第3話 いつきちゃんの耳

いつきちゃんがうちに来てまもないときはね

そのときのいつきちゃんはね

まだ借りてきたネコみたいにドキドキドキドキ

うちに慣れてないみたいだったんだ

いつきちゃんのために何か

喜んでくれるようなことをしたいなって

強く強く思ったの

いつきちゃんクッキー食べられないけど

美味しそうな香りはきっと分かるって

手作りのクッキーを焼いてあげよう!

思いたったらすぐ実行!

バターと卵をまぜまぜまぜ

粉糖とバターで美味しくなあれ

薄力粉だって忘れないよ

あたし一人で作ったことはないけど

お母様と一緒に作ったことはあるもん!

もう遠い昔の記憶だけれど

秘伝のレシピでいつきちゃんだって夢中になるね

耳たぶくらいのやわらかさにまとめます

ここで大きな問題発生!

耳たぶくらいのやわらかさって何?

あたしの耳たぶすごく硬いから

カチカチバリバリおせんべいになっちゃう!

どうしようって迷ってるとね

ソファーにいつきちゃんの背中が見えたの

うなじ綺麗だなぁ

じゃなくて!

いつきちゃんの耳

福耳でね

なめらかに愛情込めてかきまぜてた

お母様が作ったクッキー生地みたいだったの

耳たぶくらいの柔らかさ

分からないんだからしょうがないよね

いつきちゃんの隣に

座って

あたしの右手を

いつきちゃんの左耳に

伸ばす

伸ばそう

とするんだけど

手が震えちゃって

引っ込めて

ドキドキドキドキ

でも触らなきゃいけないんだから!

あたしに言い聞かせて言い聞かせて

やっとね

いつきちゃんの耳たぶを

むに

ってしたの

むにむに

って

でも何でむにむにしてるかもう忘れてるの

むにむにむに

って

ハッと我に帰ったときにはね

ドキドキドキドキ

そのときのあたしはね

いつきちゃんと一緒にドキドキしてたんだよ

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