第22話 じゃんけん
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9月5日(水)午後12時22分
「次は早坂奈緒さんと万丈目凛花さん、前までお願いします」
とうとう私と奈緒の番が回ってきた。
ここまでで3ペアがチーム分けのじゃんけんを行った。3ペア中2ペアの勝者が泥棒を選択している。
やはり、みんな泥棒の方が生き残る確率が高いと考えているようだ。
警察チームの場合1人でも泥棒を取り逃がすと連帯責任で全員が脱落してしまう。そのためリスクが大きい。
「凛花」
奈緒と向かい合い、拳を前に突き出す。
緊張で突き出した拳が震える。じゃんけんなんて生まれてから今まで100回以上はしている。
グーとチョキとパー。
3種類の選択肢の中から1種類を頭の中で決め、掛け声の後に拳でその形を表す。同じ手だったらもう1度同じ流れを繰り返す。それを勝敗がつくまで永遠に行うのだ。
とはいっても、大体はあいこになっても2回か3回で決着がつく。
勝つ確率は50パーセント。2分の1だ。
まさか、じゃんけんでここまで緊張することになるとは。
「それではお願いします」
「凛花、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫だよ」
「えっ?」
「私は、パーを出すから凛花はチョキを出して」
奈緒がニッと笑うと例の掛け声が始まった。
『「最初はグー、じゃんけんぽん!」』
村人の何人かも私と奈緒と一緒に声を出して勝負の結果を見守る。
私が出したのはチョキ。奈緒が出したのは宣言通りパーだった。
「凛花さんの勝ちですね。では凛花さん、警察と泥棒のどちらにしますか?」
「私は」
チラッと奈緒の方に目を向ける。
奈緒は、私の視線に気が付くと先ほどと同じように笑顔を向けてきた。まるで凛花の好きな方にしていいよとでも言っているかのように。
「私は、泥棒チームにします」
「分かりました。凛花さんが泥棒チームに、奈緒さんが警察チームになります。それでは、次は万丈目浩二さんと万丈目真登香さん、前までお願いします」
私は席に戻り、隣に座った奈緒の袖を引いた。
「なんであんなことしたの?」
「だって凛花に勝って欲しかったからさ。凛花には好きな方を選んでもらいたかったの」
「なんで?」
「凛花には、いつも助けてもらってばっかりだからさ。ペアを組むときも、宝箱を探すときも。凛花がいなかったら私はもうここにはいなかったと思う。選別ゲームが始まる前も、ずっと凛花には助けられっぱなしだったから何かできないかなって考えてたんだよ」
いつになく真剣な表情で真面目に語る奈緒の姿を私はいつになっても忘れないと思う。
「そんな、私だって奈緒がいなかったらダメだったと思う」
心の底からそう思う。何度奈緒の明るい笑顔とテンションの高さに救われたことか。
「凛花、敵にはなるけどまだ死ぬわけじゃないし、なんて言ったらいいか分からないけど。頑張ろう」
奈緒らしい。どちらかが絶対に死ぬことになるというのに。それを分かっていて、頑張ろう、か。
「うん」
なぜだか分からないが、私は奈緒の手を握り締めていた。
「それでは、最後の我妻恭子さんと我妻大吾さんのペアはどちらも警察チームということで。以上でチーム分けを終了します」
織田がそう言い、テーブルに広げていた資料を集めた。
清と健三のペアがペナルティーで泥棒チームに入ったので、最後の恭子と大吾が警察チームになったようだ。
そのポジションが私と奈緒だったらと思うが、決められていたことなのでどうしようもない。
「ゲームは、泥棒チームが全員集会場を出てから10分後に始まります。誰が捕まったかなどといった情報は、2箇所の掲示板に張り出す他に村全体に聞こえるように放送を流します。場所によっては聞こえない場合もあると思うので、その場合は掲示板を見た方が確実かと思います。では、泥棒チームの方は出口で黒いバンダナを受け取って退出して下さい」
出口にいる清水が、黒いバンダナを頭の上に掲げた。
「じゃあね、奈緒」
「またね」
奈緒に別れを告げ、席を立ち、清水からバンダナを受け取った。
バンダナは、一目でどっちのチームに属しているかを表すためのものらしい。
体の目立つ場所に付けることと清水に言われたので、私はほどけないように左腕にきつく結んだ。
ちなみに警察チームは、赤色のバンダナらしい。
集会場を出てから泥棒に与えられた猶予は10分。
さて、まずはどこに行ったらいいのか。
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