第57話 どちら様
坂道を降りていた。
小雨が降る夕方のことだった…
左手には川が流れ、正面には橋が掛かっている。
橋の中央にベージュの傘を差した『彼女』が歩いている。
僕が坂道を下り切ると、『彼女』は坂を上っている。
すれ違ったはずなのだが、解らなかった。
傘を差さない僕は、『彼女』の後を追い、降りた坂を、また昇りだす。
追いつくと、彼女の傘は、半分ほど捲れ上がり、彼女の背中は濡れていた。
「傘、ちゃんと差さないと濡れるよ」
声を掛けると『彼女』は振り返り僕を見る。
「どちら様ですか?」
無言のまま、そんな顔で僕を見る『彼女』
そんな夢を見た…
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