第68話 父の夢

 父の残したガラクタを前に途方に暮れていた。

 やることが無いから、店だと言い張るゴミ屋敷、それを片づけもしないで死んだ…


 死んでくれたことには、思う所は何も無いようだ。

 ただ、この残されたゴミの処分に、また多額の金が必要だという現実を苦慮しているようであった。


 誰かが訪ねて来た、家の周りはなぜか畑に変わっており、その、のどかな風景に、このゴミ屋敷は明らかに異彩を放っている。

 季節は夏、数本のヒマワリが咲き、日差しが視界をグニャリと歪める、そんな昼間。


 何事か見知らぬ男と話している私の視界に、汚れたツナギを着た老人がコチラに向かって歩いてくる。

(父…なぜ?)


 私は見られてはマズイと思い、父親に元へ走った。

「なんで生きている? 死んだはずだろ?」

「俺は死んだ…でも、なぜかココにいる」

「生きて居られては困るんだよ」

「解っている、今、警官にも呼び止められた…詐欺の疑いがあるとか…」

「そうだよ…死んだんだから…」


 なぜ、この男は、僕を困らせることしか出来ないのか…

 働きもしない

 借金しか作れない

 死んだ後も、このゴミ屋敷の始末を…

 そのうえ、生きているなんて…


 僕は、畑の真ん中でボーッと空を眺めている年老いた父親の前で途方に暮れていた。


 暑く…とても暑く、ヒマワリが気持ち悪く揺れた、そんな夏の夢だった……


 徹夜のバイトが終わり、そんな夢から目覚めてまたバイトの面接に行くために出かける。

 私の前で父親はガラクタを弄っているのである。


 きっと私にとって、この男は死んでも私に付き纏う…車を運転しながら、なぜか涙が零れた。

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