友が死んだとき、僕はスパゲッティーを食べていた。

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第1話


受話器から、女の人の声が聞こえる。

僕らの先生の声だ。

「葛西くん。

自分を責めちゃう気持ちはわかるけどさ。

アレは葛西君のせいじゃないよ。

いい加減学校に来て、顔見せてよ。

クラスの皆だって、葛西くんの事、待ってるよ。」


先生は、慰めと、最後に少しの嘘で、僕を励ましてくれた。


無言で電話を切る。

明日もかかってきたら面倒だなと思った。


友人が死んで、1週間がたっていた。



「お兄ちゃん!今日も家にいるの?」

まだ幼い妹が、ノックもせず部屋に入ってきた。

「うん。でも母さんには内緒だからね。」

「わかった!」


妹は、ふにゃりとした、

無邪気な笑顔を僕に向けた。子供の笑顔は、なんだか此方も元気づけられる力がある。

僕も微笑みかえした。


「お昼、何が食べたい?」


「うーんとね、うーんと…」

妹は、思いついたように居間から母さんの付箋だらけの料理本を持ってきた。


「これ食べたい!」

妹の指した指先のページには、オレンジ色があった。


ベッタリとした、オレンジ色。

絡まりあう麺が、ひとつの生き物みたいに白い皿に載っている。


僕は思い出す。

19時46分。

自室で僕はそれを食べていた。

コンビニのフォークで掬い、歯で噛み切り、咀嚼し、胃に収める光景。

それを繰り返す光景。


同時に堺の顔を思い出す。

 

そして喉がしゃっくりをしたみたいに疼く。

「………っ!」


その場にうずくまった。

「どおしたの?」

妹が僕に聞くが、答えられない。

無邪気な声だ。

しばらくその場にうずくまった。






僕は、スパゲッティーが食べれない。


あいつが、死んでから、

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