ふたりだけの旅路

勝利だギューちゃん

第1話

夢を見ていた・・・

長いような・・・一瞬だったような・・・


気が付くと、ベットの中にいた・・・

「気が付いた?」

女の子が、顔を覗き込んできた・・・


「君は・・・」

「私の事、覚えてない?」

「・・・うん・・・申し訳ないけど・・・」

「いいよ・・・仕方ないね・・・」

俺は、起き上がろうとしたが、体のあちこちが痛い・・・


「いいよ。休んでて」

女の子に優しくなだめられる。


体には、包帯がまかれていた・・・

この子が手当てをしてくれたのか・・・


「一応ご挨拶しておくね。

私は、ミル・クリスです」

「外国人さん・・・なの?」

「うん・・・どこかは今は言えないけどね」

「俺は・・・鳥川翔(とりかわしょう)」

「よろしくね。翔」

いきなり呼び捨てかい・・・って、この子の国じゃ当たり前なんだろうな・・・


「よろしく・・・ミル・・・」

なんだか、くすぐったい・・・


「ここはどこ・・・ミル」

「私の家よ・・・」

「ご家族は?」

さすがに、個人情報はまずかったか・・・


「いないよ。私ひとり・・・」

そっか・・・

もう、深く追求するのはよそう・・・


「翔、嫌いな食べ物はある?」

「いや、特にないな・・・」

「健康的だね。待っててね、すぐに作るから」

ミルはそういうと、部屋から出て行こうとした・・・

炊事場へ行くのか・・・


「いいよ・・・そこまで・・・」

「心配しないで、料理は私の趣味なんだから、作らせて」

「ああ」

そういう事なら、言葉に甘えよう・・・


ミルが部屋から出た後、周りを見た。

部屋はさほど広くない・・・

せいぜい6畳か・・・


俺が寝ているベットのほかには、何もない・・・

ベットにはテーブルがある。

介護ベッドのようだ・・・

壁に大き目の窓があるが、雨戸で閉じられている・・・


しばらくすると、ミルが食事を持って帰ってきた・・・

「翔、おまたせ」

ベットの上のテーブルに食品が並べられた。


「翔、遠慮しないで食べてね。いっぱいあるから」

匂いはとてもいい・・・ただ見た事がない・・・


「時にミルさん、これは何を作られたので・・・」

「食べてみて、わかるから・・・」

俺はその中の、ひとつを口にした・・・


美味い・・・とても、美味い・・・

そうだ、これはいつも食べている・・・

「ハンバーグ・・・」

「正解」

ミルは微笑む・・・


次を口にする・・・

「じゃがいも・・・」

「正解」

確かにそうだ・・・でも、色がまるで違う・・・


「翔」

「何?」

「ここがどこだか知りたい」

「うん」

ミルはそういうと、雨戸を開けた・・・

手動ではなく、自動で・・・


そこを見た瞬間に、俺は言葉を失った・・・


「宇宙」

俺は宇宙にいるのか・・・

でも、なんで・・・


「翔、何を聞いても驚かない」

「もう十分驚いた」

これ以上、何を聞いても驚かないだろう・・・


「実は、あなたの星、地球はもうないわ・・・」

「えっ」

「人類が自らの意思で滅ぼした」

さっきの食事は、宇宙食か・・・


「人類は、自らを滅ぼす策として、ロボットを作った。

そして、そのロボットは人類を・・・地球上のすべての動植物を滅ぼした」

ミルの言葉に、だんだんと思いだしてきた・・・


「しかし、中には反発するロボットもいた。

そして無作為に1人の人を選び、宇宙へと逃げだすことにしたの」

そうだ、俺のこの怪我は、ロボットに追わされた・・・

そして、力尽きた・・・


「私は、あなたを選んだ。あなたとなら、やっていける。そう信じた」

「なら君は・・・」

ミルは、頷く・・・


「そっか・・・」

「驚かないの?」

「もう十分驚いた」

「私、ロボットだよ。人間じゃないんだよ」

「アンドロイドと言ってくれ」

「子供作れないよ」

「いらない」

「どうして?」

ミルのその言葉に、俺は返答をした・・・


「君は、俺を選んでくれた。俺を助けてくれた。

それでいい」

ミルは、大声で泣き出した・・・


「ただ心配だ・・・」

「翔、何が?」

「俺はやがて死ぬ・・・そのあとの君が心配だ・・・」

ミルは笑顔で言った。


「その時は、スイッチを切って、ハニワとして、翔の棺に入るわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふたりだけの旅路 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る