南花梨1-2
思った通り、日に日にひどくなっていく一方だった。
最初は愛華1人だったのに対して、いつの間にか3人に増えている。
やっている内容も机に落書き程度から暴力的なことも増えた。
見て見ぬふりをするクラスメイトに先生。
この間、私に言いに来た金沢は結局何も行動しないで今日まで来た。
なんだ、本当に善人ぶりたかっただけなのか。
もっと強気でいるかと思ったのに。
ちょっと期待して損した、なんて思いながらいつもと同じような光景にため息をついた。
「花梨、今日どっか寄ってかない?」
「今日はパス。やりたいことあるから」
「そっか、わかった」
愛華のやることに興味があるわけではない。
ましてや、岬に興味があるわけでもない。
ただ、少し疑問に思っていたことがあったからそれを解決したかった。
愛華達が廊下に出たのを確認したあと、机に書いてある落書きを消している岬に声をかけた。
「ねぇ」
「な、なに」
またどうして私をそんな目で見るのか。
いつ私が手を出した。
いつ私がいじめろなんて命令した。
腹立つ気持ちを抑えて、私は岬に言った。
「今日の放課後、3階の空き教室。1人で来て」
「え……」
絶望したような表情を浮かべる岬。
ざわめく教室。
呼び出すだけでこんなこと顔されるのか。
クラスのトップにいるのも楽ではないみたいだ。
私は岬の顔を見てため息をつき、離れた時。
ちょうどよく愛華達が戻ってきた。
私は何事もなかったように、溶け込む。
「ねぇ、花梨。次これやろうと思うんだけど、どう思う」
「愛華の好きなようにやりなよ、私は特に何も言わないし」
「やった、じゃ明日これやろうよ」
「いいねいいね」
盛り上がり始めた時、チャイムが鳴りバタバタと席に着いた。
授業中も先生が見ていないところでケシカスを投げたり紙を投げたり。
毎日飽きないのか、なんて思えてきてしまう。
きっといじめれば、私が喜んでくれるとでも思っているのだろう。
別にどうでもいいのに。
私はクラスのトップにいて、平穏に暮らせれば別になんでもいいんだから。
退屈な授業を終え、放課後。
私は呼び出した空き教室へと向かった。
既に岬の姿はあり、扉を開けただけで体を大きく揺らした。
「よ、呼び出しなんて……」
「別に殴りに来たわけじゃないけど」
「え……」
少し安心した表情を浮かべる岬。
殴られると思っていたのだろうか。
「それじゃ、どうして……」
「気になったんだけど、なんでなんも言い返さないの?」
「え……」
ただ単に疑問に思っていた。
きっと理由を聞いても理解なんてできないと思うけど、少しでもいいから知りたいと思った。
「だ、だって、言い返したらもっとひどくなるし……」
「ひどくなったら、もっとひどいことすればいいじゃん」
「それじゃ事態が悪化するだけだし……」
「悪化したら、何がダメなの?」
「え……」
「悪化したら、嫌でも先生達が出てくるでしょ。それで終了。
それじゃだめなの?」
ただ思ったことを口にする。
終われば全て解決するんじゃないのか。
傷つけたくない、なんてこの状況で思っているのだろうか。
「……わかんないよ、私の気持ちなんて。
花梨ちゃんみたいに人気者でいつでも周りに友達がいるような人に私の気持ちなんてわからないよ!」
涙を流しながら叫んだ岬は膝から崩れ落ちた。
人の気持ちなんてわかるわけない。
私だからじゃなくて、誰でも気持ちなんてわかるわけない。
それもわからないのだろうか、岬は。
「私だからわからないんじゃないでしょ。世の中、人の気持ちなんてだれもわからない」
「同じ立場に立てば、少しはわかるよ。それすらわからないのは、それだけ花梨ちゃんが誰かと同じ立場にいないからだよ」
こいつは何を言ってるだろうか。
確かに私と愛華の中でも、上下関係がついていると思う。
それは、誰が見てもわかる。
でも、今の言い方だと私だけが人の気持ちをわからないみたいじゃないか。
「私のこと、馬鹿にしてんの」
「そ、そんなつもりじゃ」
ムカついた私は、近くにあった椅子を蹴飛ばした。
瞬間、岬の息を呑む声が聞こえた。
「とても面白いこと教えてくれたお礼に私も教えてあげる」
「え……」
「今のこの状態、悪いのは私だと思ってるでしょ」
「そ、それは……」
「違うんだよ、世の中。
まず、私はいじめろなんて命令してない。
万が一してても、私は悪くならないの。
なんでだと思う?」
そう言うと、岬はわからないと言いたげな顔をした。
あぁ、やっぱりこいつはわかっていない。
「正解は、今のクラスで私が正義だから。
私がしたことは正当化されてるから。
それが今のクラスの現状なんだよ」
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