第22話 晴海の記憶2 ~晴海と雪姫の出会い~

 あたしと雪姫が出会ったのは、桜が見頃を迎えていた、ある春の日。


 あたしは、噂の異世界の扉を探して、片っ端から街の中のドアやマンホールを開けていたら、知らないサラリーマンのおじちゃんが落っこちて、すっごく怒られちゃったの。

 なので、異世界の扉探しは、また今度やります。


 次の冒険は、町の南の外れの丘の上に建っている、大きなお屋敷。

 大人の人たちは、近づいちゃいけませんって言ってたけど、中がどんな風になってるのかどうしても知りたくなったので、今日はお屋敷の中に入ってみることにしたの。

 そして、こっそり中に潜入したら、お庭で1人で遊んでる女の子がいたわ。


 その子は、黒くて長い髪で、雪のように白い肌。

 桜の花びらが舞う中で見た、白いワンピースの彼女は、一瞬、妖精がいるのかと勘違いしちゃった。


 あたしがいる事に気づいた妖精さんは、顔がくっつきそうなくらい近くまで寄ってきて、とても嬉しそうに話しかけてきたの。


「あなたはだあれ?」

「あたしは、はるみよ」

「わたしは、ゆき。『はるみよ』ちゃんはどうして、ここに来たの?」

「ちがう、ちがう。あたしは、は・る・み」


 雪姫は初対面で、いきなりボケをかましてきた。

 後から、すごい天然って分かったんだけど。


「えっとね、壁は地面に穴を掘って、トンネルを作ってくぐってきたよ。あと、せきがいせんナントカは、蚊取り線香を焚いて……」


 あたしが、屋敷への潜入方法を説明したら、雪姫は楽しそうに笑ってくれた。


「すごいですわ、はるみちゃん。でも、なんでそうまでして、うちに来てくれたの?」

「桜がきれいだったから」

「桜?」

「うん、壁の外側から見た桜がきれいだったから、中で見たら、もっときれいなんだろうなと思って。入っちゃいけないと言われたら、ますます気になっちゃったの」

「すてき。はるみちゃんは自由に生きてらっしゃるのね」

「でも、みんなからは変だ変だって言われてるよ」

「ううん。ちっとも変じゃありませんわ。活発でとてもうらやましい……」


 そして、雪姫は少し寂しそうに。


「わたしは、身体が弱いから、この家から1歩も出たことがないの。わたしはお外の世界を見てみたい……」

「じゃあ、トンネルも掘ったことだし、あたしと一緒にお外に出てみる?」


 雪姫の表情が明るく輝く。


「ほんと? わたしも行っていいの? でも、お父様に怒られちゃうかも……」

「やりたいことは、何でもやっちゃっていいんだよ。でないと何もできないもん。一緒に行こ!」

「はい!」

「あと、あたしからお願いがあるの」

「わたしも、お願いがあります」


 せーのと、2人同時に声を揃えて。


『あたし(わたし)と、お友達になってください!』


 ひとしきり笑ったあと、あたしたちは警備員さんの目をかいくぐって、屋敷の外に飛び出したの。

 色んなところへ行って、色んな話をして、雪姫とはその日のうちにすっかり仲良くなった。

 案の定、雪姫の家に忍び込んだ事がバレて、あたしの両親には怒られたけど、雪姫のお父さん(とっても偉いひとらしい)から連絡があって、いつでも雪姫に会いに来ていいよって言ってもらったの。


 それからは、雪姫とは毎日会うようになった。

 病気がちだった雪姫も、あたしと出会ってからどんどん元気になったらしくって、お外で遊ぶ許可ももらったわ。


 だから、あたしたちはちょっと遠出をして、海を見ようと北の町に行ってみることにしたの。

 ささやかだけど、2人の初めての冒険。


 だけど……、それが、あんな事になるなんて……。

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