南花梨1-1

私は、トップだ。

いつでも誰かしら後ろをついてくる。

1人になることなんてない。

自分で言うのもなんだけど、カリスマ性というやつがあるんだと思う。


「花梨、おはよう」

「おはよう」

「あ、花梨ちゃんおはよう」

「おはよう」


教室に行けば、みんなして挨拶してくる。

4月上旬。

2年生に上がってから初めてのクラス。

新しいクラスになったからって、焦ることはない。友達を作ろうと必死に足掻くこともない。


「同じクラスだね、本当嬉しい」

「そうだね、今年もよろしく」

「こちらこそ」


同じクラスになった愛華は、嬉しそうに笑みを浮かべる。

去年は、金魚のフンのようにどこに行くのにもついてきた。

きっと、私と一緒にいることで自分の地位をあげたかったんだろう。

過ごしていてすぐにわかった。

まあ、だからどうかしようとかなんて考えていないけど。


そんなことを考えていると肩に強い衝撃。

体がよろけ、咄嗟に机に手を伸ばした。


「あ……。ご、ごめんなさい」


前を見ると、確か去年も同じクラスだった岬叶波。

イメージとしては、地味でどこにでもいそうって感じ。

私としては、こんなモブどうでもいい。


「ちょっと岬、花梨になにしてんの?」


だって、勝手にどうにかしてくれるから。


「ご、ごめんなさい」

「怪我でもしたら、どうするの?」

「ほ、本当にごめんなさい」

「……うざ」


必死に頭を下げる岬を見て大変だなー、なんて軽い気持ちでいた。

そんな風に地味にしてなければ、こんなことにならないのに。

もう少し明るくして、見た目に気をつければいいだけなのに。

そんな簡単なことをやれば、人に見下されることもないのに。


自分とは違う人の考えなんて全くもって理解不能だった。

所詮他人。

それ以上興味もない。


「愛華、行こう。始業式始まる」

「あ、待ってよ花梨」


怯えたようなその瞳に私は怒りを覚えた。

なんで私が怒ったわけでもないのに、そんな目で見られなきゃいけないんだ。

自分の不注意でぶつかってきたくせに。


「あいつ、ムカつく」

「じゃ、ちょっと懲らしめちゃおっか」

「やりたかったら、ご自由に」

「はーい」


ギラギラと輝いていた愛華の目でこれからどうなるか、なんとなく想像がついた。


かったるい始業式とLHRを終え、放課後になったときだった。

ガシャーンと大きな音が響いた。

散乱してる文房具、倒れている机。

怯えたような目で愛華を見る岬とそれを見下す愛華。


「お前、うざいんだけど」

「え……」


周りもザワザワし始めるけど、誰も止めることはなかった。

愛華のバックに私がついていることがわかっているから。

私に目をつけられると同じ目に合うってわかってるから。

クラスのトップに私がいるってことは、この状況を見るだけで明らかだった。


「さ、さっきのことならもう謝ったよ……」

「そういうのじゃなくて、お前の存在自体うざいんだよ」

「なんで……」


そう言うと、また私を見る岬。

きっと私が命令したとでも思っているんだろう。

そんなことするわけないのに。

こんなくだらないこと、全くもって興味ないんだから。


手を上げている愛華を横目に私は荷物を持って、教室を出た。


「ま、待って」


愛華かと思ったら、違う。

誰だっけ、この人。

去年同じクラスではない。

なんとなく顔に見覚えはあるけど、名前は知らない。


「誰?」

「わ、私は金沢真澄」

「金沢さんね、私になんの用?」

「あなたが言ったんでしょ、あれ」

「なんのこと?」

「とぼけないでよ。今の状態、あなたが言ったんでしょ」

「は?」


私はいじめろなんて一言も言っていない。

なのに、なんでこんなことまで言われないといけないのか。


「私、そんなこと一言も言っていないけど」

「でも、あなたなら止められるでしょ」

「なんで自分でやろうとしないの。自分が同じ目にあいたくないだけじゃん」


そう言うと、図星だったのか。

何も言い返すこともなく、黙り込んだ。

どこにでもいるよね、こういうタイプ。


「私、あんたみたいに正義ぶってるくせに自分で行動しないタイプ本当嫌いなんだよね」


それだけ言って、私は金沢に背を向けて歩き出した。


今頃、教室ではどうなっているだろうか。

きっともっとひどいことになっていくんだろう。


「まあ、そんなことどうでもいいんだけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る