スペースおちんちんウォーズ

木船田ヒロマル

ハッカ油ストライカー隊ハンガー

 艦内に鳴り響くちんちん警報に尻を叩かれるようにして、ヘルメットを抱えたパイロット達がそれぞれの愛機に駆けてゆく。


 ハンガーでは整然と並んだ宇宙戦闘機に既に担当整備員が群がり、電源車を繋いでエンジンに火を入れている。


『エマジェンシー、エマジェンシー。オールストライカー・ラゥンチ。オールストライカー・ラゥンチ。ディスイズノットアドリール。ディスイズノットアドリール』


「……そったれぇ、飯食う暇もないのかよっ!」


 合成タンパクのハンバーガーの破片を甘味付炭酸水、通称「ピスコーラ」で飲みくだしながらウィル・フタバヤ一等飛行曹長は悪態を吐いた。


「一飛曹、確認シールを」

「分かってる!」


 整備士に促され、整備済みを示す確認シールを機体の各所から剥がしてゆく。


 HYS-101c「パイプカッター」。


 地球外ちんちん体に対抗すべく開発された、対地球外ちんちん体に特化した戦闘性能を持つ地球外ちんちん体キラーの主力宇宙戦闘機である。

 

「オールクリア、コンファームド」

「オールクリア、コンファームド」


 「戦闘前に撤去」と書かれた黄色の整備確認シールが全て剥がされたことを、主任整備士と二者確認する。


「回します、急いで!」

「ありがとよっ、戦果を期待してくれ!」


 整備士がコクピットに登る簡易ラダーを立て掛け、体重を掛けて固定する。ウィルはそれを駆け上がり、操縦席に自分の身体を放り込む。


 キャノピーが下がり始め、電源車やラダーが撤去される。


 目の前を一足早く準備を終えた他のチームの機体が通り過ぎて行く。「早撃ち」のワイアット隊だ。


 システムを立ち上げ、火器管制に敵の情報諸元をマスタからダウンロードする。


『おはようございます。ウィル』

「おう、元気か相棒」

『直近の自己診断結果は良好なコンディションです』

「いいから早くしてくれ。クジラの腹ん中で戦えないのままお陀仏なんてゴメンだぜ」

『チェックシークエンスコンプリート。デッキコントロールの指示を待ってください』


 HYSシリーズに搭載された擬似人格アビオニクスインターフェイス「エイリス」はいささか生真面目が過ぎるものの、タイムラグを生じない自然なパイロットとの対話が可能だった。


「サンダーバード1、スタンディングバイ!」

『サンダーバード2、スタンディングバイ』

『こちら、サンダーバードリーダー。早かったなウィル、コーバー』

「出ましょう隊長! 他の奴らに手柄を取られちまう!」

『落ち着けサンダーバード1。サンダーバード3がまだだ。コントロールはメンバーが揃ったチームから優先して出す』

「んなぁーっもう、トンフゥの奴ぁ何やってやがんだ! 寝てんのか⁉︎」

『遅くなりましたっ、サンダーバード3、スタンディングバイ』

『イーグルネスト。こちらサンダーバード。オールサンダーバード、スタンディングバイ』

『サーダーバード。こちらイーグルネスト。了解した。ハーピーの次にタキシーウェイへ。幸運を』


 女性だけのチーム、ハミングハーピー隊に続いて、ウィルの隊は発進滑走路を進む。


『あら。遅かったのねウィル坊や。ぽんぽんがペインでトイレから出られなかったの?』

 ハーピー隊のパイロット、ルー・オール一飛曹からの軽口が飛ぶ。

「うるせーモップ頭。レーザーレンズでも拭いてろ」

『お先に。漏電バードさんたち。迷子にならないように付いて来てね』

「カタパルトに引っかかるなよ妖怪女。邪魔になったら吹っ飛ばして発進するからな」

『チャオ〜』

「マカロニ喉に詰めて窒息しやがれ」


 ハミングハーピー隊は見事な発進機動を見せ、互いの推力の影響を受けない最短距離のフォーメーションで離艦してゆく。


『待たせたな! ガイズ! ショータイムだぜぇっ! 次のダンサーはサンダーバーズ! 今月の撃墜スコアNO.1のチンポコキラーたちだ! さあ、ステージに上がりな!』


 独特なノリのデッキオフィサーの指示で、ようやくウィルたちの機はカタパルトデッキに進み、甲板員たちはその機首ランディングギアを電磁カタパルトに固定する。


『アーユーレディ、スパークウィングス。カウントダウンだ! 3……2……1……ロックンロール!!!』


 35tの機体を2秒で時速300キロに加速する強烈なGがウィルの身体を乱暴に叩く。


 カーボンとチタンで織り上げられ、電子とネットワークで統御される機械の猛禽は、フライトデッキを滑るように移動すると無数のおちんちんが蠢く暗黒の虚空へ、弾丸のように撃ち出されて行った。



***



 西暦2518年。

 突如地球に襲来した宇宙おちんちん集団は、たった四ヵ月で地球を蹂躙し、人類を滅亡の縁へと追い詰めた。

 国連宇宙軍の巨大宇宙空母「トリッテンハイマー・アルテルヒェン」は、1万人の民間人と2万人の軍事関係者を載せ、滅びゆく地球から脱出した。

 それから二十年。

 人類の新天地を求める旅は、追い縋る宇宙おちんちん生物群からの逃走の旅でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る