第一章 トイレのない世界で
第2話 STEP1.穴を掘る
地面に穴を掘るというのは結構大変な物である。
土は思った以上に固く最初こそ鍬を使っていたがあまりにも掘り進められないので途中からツルハシに持ち替えた。ツルハシで土を砕いて鍬やスコップで掻き出したほうが遥かに早かった。
「セイジ。何か手伝える事はないか?」
地面と格闘する僕に声を掛けて来た少女の名はイーレという。
「いや、特にないな」
「そうか。何かあったら遠慮なく言ってくれよ。協力は惜しまないからな」
イーレはその短い銀髪を揺らしながら笑顔で答える。と、その後ろに人影が近付いている。イーレは気付いていない。
「…イーレちゃん見っけ!」
「なっ⁉」
「んふふふふっ」
イーレは背後から現れた少女に抱きしめられる。
「おい!離せ黒魔術師!また昼間から酔っ払っているな!」
「えへへへへ」
イーレに抱きついている酔っ払った金髪の少女はティレットという。
「イーレちゃん、しゅきぃ!」
語尾にハートマークでも付いてそうな事を言いながらティレットはイーレに頬ずりをしている。
「おい、バカ止めろ気色悪い!」
「えええ、いーじゃん」
まるで飼い主が溺愛する愛犬をわしゃわしゃするような様子でティレットはイーレを抱きしめている。とてもつい数日前に世界を滅ぼしかねない程の殺し合いをした二人には見えない。
「相変わらず賑やかだねぇ」
「あまり騒がしくなさいませんように。エアリィ様の仕事に差し支えが出ます。」
メイドを伴って現れた黒髪でメガネを掛け胸元には男ならつい目が行ってしまう程の立派な物を携えた少女の名はエアリィと言う。
「なら、この馬鹿をなんとかしてくれ!」
酔ったティレットはまだイーレに頬ずりをしている。余程抱き心地が良いのかティレットは実に幸せそうである。
「洋子さん、お願い」
「かしこまりました。」
メイドの名は洋子と言う。エアリィが付けたそうだ。
「ティレットさん。そこまでですよ」
ティレットは結構な力でイーレに抱きついていたはずだが洋子さんは簡単にイーレからティレットを引き剥がす。ティレットはきょとんとした顔をしている。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
受難が去りイーレは安堵しその場にへたり込んでいる。
「んふふふふふっ」
イーレから無理矢理引き剥がされて泣き出しでもするかと思ったら笑い出すティレット。女心と酔っ払いの心理は分からない。
「清治、作業の方はどうだい?」
エアリィは僕の掘っている穴を覗き込みながら訊ねてくる。
「まだまだ先は長いな」
穴は縦五メートル、幅は三メートルの楕円形で掘る場所の目安となるよう掘り起こしておいたが深さはまだ三十センチメートル程しか掘れていない。目標の深さは四メートルだ。
「まぁ始めたばかりだしね。諦めずに頑張ってくれたまえ、川谷清治君!君は私達の希望なんだから」
「ああ、任せとけ」
エアリィの期待を胸に僕は再びツルハシを握る手に力を込める。時刻は午後三時。夕暮れまでにはもう少し掘り進めておきたい。僕はツルハシを振りかぶり地面に打ち付けた。
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