第9話
「アラサーって括りに入ると、ノリが弱体化するのはオレだけ?」
「分かる分かる、私も」
「えぇ? あんまり変わらないと思いますケドぉ?」
「変わるのよ。ねぇ、石神サン」
「そぉそぉ。ハタチともなると郷愁すら感じるってオチ」
「アハハハ! 言えてる!」
「ってかぁ、石神亮太郎って、本気の名前ですか?」
「ホンキもホンキ。何で?」
「作曲家にいるよね、同姓同名!」
「あ! いるいる! ウチの卒業生!」
「!! ……そ、そぉ? 知らないなぁ~~」
あ~~ソレソレ、オレだよ、オレぇ。
一流音大卒業して、クソ曲作って その日暮してる作曲家でしょ?
完全にオレっすよぉ~~
誤魔化したいでいるオレがジャンジャン酒を煽ってれば、ハタチの女子がユーヤ君を指差す。
「由也君、石神亮太郎のファンなんですよ!」
「ぇ?」
随分ハッキリした空耳がしたけど、オレの耳ダイジョウブ?
パチクリ瞬き繰り返すオレに、ハタチの女子達は楽しげに話を続ける。
「えっとぉ、何だっけ?
車のCMだっけ? その人の曲が一瞬 使われてたみたいでぇ」
正直、生唾 飲んだ。
そう。一瞬だ。一瞬 使われた。
今から3年くらい前の話、大学の卒業制作に作った曲が奇跡的にも お偉いサンの耳に止まって、テレビCMに起用された。
当時 流行ってたスポーツカーの宣伝曲になったもんだから、毎日 聴かない日は無いってくらいオレの曲は流れまくって。
ソレでオレは『コレはいける!!』何て確信を持ったんだけど……
あの曲が最初で最後で、オレの全盛期だっつぅ話。
(まさか、ユーヤ君がオレの曲を……)
ソレ以降は鳴かず飛ばず何だよ。
ちびっとだけ売れた名前で、オレは今の仕事を繋いでるんだよね。
「まぁ、確かに あの曲は斬新で名曲だったよね。
由也クン、『マジ最高』って未だに言ってるくらいだし、
ああゆう人が私らのセンパイって、ちょっとカッコイイかも!」
「でも、もう放送されてないよ? 音源が発売されてないってのもねぇ。
車ってのが良かったんじゃない?」
「そうゆうのも大事でしょ。でも、たまに名前見るよ。アイドルの曲 書いてる」
「知ってる! うちの弟、そのアイドルのファンでさぁ、毎日 聴かされてんのぉ。
ドコがイイのか分かンないけどぉ」
「才能、使い切っちゃったんじゃん? あのCMで」
「で? コッチの石神亮太郎サンは お仕事なにしてるんですか?」
って、そこまでボロクソにディスった挙句に聞きますか、オレの仕事ぉ!!
「リーマンです。リーマン。激しく しがないカンジの」
(才能 使い切った作曲家だなんてさぁ、口が裂けても言えんだろ!!
つか、絶対 言わん! 墓場まで持って行く! オレはリーマンを死ぬまで貫き通す!!)
素知らぬフリしてブッ込んだウソは難なく通る。
そぉだろそぉだろ。ココにホンモノの石神亮太郎がいるたぁ思わんだろ。
ソレでイイ、ソレでぇ。
ちょっと不甲斐なさは残るけど、満足感で満たされてるからソレでイイ。
(ユーヤ君、オレのファンでいてくれてるんだ……ホントだったら嬉しいなぁ、)
だから余計にホントのコトは隠し果せなくちゃならねぇ。
ユーヤ君が未だに評価してくれる曲の作者が、こんなド金髪のチャラ男だと知られちゃならんから。
ユーヤ君は中では1番の癒し系女子と話し込んでる。今日は その子に決めたんかな。
相手の子も満更でもナイ様子だから、お持ち帰り出来そだね。
って、何処に? オレは黒目を上に上げる。
(まさかラブホ代を親父にタカるとかねぇよなぁ? ってコトはぁ、部屋ぁ?)
オレの目は泳ぐ。
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