再会編7話 トーナメント前夜



シズルさんの謀略で、オレはトーナメントで不様が許される身ではなくなった。


なんとしても初戦敗退だけは避けなくちゃな。オレの相手は誰なんだ?


日が暮れる頃に執務を終えて、みんなと一緒に夕食を摂り、自室に戻ったオレは布団に仰向けに寝っ転がって最強中隊長決定トーナメントの組み合わせ表を手に取って見てみる。


第1戦の相手は……00番隊の「金髪自走砲」かよ!


マリーさんはガチ勢だ。サクヤと同じでこの手のイベントには熱くなるタイプ。こりゃ本気で勝ちに来るぞ。


ま、アスラの中隊長に雑魚はいないんだ。誰とあたっても強敵に変わりはない。


本気でやると決めた以上、狙うは優勝だ。マリーさんを倒した後に誰が上がってくるかの予想もしておくか。


トーナメント出場者は全部で16名、ワンデイトーナメント形式で開催されるから、事前の準備を行えるのは今夜だけだ。


まず確認するのはレギュレーション。訓練用の武器を使用するが、念真力、希少能力、内蔵武器マウントウェポンの使用は有り。内蔵武器の使用が有りってコトは出場者にサイボーグがいるな。


火器も使用可だが、実弾ではなく模擬弾を使用、ヒット数を審判が判断して判定する、か。使用不可と判定された部位を使用すれば反則負け、だが勝ち上がった場合は次戦での使用は許される、ね。火器使いには若干不利なルールだが実弾を使う訳にはいかない以上、やむを得ないだろう。


フィールドはかなり広いが、場外に落とされれば負け。ライン際では投げ技に要注意だ。


インターバルはない。審判が勝負ありと宣言するか、出場者がギブアップするまでの無制限一本勝負か。


さて、一回戦の組み合わせは、と……


第一試合、01番隊代表のオレ VS 00番隊代表「金髪自走砲」マリー・ロール・デメル少尉。


天下一武闘会みたいな会場で戦うんだから、マリーさんは狙撃銃ではなくガトリングガンを使ってくるだろう。その対策は後で考えよう。今は大会全体の予想が先だ。


第二試合、ヒンクリー師団代表「炎槍」ウォーレン・ランス少尉 VS 09番隊代表「炎壁」ダニエル・スチュアート少尉。


おっぱい革新党の同志で悪友のダニーに頑張って欲しいけど、負けず嫌いのヒンクリー少将が送り込んできたランス少尉も相当な腕だろう。この炎槍と炎壁の対決は正直、どっちが勝つのか読めない。試合を見ながら勝ち上がった方の対策を考えるしかないな。


第三試合、新設されたスイーパーチーム代表「便利屋」ロバート・ウォルスコット少尉 VS ミコト姫親衛隊代表「円剣」竜胆ツバキ。


心情的にはロブに勝って欲しいけど、難しいだろう。ツバキさんはコトネが対戦成績では分が悪いとボヤく程の円流の手練れ。地形も利用出来ず、間抜け罠ブービートラップも設置出来ないコロシアムのガチ勝負じゃツバキさんが有利だ。


第四試合、シノノメ師団代表「女戦闘機械レディ・サイボーグ」トリクシー・ケイヒル少尉 VS 04番隊代表「絞殺魔ストラングラー」パイソン・キング少尉。


これはパイソンさんの勝ちだろうなあ。ケイヒル少尉も強いんだろうけど、戦闘能力にステータスを全振りしてんのが4番隊だ。オープンハンドで放つ閃光のジャブで相手を捕まえ、締め上げるパイソンさんの必殺パターンを躱しきれるとは思えない。


反対ブロックの五、六、七、八試合は全部の予想を立てる必要はないが、一応考察はしておくか。誰が決勝に上がってくるかの予想だけでもいいんだが、それもどうなるやらわかったもんじゃない。実力者同士の戦いだけに、予測を立ててもその通りに運ぶとは思えないからな。


凜誠代表のサクヤはこっちのブロックか。アホの子だけど戦闘センスは一級品だ。目立ちたがりでええ格好しいのサクヤはこういう大会ではテンションマックス、決勝に上がってくる可能性は十分ある。


対抗馬は大師匠の高弟で10番隊代表のセイウンさんかな? 凜誠副長のアブミさんとガチで渡り合うド安定の実力派だけに、気分屋でローテンションだとポカミスがあるサクヤと違って取りこぼしはしないだろう。サクヤのテンション次第ではセイウンさんが同門対決を制する。


……ん? なんだこりゃ? 16番目の出場者、「謎のマスクマン」ミスターXだと?


名前も何番隊かも不明かよ、ざっけんな!……おおかた司令のお遊びなんだろうが、面倒なコトをしてくれるぜ。


中隊長の誰かなんだろうけど、イヤな予感がする。バイパーさんとかじゃないだろうな?


ま、ミスターXは幸いなコトに反対ブロックだ。試合を見て対策を考えればいい。


こっちのブロックではまず、マリーさん対策を考えて、それからダニーとランス少尉の両面に備え、最後に準決勝であたるであろうパイソンさん対策だな。


さてさて、反対ブロックはどんな感じですかね?


第五試合、ロックタウン代表、ウェズリー・ハウ筆頭保安官 VS 10番隊代表「不動のインモビリティ東風西雲こちせいうん少尉。


最小限の足裁きは雲の様に捉えどころなく、動く時には風の如し。武者修行の為に世界を旅していたが、大師匠のお世話をする為に帰って来たセイウンさんはシグレさんの兄弟子で、継承者候補にも上がったコトのある強者。保安官には悪いけど、全く勝ち目はないだろう。


第六試合、07番隊代表「啄木鳥ウッドペッカー」レティシア・フィネル少尉 VS オプケクル師団代表「砂女オタマチ」アシリレラ少尉。


フィネル少尉は啄木鳥の異名通り、刺突剣エストックの名手でトッドさん自慢の剣士フェンサー。対するアシリレラ少尉はリムセが"レラ姉さん"と呼んで慕う龍頭大島の先輩狩人だ。この対決は読めない。観戦するのが楽しみだな。


第七試合、御堂財閥企業傭兵代表「戦闘博士ドク・コンバット」ヴィム・グライリッヒ少尉 VS 05番隊代表「無表情スカーフェイス」マット・コリガン少尉。


グライリッヒ少尉は大学を飛び級で首席卒業したIQ150の天才。御堂財閥の戦術研究チームにいたが、恵まれた肉体も持っている。まさに文武両道のエリートだけど、興味が講じて自分の戦闘理論を実戦で試したくなった変わり種でもある。オレと同年のマットはイッカクさんの弟子で、弟子達の中でも一番期待しているという俊英、この試合も好勝負になりそうだな。


第八試合、02番隊代表「燕剣」此花サクヤ VS 「謎のマスクマン」ミスターX。


サクヤはいいとして……なんだよ、「謎のマスクマン」って……


……そういや、08番隊の代表がいない。……アビー姉さんの部下はみんな筋肉教の信者でプロレス大好き……


……はいはい、そういうコトね。謎のマスクマンの正体は隊長のアビー姉さんと副長のキーナム中尉以外の誰かッスか。ホント、陽気なエンターテイナーどもですね!


マスクマンが残る3人の誰かは知らんが、ポカさえ出なけりゃサクヤが勝つだろ。ジェット気流を利用して高速移動するサクヤは隊長、副長級の腕がなきゃ捕まえらんねえ。


組み合わせの考察はこんなもんかな。決勝の相手は今は考えなくていい。そこまで上がれるかどうかもわからないし、反対ブロックの試合の流れを見ながら考えても十分だ。決勝を戦う為にはパイソンさんに勝たなきゃいけない。たぶん、そこが最大の難関だ。


審判はゲストに呼ばれたストリンガー教官とクランド中佐で務めるのね。00番隊のマリーさんの試合は贔屓にならないようストリンガー教官が務めるだろう。クランド中佐は同じ00番隊所属だからな。


……フッ……こうやって組み合わせ表を見てるとトーナメントが楽しみになってきやがった。


格闘マンガをあらかた読破したオレは武芸トーナメントに憧れてて、一度やってみたかったらしい。




……格好の舞台が舞い込んできたんだ、やってやるさ。優勝するのは01番隊代表「剣狼」天掛カナタだ!



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