第10話

(つか、部屋!?

ダメだろダメだろ、ホント壁うすぃぃンだって、あのボロアパ!

前の隣人、若夫婦だったけど もぉそりゃぁ毎晩どエロイ声がさぁ、聞こえてきちゃってさぁ、

オレ、マジで毎晩 楽しかったわぁ!!)


 まぁ、夫婦だからしゃぁないわな。

って、そんな寛大な気持ちでオレは耳を欹ててたワケですけど、今回ばかりは耳を塞ぐ。

いや、どーすっかなぁ?


(ヤバイ! オレ、最低の隣人になろうとしている!

どんなんか ちょっと聞きたい気がしてならねぇ!!

あ~~そんなコトより、オレこそ お持ち帰り要員を見つけるコトに専念すべきだぁ!!)


 ビール、またも一気飲み。ンで むせる。


「ゲホゲホっ、」

「だ、大丈夫? 石神サンっ、」


 女の子達が背中を摩ってくれる。

こんなに至りに尽くせりは久し振りなもんだから、却ってピンチ。


「だ、大丈夫! つか、ちょいタイム!」


 オレはイソイソ腰を上げ、駆け込みトイレ。

個室に飛び込み、鉛のような溜息を吐き出す。


(ぅあ、女の子の手って最高……)


 久し振りの豪遊にキャバクラもどきは刺激が強すぎたみてぇだ。

冴えねぇが、便所で生き抜き。壁に寄りかかり、目を閉じる。


(ユーヤ君の手は どんなんだろか?

蕎麦 作ってくれてる時にガン見したけど、やっぱし女の子みたいな手だった。

ちっちゃくて、細くて、弱々なカンジ。

でも、サラッと お気に入りの女の子と2ショットになる抜け目の無さは男だわ。

あの技術は真正タラシだわ。確定)


 ちと、凹む。

初対面の あのイメージのまま清純でいて欲しいってゆぅか……ああ、溜息。


(いや、人のコトは どーでもイイだろ。自由恋愛、賛成。

だからオレはオレの為の狩りをすべき何だっつの。

その為に合コン開いて貰ったんだから、気兼ねなく物色しましょーよ)


 新たな決心を胸にシッカリ頷いた所で、コンコンコンとドアがノックされる。

他にも個室はあんだろぉが、アホか酔っ払い!


「石神サン? 大丈夫ですか?」

「え!? あ、ユーヤ君!? ハイハイ!」


 まさかの問いかけに、オレは慌ててドアを開ける。

そこに見えるのは、オレの決心を揺るがすゲロマブ。

心配そにオレを覗き込むユーヤ君の憂い顔が、ホンっっト……エロイよなぁ!!


「すいません、うるさくて悪酔いしちゃったんじゃないかと思って、」

「そんなんねぇよ、大丈夫、大丈夫! つか、ユーヤ君、気ぃ使い過ぎっしょぉ?

カノジョ1人にしちゃマズイんじゃねぇ? 倍率高そうだぜ、あの子」

「えッ? もしかして、石神サンも真奈チャンに目ぇ付けてました!?」

「イヤイヤイヤイヤ。被ってナイから平気」

「本当ですかっ? 本当に!? 俺、何なら手ぇ引きますから!」

「イヤイヤイヤイヤ、」


 モテない男への配慮が行き届き過ぎで悲しいっての、そのオモテナシぃ。

オレは咄嗟に頭に浮かんだOBを引き合いに出す。


「オレは、あの人よ。えっとぉ……ヤベぇ。名前 聞いてなかった」

「一緒に飲んでた人ですか?」

「そぉそぉ、OBの!」

「浅野先輩ですね! 浅野絵里子サン! あの人、今ピアノの調律士してるんですよ!」

「そりゃスゲェ! 女調律士、カッケぇなぁ!」


 肩書きに興味津々とか、男のクセにって思われっかも知れねぇけど、この辺は男も女も変わらねぇよな。つか、俄然やる気出たっつの。


(1コ上ってケド、そこいらは どーでもイイし。

アッチがオレでもOKなら、オレも晴れて正常な脳ミソを獲得するコトが出来る!)


 オレがガッツポーズ決めれば、ユーヤ君は自分のコトのよぉに嬉しそに笑う。


「良かった! 石神サン、余り興味無さそうに見えたから」

「そんなコトねぇよ。学生ノリに軽く怯んだだけ」

「そっか……

じゃぁ、石神サンと浅野先輩が2人になれるように、俺、悪知恵 働かせますから!」

「イイって。賑やかなの好きだから、オレ」

「任せてくださいよ! 本当、俺、そうゆう事は頭キレてますから!」


 悪知恵とか縁遠い気ぃしてならねぇけど、ユーヤ君は自信満々でトイレから駆け出す。

世話好きなンかな? ホント、良く動くわぁ。

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