第25話 白い巨乳の副会長
5月4日の朝日が昇り、クラウド以外のメンバーは、十分な睡眠で元気はつらつと出発した。
「あ~、眠みぃ……」
うつらうつらしながら、下を向いてとぼとぼ歩くクラウド。
ふと、顔を上げると、目前に晴海の顔があった。
「うわっ!」
「大丈夫? とっても眠そうね」
「い、い、いや、別に」
昨日の夜の事が思い出され、晴海の顔を直視できないクラウド。
晴海は、そんなクラウドにそっと近づき、耳元でこそっと。
「看病してくれて、ありがとね」
そう言うと、晴海は茶色の革ジャンを翻し、クラウドから離れて、再び隊の先頭に立つ。
クラウドは、てれてれ歩いているキノコ頭、雨森ブラザーズの首根っこをむんずと捕まえ。
「お前ら、インディコに何か言ったか?」
「いや? 昨日クラウドが、寝ずの看病してたって言ったぐらいだなー」
「別に、インディ娘ちゃんをぎゅっと抱きしめて、あんなことやこんなことしてたなんて言ってない」
「なんもしてねーよ! ……まあ、余計な事言ってないならいいけど」
晴海は上機嫌で、スキップまでしている。
何か良いことでもあったのか? と、不思議に思うクラウド。
晴海率いるノーテンキ冒険隊は、昨日からの引き続き、体育会系のクラブの部室の探索に乗り出した。
体育会系の部室は、文化会系のように1つの棟に部室が固まっている訳ではなく、体育館・グラウンド・武道館・プール場・etcと、活動場所ごとに点在している。
そのため、次から次へと探索ができないので、効率よく根気強く調べて行く必要がある。
昨日の段階で、体育館内の探索を終えているので、次に向かったのはグラウンド。
野球部やサッカー部などの屋外球技系の部室を荒らしてみたのだが、結局何も手掛かりは見つからず、部員たちに出くわす事もなかった。
クラウドたちは、野球グラウンドのベンチで小休止をする。
「うーん……手掛かりが無いのはしょうがないとして、部員たちとほとんどカチ合わないのは、どうしてだろうな」
購買部から(ちゃんとお金を置いて)もらってきた、エナジーメイトをかじりながら、クラウドは言う。
「もぐもぐ、最初の小競り合いで潰されちゃってるか、捜索を諦めて脱落しちゃったか、もしくは……」
晴海も黄色い箱の携帯食料を食べながら、現状を分析する。
「すでに、カリスマ教に取り込まれてしまっている……とか」
「じゃあ、考古研だけじゃなくて、他の部ともガチでやり合わなきゃなんなくなるのか?」
「あたしたちが、カリスマ教の真相に近づけば近づくほど、そうなるかも」
「そりゃ、めんどくせーな」
「あたしたちも、目的が一致する人と手を組みたいところだけど、そんな都合の良い人いるかなあ……」
晴海とクラウドが思案を巡らせていた、その時。
「きゃああああっ!」
絹を裂くような、女性の悲鳴。
「うら若き乙女が、助けを求めているでござる」
「何だとっ!」
いち早く反応したクラウドと雷也は、声がした方へ駆け出す。
晴海とブラザーズも、すぐ後を追う。
グラウンドからそう離れていない歩道のど真ん中で、女性が数人の男たちに襲われていた。
「なにやってんのよ、あんたたちーっ!」
晴海は機先を制して、暴漢たちに叫ぶ。
男たちの格好は、貫頭衣と呼ばれる弥生時代の服装。
こんな格好をしているのは、間違いなく考古学研究部だ。
先行していたクラウドと雷也は、問答無用で突進し、晴海たちもそれに続く。
「ブラザーズくん達、あたしたちも突っ込むよ!」
『なんでやねん!』
「ツッコむんじゃなくて、突撃するの!」
晴海たちも、一斉に考古研に襲いかかる。
「うわーっ! とてもかなわん!」
「撤収だーっ!」
不意をつかれた考古研の面々は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「何だ? 歯応えのない奴らだな」
「あの、お怪我はありませんか?」
晴海は、襲われていた女性に声をかける。
「大丈夫よ。あなたたちが来てくれて助かったわ」
しっとりとした声で晴海に答え、女性は立ち上がる。
その姿を見たクラウドたちは目を見張り、声を失う。
薄い黄色の七分袖のブラウスに、白色のパンツルックのその女性。
絹糸のような、白銀のショートカットの髪。
陶磁器のような、なめらかな白い肌。ルビーのような真紅の瞳。
高い鼻梁に、桜の花びらを思わせる唇。
日本人離れした、いや、むしろ天使かと見紛うような、人間離れした雰囲気を醸していた。
「綺麗……」
女の子の晴海ですら、絞り出すように言葉をこぼすしかできない様子が、彼らに与えた衝撃を物語る。
ただ、そこにいるだけで、1枚の絵画が出来上がるような美しさを持った、白い女性であった。
そして、身に纏っているのはゆるめのブラウスなのに、自己主張を抑えきれない、たわわに実った豊満な胸。
クラウドは、ツカツカツカと女性の前まで近寄ると、中世の騎士のように
「女神と呼んでよろしいか?」
「お賽銭は弾んでいただけるのかしら?」
冒険隊の面々はそれを見て。
「すげー。初対面の女性を、いきなり神と
「動じないどころか、あの返し」
「2人とも、只者ではないでござる」
「何やってんだか」
呆れる晴海だったが、彼女の特徴から、以前に生徒会に所属する親友の雪姫から聞いた話を思い出す。
「あ! もしかして、あなたは生徒会の?」
「はじめまして。副会長の
彼女が名乗った瞬間、風に花の香りがふわりと混じる。
「びっくりさせてごめんなさい。私の見た目がこんなだからでしょ」
「あ。いえ、そんなことは……」
「私は『アルビノ』なの」
先天的な遺伝子の疾患による、メラニンの欠乏症。
通称『アルビノ』。
髪の毛や瞳、皮膚などの色素が無いため、白化個体とも呼ばれる。
数万人に1人の確率で生まれると言われており、医学知識の乏しい時代は、霊験あらたかな存在として敬われ、あるいは迫害の対象となった事もあったという。
そんな山瀬に、なんと言ったらいいのか、声をかけあぐねる晴海。
対して、ブラザーズと雷也は首脳会議を始める。
「おいおい、雪姫ちゃんに続いて、また巨乳美女が現れたぞー」
「アルビノ巨乳って、どんな鬼設定なんだよ、最強じゃないかー」
「オレらの『おっぱい相対性理論』に早くも綻びが……」
「いや、統計のデータが足りない。諦めるのはまだ早計だ」
「美しいでござる。あの造形は、まさしく神の造り賜いしものでござる」
「そうだな、オレらも一応拝んでおこうっと」
首脳会議終わり。
ブラザーズたちは山瀬の元へ行き、しゃがみこんで、ははーっと礼拝を始める。
初対面の男たちが白い女性の前にひざまずく、シュールな光景。
「ほんと、バカばっかり」
「悪い気はしないけど、何これ?」
晴海は呆れ果て、山瀬は変な子たちだなあと思った。
*
「改めて、自己紹介させてもらうわね。私は
ひとまず、人目に付かないところに移動した冒険隊と山瀬は、お互い自己紹介を始める。
「あたしは、夏山晴海。冒険隊の隊長をやってます♪」
「拙者は服部雷也。忍者でござる」
「雨森北斗です」
「雨森南斗です」
『そして、こいつがムッツリスケベの三雲クラウドです』
「うぉい! オレをオチに使うんじゃねーよ!」
「あなたたち、本当に楽しそうね」
お互いのほっぺたをぐにーっと引っ張り合う、クラウドとブラザーズを見て、山瀬は言う。
「ところで、あなたたちはこんなところで、何をしてたのかしら?」
「あたしたちは行方不明になった、生徒会と親友の白鳥雪姫を探していたところです」
「ああ、あなたが白鳥さんの……。冒険家を目指してる、とても元気で可愛らしいお嬢さんと聞いてるわ」
「いやー、それほどでも」
親友の自分への評価をまた聞きして、まんざらでもない様子の晴海。
「山瀬さんも……」
「玲華でいいわよ」
「じゃあ、遠慮無く。玲華さんも雪姫から色々聞いてます。去年の冬に転校してきたばかりなのに、いきなり生徒会の副会長に抜擢されるくらい、頭が良くって人望がある人だって」
「たまたまよ、私はそんな優れた人間じゃないわ」
山瀬は、白い頬を薄桃色に染めて謙遜する。
「あれ? そういや、生徒会って、みんな誘拐されたんじゃなかったっけ?」
「いえ、私だけはその難を逃れてしまったの。だから私も
山瀬の話によると、生徒会が行方不明になった、4月28日の夕方の事。
生徒会の会議中に山瀬が席を外し、しばらくして戻って来たところ、生徒会室から自分を除く、すべての役員達の姿が消えていた。
そして、自身も催眠ガスの残り香を吸ってしまったらしく、その後の事は何も分からないという事である。
「だから、私は生徒会の仲間たちを救おうと思い、手掛かりを探していたの。そして、上沢高校を征服しようとしている、カリスマ教の存在を突き止めたわ」
「やっぱり……」
「あなたたちも、カリスマ教の事は知っているようね。じゃあ、こういうのはどうかしら。カリスマ教の潜伏先に行き着く方法を示した古文書があるというのは」
『古文書!?』
「そして、それをどこかのクラブが隠し持っているらしくって、私はその
山瀬から提供された、新しいキーワード『古文書』。
「古文書……。異世界の扉と何か関係があるのかな?」
「私が知ってるのはこんなところよ。もし良かったら、あなたたちが持っている情報を教えて頂けないかしら」
「あたしたちが知ってるのも、大体そんなところですけど、カリスマ教の目的は征服じゃなくて、上沢高校を消滅させる事と聞きました」
それを聞いて、山瀬は目を丸くする。
「上沢高校の……消滅ですって!?」
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