第25話 蛇と神


 私はティレットに憧れに近い物を感じている。

 女にしては少し高めの身長、胸は大きく、でも大きすぎない丁度いい大きさ、腹はきゅっと引っ込んでいて尻も大きすぎない程度の膨らみを持っている。

 当然全身スラっとしていて太ってはいないし痩せすぎという事もない。

 それに肩より下まで伸びた金色の髪は艶があって美しい。

 顔もただ美人というだけでなく格好いいとさえ思う。

 なんというか理想の大人の女性と言うのが相応しいのだ。自分の足で立っているという自信に溢れている。全て私にはないものだ。

 だが嫌いな所が三つある。酔って抱きついてくる事と神霊に対する畏怖のなさとティレットが使うA(仮)と言う魔法そのものだ。



 魔物退治の依頼を受け街道歩き目的地に辿り着いた私達は巨大な蛇と出会った。

「まるで長い電車みたいだな」

「そうだねぇ」

「エアリィの時代にも電車はあるのか?」

「ん?あー、うん。あるよ」

「なんだ?また何かあるのか?」

「ないない。多分ね」

 エアリィとセイジは同じ世界から来ている。

 だがそれぞれ生きていた時代が違う。私はそう聞いていてセイジからは「エアリィが未来のことを詳しく話してくれない」と、エアリィからは「清治が妙に未来の事を知りたがるけど、そんなに気になるもんかね」と愚痴を聞かされた事がある。

「デンシャとはなんだ?」

「今目の前にあるような、長くて太い乗り物。色は黒じゃなかったけど」

「それからとても速く走る」

「だめだ。まるで分からない」

 私には二人の言うことが全く想像できなかった。

「さて、どうしますかねぇ」

 その大蛇は街道の真ん中でトグロを撒いていた。どうやら眠っているらしく微動だにしなかった。

「つまりコレが道を塞いでいて通れないのね。なら別の道を通るわけにいかないの?」

「ここ以外の道はとても物を運搬出来そうにはありませんね。人が歩くだけなら問題なさそうですが」

「洋子さん何か良い考えない?」

「単に蛇というだけなら燻せばとは思いますがこんなに大きいとそういうわけには行かないようですね」

「難しく考える事はないわ。私が吹っ飛ばすから」

「いや、いくらティレットでも難しいんじゃないか?」

「うん。結構硬いよ?」

 エアリィはその蛇の鱗を触っている。

「大丈夫よ。コレくらい」

 私はティレットの言い様に腹を立てていた。

「おい、コレとはなんだ。お前にはこの神性の高さが分からないのか?」

 私はその蛇を見た瞬間から神性が高い存在だと感じていた。途轍もないマナの塊。それは精霊様以上の物だった。

「神性?何よそれは」

「この蛇が神に近い存在だということだ」

「神?そんなものいないわよ」


 ティレットの力に対する違和感がここに来てハッキリと分かった。

 そう、それは人の驕りと自惚れの塊なのだ。


「神霊に対する畏怖は感じないのか?」

「そもそも居もしない物に対する畏怖なんて感じるわけないでしょ。ほら、退きなさいよ。さっさと片付けて帰りましょう」

 私はもう我慢が出来なかった。

「この偉大な存在に手をあげようと言うのか!」

「そうよ。跡形もなく消し飛ばす。それだけよ」

 ティレットが火球を作り大蛇に放つ。

 私は大蛇の前に立ち塞がりその火球を明後日の方向に弾き飛ばした。遠くで爆発する音がする。怒っているのは私だけではなかった。普段温和な精霊様達もティレットの蛮行に怒り狂っていた。


「分かった。だったら私を倒してからにしろ‼」

 私はティレットにそう言い放った。


 ティレットは一瞬俯いてから口を開いた。

「良いわ。あなたがそう言うならそうしてあげる‼」


 再びティレットは火球を作り投げ付けてきた。

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