Libray Love

御船アイ

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私、山中陽子やまなかようこは恋をした。


 それも、普通の恋なんかとはわけが違う。私はいままで、そんな恋は物語の中だけの、絵空事、妄想の産物だと思っていた。でも、それは間違いだった。現に私は今こうして、その絵空事でしか描かれていなかった世界の中にいる。空想の産物の主人公と化している。多くの人たちが渇望してやまない、非日常の扉を、私は開いてしまった。文学的な表現で表すならば『禁断の恋』とでも言うのだろうか。

 とは言っても、私の恋の相手は、異世界からやってきた白馬の王子様であったり、眉目秀麗な吸血鬼だったりという訳ではない。れっきとした普通の人間である。まあ後者に関して言えば、救世主のイエス様に怒られるという点で言えば同じかもしれないが。

 私の想い人は、目の前にいる。

 毛先に少し癖がかかった長い髪に、高校生らしからぬ、落ち着いた雰囲気を備えた顔立ち。私の黒いセーラーとは違う、紺色のブレザー。

 私の目の前で、ベッドの上にだらしなく体を横たわらせた、彼女――海原美月うなばらみづきは静かに寝息を立てている。


 私、山中陽子は恋をした。

 私と同じ、女性相手に。


 初めて美月と出会ったのは、もうニ年も前になる。

 高校一年の六月、私はゆったりと本を読める場所を探していた。学校の図書室も悪くはないのだが、学校の施設という性質上閉まってしまう時間は早いし、運動部の掛け声や吹奏楽部の練習など、殆ど遮られているとはいえ届かないわけではない。どちらも我慢すればいいことなのだが、私にとって本を切りの良いところまで読み切れないのは苦痛であり、集中しているときに日常めいた音が耳に入るのは耐え難い。つまるところ、私は人並み以上に神経質な部分があるのだ。

 そんな私が落ち着いて本を読める場所を探し求めた末にたどり着いたのが、町の中心からは少し離れた場所にある、その図書館だった。建てられたのが大分昔になるのか、老朽化が進んでおり、古い本ばかりで新しい本は少なく、かといってこれといって特筆すべき蔵書もない。よって、人影もそこまで多いわけではない。私にとって時代の波から取り残されたその図書館は、うってつけの場所だった。

 私は、念には念をと、より図書館の奥へ奥へと入っていった。入り口の近くでは人の出入りで気が散るかもしれないからだ。落ち着きのある老人ならまだしも、わんぱくな子供がきたときは少々癇に障るものがあるのを、私は何度も経験している。

 奥になるほど薄暗く、埃っぽくなっていった。ところどころ、修繕すべきような傷や老朽化が目立つ。まるで廃墟を探索しているかのようだった。利用者どころか、職員すら殆ど立ち入ってないのが如実に現れている。

 そんな古びた図書館の最奥で、私は彼女を見つけた。ボロボロになっている椅子に腰掛けて、質素な机の上にノートと教科書を並べている。

 綺麗な人だな。

 それが美月に抱いた第一印象だった。

 私は彼女とは一席分離れた、斜め向かいの席に座った。机の大きさからして、その位置が一番彼女から離れていたからだ。それから私は、外が暗くなるまで本を読みふけった。私か本を読み続ける間、美月もずっとシャープペンシルを動かし続けていた。いくら私が神経質だからといって、一人が黙々と勉強している音すら我慢できないほど短気ではない。ただ、ときおり彼女の視線を感じることがあったが、近くに人がいたら気になるのは当然だろうと割りきった。そこが最も静かであったため、そんなことでまた場所探しをするのも馬鹿らしいし。

 私はそれから毎日のようにその図書館の最奥へと通った。美月もまた、いつも私よりも先に図書館にいた。そこが定位置なのか、いつも最奥の机の角にある椅子に座っている。私もまた、彼女から最も離れた席へと腰掛けた。示し合わせたわけでもないのに、いつも顔を合わせ、同じ席に座る。何も知らない他人から見たら、どうみても“仲の良い親友同士”と思われていただろう。しかし、当時の私達はお互いの名前すら知らなかった。


「あ……あの、すいません」

 私が図書館へと通い始めてから二ヶ月ほどたった、蒸し暑い八月。当然冷房などきいているわけもない図書館の中、私は突然、彼女に声を掛けられた。

「え? は、はい。なんでしょうか」

 私は少々間抜けな感じで答えてしまう。

「その……あなたが読んでいる本って、ロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』ですよね……?」

 彼女はとても申し訳なさそうな顔で、私に尋ねた。そんな顔をされては、こちらの方が申し訳ない気持ちになってしまう。

「ええ、そうですけど…」

「それで、この前読んでいたのがアイザック・アシモフの『ファウンデーション』……。もしかして、SF、好きなんですか?」

「まぁ、どのジャンルが好きかと言われるとそうなりますが……」

「やっぱり!」

初めて会ったときに受けた印象とは打って変わって、可愛らしい笑みを浮かべて彼女は答えた。その声が少しばかり大きかったため私は口元に人指し指を立て「シッー!」と言って注意をする。

「あ、ごめんなさい……。でも私、同じジャンルが好きな人初めてで」

「ということは、あなたも?」

「はい、一番のお気入りはアーサー・C・クラークの『二〇〇一年宇宙の旅』です。HALとのやりとりとか、スターゲイトを見つけてからの展開とかがもう大好きで……! あ、ごめんなさいまた興奮しちゃって……」

 そう言いながら彼女は頬を赤らめながら申し訳なさそうに髪の毛をかきあげた。その仕草は、先ほどまでの熱の入りぶりからは想像できない、お淑やかさがあった。

「大丈夫ですよ、私もその気持ち、よく分かりますから」

 実を言うと、私も内心興奮していた。私も同好の士をこんなところで見つけるとは思わなかったからだ。私は性格上、友人は多い方ではないし、数少ない友人たちも、創作物の嗜好は私とは方向性が違っている。だからこそ、彼女の感情の高ぶりも我が身のように理解できた。

「ありがとうございます……。あ、私星川高校一年生の海原美月と申します。もしよろしければ、今後もこんなふうに声を掛けさせてもらってよろしいでしょうか?」

「はい、お構いなく。私は青花学園一年の山中陽子です。こちらこそよろしく」

 そう言って私は美月に手を差し出した。美月は、恐る恐るといった感じで私の手を握る。

 こうして、私達の“奇妙な関係”は“少し変わった友人関係”へと変わった。


 それからは、私と美月は毎日のように言葉を交わした。その中で、私達の関係はどんどんと親密なものへと変わっていった。まず初めに、会話から敬語が消えた。話す内容も、初めは本の話題ばかりだったのが、それぞれの学校の話、プライベートの話と日増しに豊かになっていった。互いにどんな人間なのかも、だんだんとわかっていった。

 まず初めに、美月はその端麗な外見な外見とは裏腹にのんびりとした性格で、やや天然気味だということを知った。美月と話しているとたまに間の抜けた発言が飛んでくることがあり、その都度苦労させられる。しかし、そういったところも含めて美月との会話は楽しかった。

 次に、美月は意外にも勉強に苦手意識をもっているということを知った。連日私より早く図書館に来てノートを広げていたので、てっきり好きなものとばかり思っていた。苦手だからこそ、毎日図書館に来て勉強しているらしい。それを聞いた時、私は素直に彼女を尊敬した。苦手だからこそ努力するというのは、当たり前のことに見えて存外難しいのだ。私なんて、苦手な体育の授業は適当な理由をつけてよく見学するというのに。

 そんな美月の力になろうと、私は時折彼女の勉強を見てあげることにした。幸い私の通っている学校のほうが進学へ力を入れているということもあり、教師役を務めるのに力不足ということにはならなかった。素直に私の言うことに耳を傾けてくれる美月の態度はとても真面目で、こちらとしても教えがいがあるというものだった。

 出会ってから一年が過ぎたころには、休日に共に遊びにいくほどになっていた。二人で古本屋巡りをしたり、話題のスイーツを一緒に食べに行ったり、同じSF映画を何回も見に行ってそのたびに考察話に花を咲かせたりなんかもした。互いの家に遊びに行って、そのまま宿泊する、なんてことも一度や二度ではなかった。……そのたび徹夜でゲームをしてしまうのはあまり健康的とは言えない。でも私達が悪いわけじゃない。HALOが面白すぎるのがいけないんだ。

 待ち合わせの場所はいつでも、あの図書館だった。そこが私達にとって、一番自然な場所だったからだ。

 いつも同じ場所で待ち合い、会話を交わし、助け合う。私達はもう誰から見ても、誤解ではない“仲の良い親友同士”になっていた。


 そして今からおよそ半年前、冷たい風が吹きすさむ一月の下旬に、私は、自分の想いに気づいた。


 その日は、一月の中でもとりわけ寒い日だった。私と美月は、いつものように半ば遺跡のようになっている図書館の最奥で、議論に花を咲かせていた。

「だからね、ダーレスは宇宙的恐怖を全然理解していないのよ。他の作者たちも様々な形の作品を書いているけど、彼の作品はあまりにヒロイックすぎるのよ」

「うーん、でもダーレスの功績は評価するべきじゃない? 彼が良くも悪くも世界観を拡張して広めたことは確かだし」

「それはそうだけど……はくしょん!」

 私は大きくクシャミをしてしまった。

 なにせ冷房がないため夏にお手軽蒸し風呂体験をさせてくれたこの図書館である。当然暖房などあるはずもなく、さらに老朽化のため、あちこちからすきま風が入ってくる始末だ。風邪をひくなというのが無理な話である。

「まぁ、風邪?」

「うん……てか、美月は平気なの?」

「まあね。私、この下にも結構着てるのよ」

 ああ、だからこんなにピンピンしているのか。私はティッシュで鼻をかみながら納得する。てっきりなんとかは風邪をひかない、の類かと思っていたが。

「なるほど……私ももっと厚着しておけばよかったわ、ここまで寒くなるとは思ってなかったもの」

 そう言いながら私は体を摩る。まるで地表全てが凍土で覆われた惑星に不時着してしまった気分だ。……そう考えると興奮して少しはマシな気分になってきた。我ながら単純である。

「寒そうねぇ……あ、じゃあこういうのはどうかしら?」

「え?」

 すると美月はいきなり、私の正面から抱きついてきた。あまりにも突然のことで反応できない。

 何枚もの衣服を隔てながらも、美月の柔らかい体の感触が伝わってくる。こそばゆい息遣いが耳元で聞こえてくる。

 私は、みるみる体の温度が上昇していくのを感じた。確かに彼女の抱擁は暖かい。だけど、それだけじゃない。

 心臓が早鐘を打つ。

 血流が勢い良く体全身を駆け巡る。

 肺が必要以上に呼吸を求める。

私はなんだか怖くなって、彼女の抱擁から必死で逃れた。その私の突然の行動に、美月はきょとんとした表情を浮かべている。

「あっ……これは、その……風邪、移すと悪いから……」

 私はとっさに、そのように言い訳をした。そうすると美月は納得してくれたらしく、再び他愛もない雑談へと戻った。

 いや、戻ってなんかいない。美月は普段通りのはずなのに、私はまともに彼女の顔を見ることができなかった。

 体がものすごく暑い。さっきまで凍土に覆われていたはずの星が、突如マグマが宙を舞う灼熱地獄へと変わってしまった。なんだこれは。惑星に残されていた古代異星人の遺跡が突如活動でも開始したのだろうか。それともエイリアンの侵略兵器か何かか?

 体の熱と感情の高ぶりは美月と離れて家に帰っても収まることはなかった。夕食の最中でも、お風呂でも、ベッドの中でも美月が頭から離れなかった。今までこんなことあっただろうか? 確かにここ最近、美月のことを意識することが増えたような気はする。しかし、ここまで露骨に、これだけの時間意識したことはなかったはずだ。

 私は沸騰しそうになりながらもこの自分の状況について理解しようとした。これまで自分が読んできた小説に似たような症状はないか一生懸命に思い返した。

 そうした私の悶々とした探求の答えは、日付が変わってから二時間ほどたったとき、ついに答えにたどりついた。


 ああ、これは恋なんだな、と。


 それからの半年間、私にとってはまるで天国とも地獄とも言えるような期間だったと言えよう。私にとって美月と共に過ごす時間の意味合いが大きく変わったのだ。

 今までは普通に接してこられたのが、彼女への恋心を意識し始めるとどう接すればいいのか悩んだ。これまで通り接しようとしても、どうにも緊張してうまく話せなかった。美月に怪しまれるかかもしれない――というか、誰からみても十二分に怪しい態度だったのだが、美月は風邪のせいで調子が悪いのだと思ってくれたらしい。ありがとう風邪、お前に学校行事をサボるとき以外に感謝することになるとは思わなかったよ。ありがとう美月、天然でいてくれて。

 次第に慣れてきた私はこれまで以上に彼女との時間を楽しめるようになっていた。意中の相手とずっといられるのだ。それが楽しくないわけなんてない。

 そしてそれと同時に、私はそんな想いをどうするべきか悩んでいた。美月はかけがえのない親友だし、同性だ。そう簡単に、想いを告げることなんてできない。だから私は、ずっと我慢し続けることにした。それが今の私達にとって、最良であると思ったから。

 でも、我慢し続ければし続けるほど、彼女と共に過ごせば過ごすほど、私がこの胸に秘めた恋心は、大きくなっていくばかりで――。


 そうして半年の月日が流れた今日、私の心はこれまでになく大きく揺さぶられることとなった。

 美月が私の目の前で、眠りについている。ここは美月の家で、彼女はベッドの上。

 今日は前々から二人で計画していたお泊り会の日だった。着替えなどは前に彼女の家においていたので、私は学校を出るとまっすぐ美月の家に向かった。一旦家に帰ってもよかったのだが、雲行きが怪しかったのと、はやる気持ちを抑えられないという二つの原動力が私を急かした。

 美月の家につくと、鍵は掛けられたままだった。私は彼女から渡された合鍵を使って中に入り、大きな声で美月の名を呼んだ。しかし、反応は帰ってこない。もしやと思い美月の部屋にいくと、案の定、ベッドの上で制服のまま横たわっている彼女を見つけたというわけだ。

 おそらく、ちょっとした昼寝のつもりなのだろう。私が早く来過ぎたのだ。

 だらしない格好だけど、とても綺麗な寝顔。

 私は彼女を起こすことができずに、その姿を眺めていた。

 なんて美しいんだろう。なんて可愛いんだろう。彼女を見ている内に、どんどんと私の胸の中に、恋情が満ちてゆく。私の心がはちきれそうになる。

 私はいつの間にか、彼女のすぐそばまで迫っていた。覆いかぶさるように彼女の顔を覗きこむ。美月の顔を近く、より近くで見ようと顔を近づけていく。

 息がかかる。彼女の整った顔が、この目の中一杯に広がってゆく。

「美月……」

 そして私は、そのまま自分の唇を美月の唇とを、重ねあわせた。

 ほんの一瞬、生まれたての赤ん坊にさわるように優しく。伝えられない思いを込めて。

「……陽子?」

 ――途端に全てが凍りつく。

 私が唇を離した瞬間、彼女の声が聞こえた。彼女の瞼が、うっすらと開いていた。

「ねぇ、今のって……」

「あ……ああ……私……私……」

 私は、その場から脱兎のごとく駈け出した。


 起きてしまった。


 バレてしまった。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 私はとにかく走り続けた。どこでもいいから逃げ出してしまいたかった。いつの間にか雨が私の体に容赦無く襲いかかったが、そんなことはどうでもよかった。

とにかく、私は無我夢中で走り続けた。


 気がつくと、私は建物の中にいた。図書館だった。美月と初めて出会って、いつも二人でいた、その場所だった。

「うう……うわあああ……!」

 私は泣いた。静かに、激しく。


 ああ、私は馬鹿だ。大馬鹿ものだ。


 我慢してればよかったのに。押し込めていればよかったのに。


 そしたら、こんなことにならなかったのに。


 もうおしまいだ、何もかもおしまいだ。


「うぐ……ひぐ……」

 私は泣いた。ただただ泣いた。

 それしか、今の私にはできなかったから。


 どれぐらいの間泣きじゃくっていただろうか? 一時間以上泣いていたような気もするし、一〇分にも満たないような気がする。制服はたっぷり水を吸っていて乾く気配は全然ない。

 私はだらしなく垂らした鼻をすすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

 帰ろう、家に。

 来週彼女にあったら、謝ろう。そして、もう終わりにしよう。こんな私になんて、もう会いたくないだろうから。そう思って、私が振り返った、その時だった。


「はぁ……はぁ……陽子……」


 目の前に、美月がいた。

 辛そうに息を切らしながら、私よりもずっとずぶ濡れの姿で、そこに立っていた。


「陽子……やっと……みつ……けた……」

「どうして……どうして……?」

 私には何がなんだか分からなかった。どうして美月は私の目の前にいるんだろう? どうして、あんなに息を切らしているのだろう? どうして、あんなに濡れてしまっているのだろう?

「どうしてって……あなたを探したからに決まってるでしょう……!」

「でも私……美月にあんなことして……それで……」

 私のこと、絶対嫌いになったと思ったから。

「嫌いになんか、なるわけないよ」

 美月は、私の心中を察したように、そう言った。

「でも私……キスしたんだよ? それってつまり、美月のことが好きってことだよ? 友達とかの好きじゃなくて、恋愛対象として見てるってことなんだよ……?」

「うん……わかってる。そりゃ、最初は驚いたけどさ。でも……」

 美月は私にゆっくりと近づくと、優しく私を抱きしめた。

 とても優しくて、温かかった。

「でも私、陽子を嫌いになんてならない。むしろ、とっても嬉しいの……」

 美月はゆっくりと背中に回していた手を、私の肩において、私の目を見据える。

「私の胸の中がね……なんだか、とっても幸せな気持ちで一杯なの。こうして陽子と一緒にいるだけで、溢れてきちゃいそうなんだ……ねぇ陽子、私も陽子のこと、好きになって……いいかな?」

「美月……!」

 目頭が熱くなる。さっきまであんなに泣いていたというのに、私の瞳はまだ涙を流すことができるらしい。でもこの涙は、さっきまでの涙なんかとは、全然違う。

「いいよ……いいに決まってるよ……! 好きだよ……大好きだよ、美月……!」

「ありがとう、陽子……」

 そう言うと、美月はそっと私を机の上に押し倒した。

「あっ……」

「さっきはあんな感じになっちゃったから……今度は、しっかりしよう、ね?」

「……でも、人が来たら……」

「ここに今まで、人が来たことなんてあった?」

「……ない、ね」

 美月と私の手のひらが、自然と重なりあう。手と手とが重なりあうのに少し遅れて、私達の唇も重なりあった。

 唇を重なり合わせるだけでは終わらない。私達は、自然と、そうなることが決まっていたかのように、お互いの口の中に舌を入れ始めた。

 強く握り合う、手と手。互いの柔らかい唇の感触、混ざり合う、舌の感覚。

互いが互いを求め合う、そんな愛の伝え合い。

私達は今、初めて二人が出会った場所で、一つとなった。


 こうして私達は、“仲の良い親友同士”から、“ちょっと変わった恋人同士”になった。

 

 きっと私達にはこれから色んなことがあるだろう。楽しいこと。辛いこと。悲しいこと。

 

 でも、何があっても二人なら乗り越えられる。

 

 信じてるんじゃない。これは確信なんだ。

 

 私達二人は、決して離れ離れになんかならない。誰だって、例え神様だって、私達を裂くことなんてできないって。 

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