ありよ、ありよ

若狭屋 真夏(九代目)

右手に宿りしもの

秋の長雨が続いていた。その日女子高生の高杉みずきは傘を忘れた。

「まったくもお。なんでカバンに傘が入ってないのよ」独り言を言ってカバンを頭に乗せ家まで走っていった。

自宅近くの神社まで行くと雨はますます降ってきた。仕方ないので神社での雨宿りを決めることにした。

みずきはハンカチで制服を拭いたがそれがまったく無駄なことにすぐ気が付いた。

「家までもうすぐだから。走れば大丈夫か」と思いカバンを頭に乗せるがその時

神社のお社の暗闇の中から何やら「ピカッ」とする光を一瞬感じた。

一瞬手で遮ろうとしたが再び見てみるがなにも光っているものがなかった。

「気のせいかな」と思い改めてカバンを頭に乗せ家に帰っていった。


「ただいま~」とみずきが自宅のドアをあける。

「おかえり」といったのは母葵だ。葵の手にはすでにタオルがあった。

みずきは母からタオルを受け取ると頭をごしごしと拭く。

「もう。あんた今朝のニュースで雨が降るって言ってたのに。」

「だって昨日は晴れるって言ってたのよ。」

「女心と秋の空っていって秋の天気はすぐ変わるの。とにかくお風呂入っちゃいなさい」

「はーい」といって脱衣室に向かう。

こうしてみずきはお風呂で冷え切った体を温めた。

風呂から上がってあたたかい服に着替え母が用意していたホットミルクをもって部屋に入った。

みずきはごく普通の女子高生だ。しいて言えばおっちょこちょいだが優しい。まあそんな女子高生は日本中に多くいるだろうが。。。

学校の課題を終えてベッドに横になると急に眠気が襲う。

そしてみずきは深い眠りに入った。



夢の中だろうか?ひどく気分が良い。暖かく心地いい。

どこからか「シャリ~ン」と鈴の音が聞こえる。

気づくとそこは深い森の中であった。

夢なのか?現実なのか?みずきにはわからない。

目の前には深い森がありその中から聞こえてくるようだ。

みずきの足は森に向かっていく。

森に入ると木々はみずきを招くように二つに分かれていく。


やがて鈴の音が近くに聞こえるようになる。

森の中心まで行くと強い光がみずきを包む。

みずきは目を閉じたがやがて光はゆっくりと弱くなっていった。


「ハッ」とみずきの前にいたのは「教科書にでてくる」公家の服装をした若い男性だった。


「よく来たな」若い男性はみずきに語り掛けた。

「だれ?」

男性はゆっくりと立ち上がる

「我が名は「安部の三位有世」なり。よく来たな。わが子孫よ」

「ありよ?」

「そう、我が名は安部の有世。そなたの先祖である」

「え?」

「驚くのも無理はあるまい。千年の時がかかったからな」

「千年?なにをいってるの?何のこと?ここはどこなの?」

「まあ、おちつけ。ここはお前の夢の中だ。」と有世はそっとみずきの肩に触れた。

心の中に波紋が立つような不思議な気持ち。

「わしは昔々陰陽師として内裏に仕えておったものだ。」

「おんみょうじ?」

「さよう。安倍晴明公の末裔だ。」

「しってる。小説のやつ?」

「まあ、お前の考えているものに間違えはあるまい」みずきの意識が読まれた

「わしが死んだあと安部家は土御門と姓を変えたが代々陰陽頭として朝廷の暦や天文をつかさどっていた。が当主の力は次第に弱まっていってしまった。それがためわしが封じてきた魑魅魍魎の封印が緩んできてしまってな。」

「ふーん」みずきは本当に夢の中だと思っている。

「それでお前を依り代とすることにした。」

「よ、よりしろ?」

「つまりわしはお前の右手に宿ることとした。」

「な、なに?勝手に決めないでよ」みずきは右手をさすった。

「大丈夫だ。お前は気づいていないが我が血を宿すものの中で一番力が強い。」

有世は微笑んだ。

「わしを呼びたくば「ありよ、ありよ」我が名を二度言い右手を天に上げろ。さすればお前の前に現れまがまがしきものを封じてやろう」

そう有世はいうと光の玉となってみずきの右手に入っていき大きく光っていく。


「みずき。みずき」と聞こえてくるのは母の声だ。

「あ、」とみずきは夢から覚めた。

「ハッ」とみずきは右手を見るが手のひらに星のようなしるしがある。

次の瞬間体の節々が痛くなった。

母は体温計をもっている。

「7度5分も熱があるじゃないの。本当にこの子ったら」

気づくと氷枕が頭の下にあった。

「みずき大丈夫か?」と父茂の声が部屋の前から聞こえた。

「あなたも早く寝たほうがいいわよ。まったく親子そろって傘を持たずに行くなんて。。」と母が怒っているのは深い愛情から生まれたものだ。

こういう愛情に包まれてみずきは育った。

「あともう一人いたわね」と母が見たのは弟で中学一年生の達樹(たつき)だ。

「もうお母さんは風邪ひきさんの面倒は三人も見れませんからね」といってキッチンからおかゆを運んできてくれた。

おかゆを食べた後再び睡魔が襲う。

「大丈夫だ。」と右手から声が聞こえる。

「え?」声はさっき夢であった有世だった

「お前は風邪ではない。わしがお前の右手に宿ったから熱が出た。明日にはなおっているだろう」

「夢じゃなかったの?」

「夢ではない」と右手から声が聞こえてきてから急に眠りが深くなった。


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ありよ、ありよ 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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