第21話 ドロケイ

—1—


9月5日(水)午後12時01分


 もうすっかりお馴染みになった集会場。

 集会場の一室には、長机が綺麗に並べられていた。1つの机に2人分の椅子がセットで用意されている。


 席順は決まっているらしく、ペアを組んだ者と隣になる様に座って欲しいと織田から指示があった。

 私の隣は奈緒だ。


 予定の時間になり、緊張した空気が流れる。

 一体、次はどんなゲームをすることになるのか。


 その答えが織田の口から明かされる。

 資料を片手に持った織田が前に立ち、出席を取る教師のように人数を数えていく。


「はい、全員揃ってますね。それでは時間になりましたので、今回行うゲームについて説明したいと思います。と、その前に清水」


 織田に指名された部下の清水が前回、前々回と同じようにゲームの内容が書かれた紙を配り始めた。

 私と奈緒は、後ろの方に座っていたので1番最後に紙を受け取った。すぐにゲームの内容に目を通す。


【選別ゲーム3:ドロケイ。ルールは以下の通りである。ルールを破った者は即脱落となる】


『ドロケイ ルール』

1、月柳村の村民は警察チームと泥棒チーム、それぞれ8名になるように分かれる。

2、ゲームは9月5日(水)午後7時00分まで行われる。

3、泥棒の逃走範囲は月柳村内とする。

4、捕まった泥棒が入る牢屋は学校の体育館を使用する。

4、泥棒チームが全員捕まった場合はその時点でゲーム終了となる。

5、乗り物の使用は禁止する。


警察側のルール

1、逃亡している泥棒を捕まえる。(体の一部に触れれば捕まえたこととする)

2、捕まえた泥棒を牢屋まで連行する。

3、牢屋の防衛。

4、ゲーム終了までに泥棒を全員捕まえることが出来なければ警察側が全員脱落となる。


泥棒側のルール

1、警察から逃げる。

2、警察に捕まり、連行されている最中に抵抗して逃走することを禁止する。

3、捕らえられた泥棒を救出することが可能。逃走している者が捕らえられた者に触れることで逃走可能。(ただし、連行中の者を救出することは不可能とする)

4、ゲーム終了時点に捕らえられていた者を脱落とする。また、最後まで捕らえられていた人数だけ生き残った者にも罰を与える。



「鬼ごっこみたいな感じだね」

「う、うん」


 ルールを読み終えた奈緒が小さな声で話し掛けてきた。

 私も奈緒もドロケイをしたことがない。この村に子供は5人しかいないので大人数でやる遊びをしたことがないのだ。

 鬼ごっこですら小学生の時に何回かしたことがある程度だ。


 奈緒は再びドロケイのルールが書かれた紙に目を落としていた。いつもと比べて表情が暗い。奈緒も気が付いているようだ。

 今回のゲームで生き残ることができるのは、最高でもここにいる半分しかいないということに。


 泥棒チームか警察チームのどちらかが全滅してしまう。


 ルールを読んだ限りでは、警察チームの方が不利だと感じた。まず、逃走範囲が広い。

 月柳村内という制限こそついているが、居住エリアも結構な広さだし、山の中にあるフェンスで作られたバリケードの近くまで逃げることが出来る。牢屋とされている学校の周りもだ。


 ゲーム時間は午後7時までと長いけれど、これがゲームにどう作用するのかは、残念ながらドロケイをやったことがないので分からない。

 全てはチーム分けにかかっている。


「みなさん読み終えたようですね」


 全員顔を上げたタイミングで織田が話し始めた。


「ゲームを始める前に2名にペナルティーがあります」

「ペナルティー?」


 前の方に座っていた阿部太郎が首を傾げた。


「先日、私の部下に危害を加えた方がいます。岩渕清さん、今野健三さん。あなたたち2名をペナルティーとして泥棒チームにし、牢屋からのスタートとします」

「はっ? ふざけんなよ。聞いてねーよそんなの!」


 清が椅子を倒して勢いよく立ち上がり、織田に詰め寄ろうとする。

 しかし、織田が腰から拳銃を引き抜くと清が足を止めた。


「これは決定事項です。事前に説明しなかった私のミスでもありますが、部下が怪我を負わされて黙っていることは出来ません。原則的に私たちへ危害を加えるということは日本政府、国への反逆行為に値します」

「お前のミスなのになんでこっちがペナルティーを受けなきゃならないんだよ!」


 銃口を向けられているというのに、清は怯むことなく織田の言い分に納得ができないと言い放つ。

 すると、織田の目の色が変わった。


「何度も言わせるなうるせーな! 自分の立場が分かってるのか? 今すぐこの場で殺してもいいんだぞ! 分かったなら早く座れ!」


 あまりの迫力に清も声が出ないようだ。倒れた椅子を元に戻して腰を下ろした。

 

「失礼しました。みなさんもどうか変な気を起こさないようにお願いします。次からは容赦しませんので」


 織田が笑顔で物騒なことを言った。言葉と表情が合っていないから尚更怖い。


「えー、ルールについて何も質問が無いようでしたらチーム分けの方に移ろうと思うのですが」


 後ろの席に座っているので、全体が見渡せるが手を上げる人はいなかった。


「質問が無いようなので今からチーム分けを行います。今みなさんには、第1のゲームでペアを組んだ方と隣になる様に座って頂いています」


 私と奈緒が顔を合わせる。他の人も隣に座る人を見ていた。


「1ペアずつ前に出て来て頂いてじゃんけんをしてもらいます。勝った方に警察チームか泥棒チームのお好きな方を選ぶ権利を差し上げます」


 ということは、私と奈緒が敵になるってこと?

 どっちかが絶対に死ぬ。


「それでは前の方から順番にいきますね。阿部太郎さんと阿部麻紀さん、前に出て来て下さい」


 そんな……。よりにもよってなんで奈緒と。

 指先がどんどん冷たくなって、心臓も大きく早く音を鳴らしている。

 こんなことって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る