なのね」

「へへへっ、なんか急に腕が上がったみたいです♪」


 と、上機嫌で山瀬に自慢する晴海。

 しかし、全てを理解しているクラウドは。


「たぶん、インディコのパチンコが下手すぎて、将棋部の奴らの予測外の動きをしたんだろうな」

「そうだなー」

「おそらく、そうでござる」


 ブラザーズも雷也も同調するが、それを言っても晴海の士気が下がるだけなので、4人はあえて口をつぐむ。

 そして、身動きの取れない将棋部の鼻の穴に、ブラザーズが将棋の駒を詰め込んでいた事も、やりすぎなので口をつぐむ。


 日も沈んでしまったので、今日の探索はこれをもって終了となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る